文献・研究等の収集と分析
2024年度研究
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子ども虐待に関する文献研究 子ども虐待の世代間連鎖
研究代表者名 久保田まり
1. 目的
子どもへの虐待行為が世代間で連鎖する傾向が強いことは広く知られているが、海外の研究では子ども虐待が世代間で連鎖する割合は30%程度と報告されている(眞田 2019)。本研究では、子ども虐待の世代間連鎖に関する文献を広く収集して、連鎖の実態に関する報告を渉猟するとともに、連鎖につながる要因やそれを防止する要因に関する知見についても概観する。
子ども虐待の世代間連鎖に関する実態調査は主に海外で行われており、我が国における実態把握は進展の途上にある。しかし、アタッチメント理論の視点から母親の愛着表象と子どもの愛着行動の間の関連を実証する研究(数井 2000)や、発達臨床心理学的視点から世代間連鎖の問題と援助的介入の方略について検討した論文(久保田 2009)が発表されており、我が国における知見が蓄積されつつある。
2024(令和6)年度から市区町村において「こども家庭センター」の設置が努力義務化され、児童虐待対応の施策における早期支援の重要性が増す時期を捉えて、子ども虐待の世代間連鎖に関する国内外の文献を集約して、子ども家庭支援の領域で実践及び研究に取り組む関係者に資することを期する。
2. 研究の内容
【海外の研究】
Ⅰ. 子ども虐待の世代間連鎖の比率と、いくつかの問題
子ども虐待が世代を超えて継続的に生起する比率については多くの研究蓄積があるが、方法論上の問題(回顧的研究、前向き縦断研究)、対象者の選択(代表サンプルになっているか)、統制群との比較の有無、虐待・ネグレクトの種別ごとの検証の有無など、多くの問題も挙げられている。
ここでは、主要な実証研究をあげ、上記の問題を整理した。
Ⅱ. 子ども虐待の世代間連鎖メカニズムを説明する主な理論的枠組みや研究分野
世代間連鎖のメカニズムについて、以下の代表的な理論的枠組みを概観した。
1. 社会的学習理論(モデリング学習など)
2. 社会的情報処理理論(社会的cueの受け取り方と反応の歪曲など)
3. 愛着理論(内的ワーキングモデルなど)
4. エピジェネティクスの視点(胎児期・乳幼児期の環境によるエピジェネティックな変化)
5. 情動制御の視点
Ⅲ. 子ども虐待の世代間連鎖に関するリスク要因と保護的要因(媒介要因・調整要因も含む)
子ども虐待や世代間連鎖は、単一の要因でなく、リスク要因と保護的要因の相互作用により生起する。ここでは、リスク要因と保護的要因について、ミクロの次元(個人の属性、親子の相互作用の質など)からマクロの次元(文化・社会的要因)のレベルで整理した。
Ⅳ. 子ども虐待の世代間連鎖に関する主な実証的研究
ここでは、主な実証的研究として、これまでの代表的な前向き縦断研究を概観し、得られた結果と考察、今後の研究への課題などを述べた。
Ⅴ. 世代間連鎖を断ち切るための心理臨床的な援助の実際
この章では子ども虐待の世代間連鎖を断ち切るための予防的援助と介入的援助について概観した。
1. 子ども虐待対応の基本原則
2. 予防的及び介入的援助のレベル
3. 援助の実際(二次予防と三次予防を中心に)
【国内研究】
Ⅰ. 精神分析的視点を中心とした子ども虐待の世代間連鎖
日本においては今なお精神分析的視点からの世代間連鎖論が影響力を持っていることが見て取れた。その論じられ方を、「世代間連鎖」をタイトルにした成書を中心に概観しつつ、精神分析以外の理論枠についても整理した。
Ⅱ. トラウマの視点からの世代間連鎖の問題(戦争や自然災害によるトラウマも含む)
子ども虐待の世代間連鎖は精神分析的視点やアタッチメント理論など、サイコロジカルな視点からミクロ次元で論及されることが多かったが、近年本邦において、戦争や自然災害など、地域全体が負うマクロ次元でのトラウマの影響について考察がなされるようになっている。この観点からの世代間連鎖の実態や機序と対応について整理した。
Ⅲ. メンタライジングの視点からみた子ども虐待の世代間連鎖と「連鎖の断ち切り」
メンタライゼーション(Mentalization)では、自分や他者の感情や意図(心理状態)を理解する能力(メンタライジング)に乏しい養育者が、子どもの感情やニーズを適切に認識できない状況下で虐待のリスクが高まり、世代間で連鎖すると捉えていることから、論文及び成書を通してそのメカニズムの理解および連鎖を断ち切るためのアプローチについて整理した。
Ⅳ. 家族療法の理論からの子ども虐待の世代間連鎖と家族療法的接近
家族療法の分野では、マレー・ボウエン(Murray Bowen)が多世代家族療法(Multigenerational Family Therapy)を提唱し、家族が抱えている問題には、過去の世代から受け継がれた行動パターンや感情的なつながりが影響していると考えた。ボウエン理論の鍵概念である「三角関係」や「自己分化」について解説するとともに、福祉現場における世代間連鎖に対するアプローチについて概説した。
