臨床・実践に関する研究(課題研究)
2023年度研究
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乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子どもたち―(第1報)
研究代表者名 武田 由(きょうと里親支援・ショートステイ事業拠点(ほっとはぐ))
1.目的
乳児院入所に至る子どもの中には、病虚弱児に加えて、虐待や不適切な養育によるアタッチメントやトラウマ等の心の問題を抱えた乳幼児が少なくない。これらの課題は、その後の健全な発達を阻害する要因ともなるため、特別な配慮を必要とする子どもたちであり、入所直後より、回復に向けた濃密な支援を行う必要がある。本研究は、こうした心の課題を抱えた乳幼児が、全国の乳児院にどれだけ存在し、どの程度の問題を抱えているのか等、アタッチメントやトラウマも含めた子どもの心の課題を把握する。また保育所等に通う乳幼児においては、乳児院に比べて心配な行動を見せる子どもは少ないと予想されるが、それでも一定数心配な行動をみせる子どももいると考えられる。そこで、乳児院・保育所それぞれの乳幼児の心の課題について実態を把握するとともに、両者の比較を通して尺度の妥当性の検討を行う。その結果を踏まえ、乳児院役割の重要性及び、支援体制を整える必要性について明らかにすることを目的とする。この目的のもと、2023年度は子どもの心の課題を把握できる項目の検討を行い、質問紙を作成した。
2.研究1
研究1では、既存の測定法の概観と子どものSOSサインデータの再分析を行った。測定法の概観から低月齢児に対して簡便に使用できる測定法がないことを確認した。また再分析からSOSサインの個数は妊娠期や入所理由から判断されるリスク、トラウマ反応、アタッチメントの阻害と関連しており、子どもの心配な行動を捉えていることが確認された。ただし、未回答や回答不可の割合が多い項目や子どもの日齢や調査時期で未回答・回答不可となりやすい項目も多く見られたため、項目表現の修正を行った。
3.研究2
研究2・3では、より現場で使いやすく役立てられるものにするために、予備調査として乳児院、保育園それぞれにヒアリングを重ねた。研究2では、研究1で作成した項目案を実際に乳児院・保育園の職員に示し、どのような行動を項目案からイメージするか、より適切な表現があるか等をヒアリングし、その内容を踏まえて項目を精査し、具体的な行動がイメージできない項目についてはより意味が通るよう表現に修正を加えた。
4.研究3
研究3のヒアリングでは、研究2で修正された項目をもとに質問紙を作成し、乳児院・保育園の現場の職員に実際の子どもについて試行実施を依頼し、項目の最終精査を行った。項目の具体例の提示の仕方から、情報収集が難しい場合や、月齢的に回答が難しい場合などのチェックボックスの追加など、回答のしやすさを追求し、より養育現場で使用しやすいように検討し、質問紙に修正を加えた。
5.総合考察
保育園では、乳児院と生活形態が異なるため、項目によって答えやすさや答えにくさに関する内容が異なる部分もあるが、問われている内容からその子どもが示す特徴をイメージし捉えることが可能であれば、ある程度の状態像を把握することが可能であると考えられた。乳児院の現場では、今回提示された項目については容易に具体的な子どもの姿が想起されたことからも、これまでに関わってきた子どもたちとその親、家族の支援を通じて、様々な経験が蓄積されていることが想像された。
本研究で検討してきた子どものSOSサインは乳児院で蓄積されてきた経験をもとに作成された子どもの行動のリストであり、それを元につくった項目群は子どもの心の課題について関係性の評価や子どもの体験に力点を置いたものとなっている。もちろんこの質問紙は子どもの状態像を全て網羅するものではない。しかし、このような項目が用意されることで様々な背景をもつ乳幼児を見立てる視点がより明確になり、それを第3者に説明したり理解を促したり、入職者の育成も含め視点を職員間で伝達していく上でも役に立つと考えられる。ひいては全国的に乳児院の子どもの状態像に関するデータを入所時から経時的に蓄積することで、乳児院がどのように機能しているのか、社会的に乳児院の現状を伝えるときの根拠ともなりうる。
来年度は、虐待や不適切な養育によるアタッチメントやトラウマ等の心の問題を抱えた乳幼児が全国の乳児院にどれだけ存在し、どの程度の問題を抱えているのか、今回作成した項目を用いて実態を把握する。