臨床・実践に関する研究(課題研究)

2022年度研究

  • 児童家庭支援センターにおける地域支援事業に関する研究ー要保護児童に対する児童家庭支援センターの在宅支援の現状Ⅱー

    研究代表者名 武田 玲子(明治学院大学社会学部)

    (1)目的
     2021年度の研究結果で、児家センの課題として、「専門性」「人材不足」「運営費」が指摘され、実践可能な方策としては、行政や関係機関との「連携」、「専門性の確保」「児家セン間の交流」等が導き出された。
     本研究では、その点を踏まえ、専門性の向上と支援方法の共有を研究目的とし、自治体規模別にフォーカス・グループインタビュー(以下FGI)を実施し、量的質的に分析し、在宅支援プロセスを明らかにする。FGIを参考にアセスメントシートと支援計画票を作成し、児家センにおける支援方法を共有化するため、モデル事例を作成し、アセスメントと支援計画を検討するワークショップを実施する。事前事後アンケートにより効果測定を行い、専門性向上に寄与したかどうかについて検証する。

    (2)方法
     自治体の人口規模別(①政令市、児童相談所設置市②人口30万人以上、30万~10万人の市③10万人以下の市町村)に3回オンライン(Zoom)でFGIを実施した。インタビューガイドに基づき、半構造化面接によるFGIを各回約90分行い、Zoomで録音し逐語化したうえ、量的質的に分析した。
     モデル事例は<育児不安>、<発達障害児支援>、<ショートステイ>、<一時保護所解除後>、<家族再統合>、<里親支援>の計6事例について、アセスメント票と支援計画票を作成するグループワークを3回実施し、前後でアンケート調査により効果測定を行った。

    (3)結果
     FGIの結果、児家センの在宅支援プロセスとして、次の特徴が見られた。
     ①開始経路について:〈市・区からの依頼〉が共通。
     ②インテーク:複数での対応、並行面接等〈面接の配慮〉が共通。配慮内容には相違。
     ③アセスメント:子どものアセスメント、養育状況のアセスメントは共通して実施。定期的アセスメントの実施等に関しては、課題あり。
     ④要保護児童への支援の特徴:〈児相の指導委託、市区からの依頼〉〈書式の統一等システム〉。
     ⑤支援の実行:人口規模により支援状況は異なる。サービス利用への抵抗感、支援メニュー、ショートステイの利用、終結、アフターケアなど異なる状況。
     ⑥ネットワーク:〈市区町村・児相との連携〉〈関係機関と連携〉は共通。コーディネート機能については、子どもと保護者の参画、行政への助言など課題あり。
     ⑦支援効果:児家センは行政と比較して、〈柔軟な対応により支援関係の構築〉がしやすい。
     ⑧人材育成:人材定着や不足などの課題があり、〈新人職員の育成〉が必要。
     モデル事例の結果は、FGIと同様、子ども、母親が主な支援対象で、ひとり親、ステップファミリーの事例が支援対象であった。支援計画票をみると、保護者と子どもに対して相談支援に限定されず、心理的支援、直接的支援が組み合わせて実施されている。行政による相談、児相の一時保護や施設措置とは異なり、児家センによる在宅支援では、保護者と子どものニーズに合わせて、柔軟に支援組み合わせて実施できる可能性が見いだされた。

    (4)考察
     本研究では、FGIにより児家センの在宅支援プロセスと人口規模による支援状況を明らかとし、次にモデル事例を一緒に検討することで児家セン間の情報共有が促進し、支援方法の幅が広がるなどの意見があり、一部の事例では専門性の向上に寄与することが示唆された。今後、専門性の確保のためソーシャルワークを伝承するシステムを児家セン間の協力により作っていくことが望まれる。地域特性を生かしながら、在宅支援メニューの平準化を図る事は今後の残された実践課題であり、研究課題である。

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  • 周産期からの早期支援における市町村の母子(親子)保健と児童家庭福祉の連携・協働

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    1. 目的
    児童虐待防止法の制定以降、児童相談所を中心に児童保護の体制強化に力が注がれてきた。一方で、虐待による死亡事例の多くが0歳児であることから、周産期からの虐待予防の重要性が認識され、特定妊婦や要保護児童等に限らず、すべての親子を対象に市区町村の母子(親子)保健と児童家庭福祉との協働による予防的早期支援の強化が求め進められつつある。市区町村の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターの統合的整備もその一環と言える。しかし実際には、多くの市区町村で、児童家庭福祉と母子(親子)保健との連携・協働には、多くの課題がある。
    本研究は、市区町村の児童家庭福祉領域と母子(親子)保健領域との連携・協働に焦点を当てた。良好な連携・協働を難しくしている要因がどのようなものか、さらには連携・協働を促進する視点や取り組み等を見出すことが大きなねらいである。そこで本研究では、連携・協働の重要性を認識し、様々な課題があることを自覚しつつ、より良い在り方へと努力している複数の市区町村にヒアリングを行い、過去から現在において連携・協働を行う上で妨げになっていた(いる)問題や課題を抽出・整理することを第1の目的とした。さらに、「課題の解決に向けた取り組み上の工夫」や「連携・協働に有効な取り組み」について検討、整理し、提示することを第2の目的とした。
    2. 研究の内容
    ヒアリングを行ったのは母子保健の連携・協働に取り組んでいる、大規模型1箇所、中規模型3箇所、小規模型5箇所の市区町村であった。各市区町村につき、母子保健担当保健師・児童家庭福祉担当職員のそれぞれ1~3名ずつを対象とした。①連携・協働に関する現在の取り組み状況、②連携・協働の妨げになっていた(いる)課題、③課題の解決に向けた取り組みの工夫と効果について尋ねた。 
    逐語録を作成し各市区町村に確認を得た上で、以下の2つの方法で結果をまとめた。まず、全市区町村で共通してみられる取り組みや工夫、課題を検討するため、テキストマイニングによる分析をおこなった。その結果、「一緒‐行く・訪問・入る・動く」「顔‐合わせる・関係・見える」といった語が話題内・文章内で共起することが多く、顔の見える関係の中で必要に応じて一緒に家庭訪問に行ったり、支援したりしていることが語られた。また、連携・協働を阻害する要因を探るため、「課題・難しい・問題」を含む文を抽出し共起ネットワークを検討したところ、「情報‐共有‐ひとつ」や「人材‐確保」といった語のつながりがみられ、情報共有システムの統合や、それをどのように行うべきかに関する課題や、異動があるなかでも中で連携・協働を引き継いでいくことの難しさや人材育成・人材確保が課題として挙げられた。次に、市区町村ごとに組織体制や連携・協働の現状や効果的な取り組みや工夫について組織体制・姿勢・情報共有・アセスメント・支援方針の検討・支援・人事といった観点からより具体的な取り組みを整理した。

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2021年度研究

  • 児童心理治療施設のアタッチメントを核とした治療的支援の体制作りの評価に関する研究(第1報)

    研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学・大学院教育学研究科)

    Ⅰ.
    【目的】
     施設入所児童の特徴として,被虐待経験の多さが注目されてきた。被虐待経験に起因するアタッチメントの問題は大きく,虐待と無秩序・無方向型のアタッチメント(D型)の関連も指摘されているところである(Baer & Martinez, 2006)。また,そういった子どもたちが安定したアタッチメントを築き,適応的に発達を遂げられるよう,アタッチメントの観点から支援の在り方を模索することが有効であるという主張もなされている(Harder, Knorth, & Kalverboer, 2012; Hawkins-Rodgers, 2007; Moses, 2000)。しかし,先行研究ではアタッチメント理論が誤解され運用されている例も報告されており(McLean, Riggs, Kettler, & Delfabbro, 2013),慎重に検討する必要性があると考えられる。そこで本レビューでは,児童期のアタッチメントに関する議論を概観しながら,その知見が施設児と支援者の関係性形成にいかに貢献出来うるかを検討していくことを目的とする。

    【方法】
     児童期のアタッチメント,施設入所児童のアタッチメント,被虐待児のアタッチメント研究について,先行研究のレビューを行った。

    【結果と考察】
    児童期のアタッチメントについて
     児童期においても,アタッチメントは発達の様々な側面に大きな影響を及ぼしている(Kerns& Bumariu, 2016)。しかし、児童期には、アタッチメント対象への物理的な接近ではなく、表象レベルでの接近が可能になるため(Kerns et al, 2007)、観察が困難であり,測定法の工夫が求められる(Kerns et al., 2017)。また、被虐待児はアタッチメント行動として、防衛的な方略を取っていることも想定され(工藤,2020)、そういった攻撃性とも見受けられる様々な行動や反応が,職員とのアタッチメント関係の構築にネガティブに作用している可能性が示唆された(Howes & Segal, 1993; Jeanette & Judy, 2013)。
    施設でのアタッチメントに基づく支援について
     アタッチメントの観点から,そういった入所児童の不適応的な行動の背景には,子どもたちの不安や恐れの活性化があることが想定された。そのため,問題とみなされる行動の背景にある子どもの情動状態に目を向け,それらに対処していく支援の在り方を考えていく枠組みを施設全体に共有することが,職員と入所児童のアタッチメント関係形成のための1つの可能性として挙げられた。母親以外の人物がアタッチメント対象となりうることも指摘されており(Howes et al., 1988),施設職員も施設児のアタッチメント対象となりうると考えられた。さらに,養育者と1対1の関係性が基本的に保障されている家庭とは異なり,施設では職員と入所児童の関係が多対多であるという特徴を取り上げ,同時点同空間に複数の支援者と子どもがいる環境において,支援者の情緒的利用可能性がいかに高められうるかについて,今後検討していく必要性が指摘された。また,それに関連し,施設を含む,複数の機関の連携に関して,施設内外の支援者の情緒的利用可能性を高めるために,共有する必要のある情報を,洗練し検討する必要性も見出された。
    展望
     施設入所児童や被虐待児のアタッチメントシステム,circle of securityがどのように適応的に機能するようになるかに関する研究は,いまだ少ないと言える。今後の研究では,こういったテーマについて,複数の支援者と複数の児童が生活している施設という環境の特異性に配慮しながら検討していく必要があるだろう。

    Ⅱ.
    【目的】
     児童心理治療施設は、家庭環境等の環境上の理由により社会生活への適応が困難となった児童に対して、社会生活に適応するために必要な心理に関する治療、及び生活指導を主として行う施設である。90年代後半以降、被虐待児の入所が急増し、この10数年は入所児童の約8割を被虐待児が占めるようになっている。被虐待経験に起因するアタッチメントの問題は大きく、虐待と無秩序・無方向型のアタッチメント(D型)の関連も指摘されている(Baer & Martinez, 2006)。また、そういった子どもたちが適応的に発達を遂げられるよう、アタッチメントの観点から支援の在り方を模索することが有効であるという主張もなされている(Harder et al, 2012; Hawkins-Rodgers, 2007; Moses, 2000)。しかし、被虐待経験があり、児童心理治療施設に入所している児童期の子どものアタッチメント行動を、具体的に記述した研究自体がそもそも少ない。そこで本研究では、施設入所児童の具体的なアタッチメント行動の実態について明らかにすることを目指し、児童心理治療施設入所児1名の当直資料の分析を行った。

    【方法】
     分析資料 A県内の児童心理治療施設に20XX年4月に入所した、9歳の児童についての、当直資料の記述を用いた(20XX年4月~20XX年9月)。当直資料は、職員が情報共有のため、毎日作成しているものであり、各児童についての記述がある。
     手続き アタッチメント理論に照らし、分析資料の中から、児童のアタッチメント行動と解釈されたエピソードを抽出し、整理した。エピソードの抽出は、アタッチメント理論に精通した大学院生3名が行い、特に児童期という発達段階である点、そして被虐待経験を有する点に配慮した。
     倫理的配慮 本研究は、東京大学倫理審査専門委員会において承認を受けた(承認番号 21-25)。

    【結果と考察】
     分析資料を整理した結果、被虐待経験を有する入所児童のアタッチメント行動として、「A. 未熟な言語運用」「B. 過度な接近」「C. 応答せざるを得ない振る舞い」「D. 矛盾した発信」「E. ストレートな表出」の5つのカテゴリーが抽出された。
     今回検討した、児童心理治療施設の児童1名のアタッチメント行動は、大きく5つのカテゴリーに分類されると考えられた。例えば、ネガティブな情動が喚起されていると解釈された場面における、児童の具象的な言語表出は、言語運用が比較的流暢になってくる児童期に生じやすい、職員と児童の齟齬を招く例であるとも見受けられた。また、施設職員が応答せざるを得ないような、激しく攻撃的な行動や、職員には児童の意図するところが理解しがたいような、矛盾した発信は、職員から援助を引き出すことを難しくしてしまっている可能性が見出された。一方で、被虐待経験を有する子どもであっても、職員からの応答が得られやすいような、ストレートな表出をしている場面も見られた。
     限界と今後の展望 本研究では、児童期かつ、被虐待経験のある子どものアタッチメント行動を分析する目的で、当直資料を活用した。しかし,、夜間帯の資料であるため、安全基地から探索行動に向かう記述は得られにくいという限界があった。そのため、今後は施設全体の生活に広げて、アタッチメント行動の抽出を試みていきたい。

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  • 児童家庭支援センターにおける地域支援事業に関する研究―要保護児童に対する児童家庭支援センターの在宅支援の現状―

    研究代表者名 武田 玲子(明治学院大学)

    (1)目的
     児童家庭支援センター(以下児家セン)の地域支援事業の現状と課題を共有し、全国統計から経年変化を分析したうえ、全国児童家庭支援センター協議会の協力のもと、児家センの職員に対してアンケート調査を実施し、児家センの地域の支援状況を明らかにする。本研究では、要保護児童に対する児家センの支援状況を検討するとともに、地域支援ネットワークの中で有用な機能を展開させるための体制や方策を見出すことを目的とする。
    (2)研究方法
     報告書の第1部にまとめてあるが、全国児童家庭支援センター協議会の統計をもとに経年変化、次に共同研究者が所属している3か所の児童家庭支援センターによる先駆的な実践状況(通常の児家セン事業に加えてショートステイ事業など実施)について報告している。
     報告書の第2部においては、全国の児家センと児家セン職員へのアンケート調査を報告した。共同研究者と討議し、全国児家センの職員に対するアンケート調査票の質問項目を作成した。 8月に全国児童家庭支援センター協議会の協力のもと、153か所の児家センに所属する児家セン職員812名にアンケート調査を送付した。
    (3) アンケート調査結果
     全国の児家セン137か所(87%)、児家セン職員812名中624名(76%)の回答があった。アンケート調査について量的分析を行い、自由記述についてはテキストマイニングによる量的分析、定性分析により質的分析を行った。
     概要としては、児家セン職員の携わっている率の高い仕事としては「保護者相談、カウンセリング」「関係機関との情報交換」であり、町村を除き「市町村との連絡調整」であった。児家セン職員としてニーズが高いと指摘した事業はすべての自治体規模において「育児不安等の相談」が上位にあがっている。政令市・児童相談所設置市の特徴としては、「ショートステイ・トワイライトステイ」のニーズが高く、一方、その他の地域で高いと考えられているニーズは「不登校支援」「発達相談・療育」などであった。
     児家センの職員が特徴的支援として挙げているのは、「アウトリーチ」「食支援を通しての相談」「子育てサロン、講座等地域での子育て支援」「レスパイト」「心理的支援」「子どもへの直接的支援」「里親支援」「要保護・要支援児童への支援」「地域による様々な支援」であった。
     児家センの課題としては、職員の年代役割を問わず、「専門性」と「人材不足」があげられ、その改善のためには「運営費」の改善が指摘されていた。
     実践可能な方策としては、行政や関係機関との定期的な協議会などの「連携」、相談員や心理職の専門性に応じたスーパービジョンなどの「専門性の確保」、地域ブロックごとの「児家セン間の交流」等が導き出された。
    (4)考察
     アンケート調査からは、自治体規模により、職員が考えるニーズに違いがあるという結果であり、地域の社会資源の状況により、異なる傾向がうかがわれた。人口規模が多い地域ではショートステイ等レスパイトのニーズが高く、人口が少ない地域では包括的な支援が児家センに求められる傾向がみられた。
     現状では、地域による偏りや専門性や人材についての課題があるが、児家セン職員によるアウトリーチ、食支援、子育て講座、育児不安の相談などから孤立する要保護児童への緩やかな介入が行われていた。そこから心理支援、レスパイト、子どもへの直接的支援につなげていく可能性があることも明らかになった。
     今回、第1部で報告した先駆的な実践内容、また第2部でまとめた研究結果について、全国レベルで活用されていくことが要保護児童への地域での支援の充実につながると考える。さらに具体的な児家センにおける支援方法を共有していくことは残された研究課題でもある。

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  • 地域での早期支援における保育所の役割と課題

    研究代表者名 久保田まり(東洋英和女学院大学)

    1. 目的
    「児童虐待の防止等に関する法律」や「保育所保育指針」において、保育所保育士は児童虐待を早期に発見する位置にあり、通告の義務、および虐待防止に努めることが明示化されている。しかし、保育現場においては、家族による虐待への明確な確証が持てないことや保護者との関係維持に対する保育士の不安が指摘されている(灰谷、2017)。保育所は児童虐待ケースの受け皿(子どもの安否確認、発達保障、親への養育支援)になることが期待されており、児童虐待の対応や防止、親子支援の役割が求められているが、保育士の不安や苦慮は高く(笠原ら、2011)、また、ネグレクトや心理的虐待は保育士に認識されにくい実態がある(石清水ら、2012)。以上を踏まえ本研究では、顕在化しているケースと共に、虐待リスクを持つ潜在化している親子をも保育士が早期に発見し、保育所が組織的に対応する上での課題を検討することを目的とした。
    2. 研究の内容
    (1) 方法
    ① 対象
    東京都、神奈川県、大阪府、愛知県の公立・私立保育園および子ども園の保育者19名。
    ② 調査方法
    面接法を採用した。具体的には、一人1時間半前後の半構造化インタビューを実施した(対面およびオンライン)。
    ③ 調査内容
    【要保護・要支援の子どもと親について】【グレーゾーンの子どもと親について】【園内での連携】【他機関との連携】【保育士の先生ごとの捉え方】【保育現場に必要とされる支援】について、具体的に聞き取るための質問項目を設定し、インタビューガイドを作成して行った。
    ④ データ分析の手続き
    インタビューの全ての音声データの文字おこしをし、テクストデータ化した。インタビュイーごと及び質問項目ごとのテクストデータをKJ法によって分析した。
    具体的には、文字おこしをしたローデータについて、質問項目ごとに、意味あるセンテンス部分を抽出・「切片化」をし、「一行見出し」を付けるまでを一次分析とした。次に、得られた「一行見出し」を類似性、共通性、近接性に基づいてグルーピングをし、グループごとに「名札」をつけるまでを二次分析とした。それらを、さらに高次のクラスターとしてまとまる場合は、まとまりをつくり、「表札」をつけるまでを三次分析とした。
    ⑤ 倫理的配慮
    インタビュー調査に先立ち、各園の施設長と保育士の先生に事前に研究目的と内容、具体的なインタビュー項目について丁寧に説明した。加えて、インタビュー内容の録音の可否についても確認をしている。その上でインタビュイーとしての協力に承諾を得た場合に、インタビューを実施した。インタビューの途中での中断、及び答えたくない質問には答える必要は無いこと、そしてそのことによって何ら不利益を被ることは無いこと等々、倫理的配慮についても十分な説明をして同意を得ている。なお、本研究は、研究代表者が所属する東洋英和女学院大学の研究審査委員会において研究倫理の審査を受け、承認されている。
    (2) 結果と考察
    要保護/要支援の子どもについて、日中の保育と観察を保育園に依頼し、保育園が受託する過程及びその後の継続的連携は、児童相談所や市・区の行政と連携が出来ている地域と、あまりできていない地域とのかなりの差が見られた。また、在園児について、例えば、母親の友人が児相に通報し、身体面の観察を通した虐待の有無を児相が保育園に確認するなどのケースも見られた。
    対応ケースとして、増えてきているのが、要保護/要支援までは行かぬものの、親側のメンタルな問題、一人親家庭、内縁関係のパートナーとの不和、経済的な厳しさ、親の性格傾向(他罰傾向など)や子育て観等々に起因して生じている「不適切な養育に近い」子どもへの対応の問題が挙げられた。いずれの場合も、保育者は、親を責めることなく、むしろ、親の聞き役や相談相手的な立場をとっていることが多かった。また、両親ともに専門職で、知的にも経済的にも安定している家庭においても、不適切養育のリスクが存在していた。
    不適切養育のリスクのある子どもでも(子どもほど)「毎日保育園に通ってさえいれば」食事や睡眠(午睡)、保育者との安定した関係性、遊びの時間など、安心安全な空間と時間が持続的に提供される。そして保育士との一貫した個別的関わりを通した愛着がはぐくまれる。そのため、保育士は、とにかく子どもが毎日保育園に通園し、保育園での生活の中で様々な経験をし、習慣を習得し、発達していくことへの支援を最重要視していた。
     気になる子どもについて、担任のみならず、保育園全体、保育士全員で定期的ミーティング等の場で共有をしている保育園は、担任や若手保育士が抱え込まないように、園長先生、主任先生が組織作りをしていることが一つの特徴として挙げられる。
     保育園、保育士自身に求められる支援としては、(定期的な巡回相談ではなく)いつでも相談できる心理職やSWからのコンサルテーション、加配の充実、児相・市区の行政・要対協などとの情報共有と緊密な連携と相互支援などが主として挙げられていた。
     調査項目ごとの具体的な結果や、それらを踏まえた考察については、研究報告書に詳述している。

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2020年度研究

  • 児童相談所の保健師のあり方に関する研究

    研究代表者名 中板 育美(武蔵野大学看護学部)

    1 問題と目的
     保健師が児童相談所の基本的機能である相談援助活動:調査、診断、判定(アセスメント)、また援助方針を定めるプロセスにおいて保健師の専門性を用いてどのような活動をしているのか、どのようにそれを発揮しているか等について、現在または過去に児童相談所で活動経験のある保健師と児童相談所で保健師と活動経験のある児童福祉職双方の語りから導き出し、その結果を参照した児童相談所の保健師の活動のガイドラインを作成することを目的とした。
    2 研究報告の内容
     全国の児童相談所で活動しているまたは活動経験のある保健師と、保健師と活動を共にした経験のある児童福祉職に、フォーカス・グループ・インタビュー(以下FGI)を実施し、以下の点を明らかにした。
    ➀ 児童相談所内での保健師の位置づけ
     保健師として配属されている場合と、児童福祉司として配属されている場合もあった。保健師として配属されている人は地区を持たず、児童相談所内で保健師として必要な活動を行っていた。児童福祉司としての配属の場合は、地区を持ち、ケースワークを児童福祉司と同じように行っていた。
    ② 保健師の児童相談所での活動について
     まず〈保健師の居場所づくり〉や〈児相特有の用語に慣れなじむ〉など【児相の中で児童福祉司・保健師が共存できる体制をつくる】ことから始め、〈保健師と児童福祉がチームとなり切磋琢磨して視野を広げる〉ことができるようにしていた。保健師は、自らの専門性を児童相談所内で発揮するため医療機関との関係に力をいれ、児童相談所保健師として〈医師に必要なことを確実に伝える〉などを行い【医療機関と児相の橋渡しする】、【地域の医療機関とのネットワークづくりを進める】ことを行い、医療との連携を強める役割を担っていた。また児童相談所管内の地域全体を視野に入れ【市町村(地域)を底上げし、児相との連携を円滑にする】ことを行っていた。さらに〈児相で行っている支援を見える化していく〉ことを行い、児童相談所としての取り組みを職員に示し、【児童相談所の人材育成に貢献する】ことも行っていた。このような支援においては、保健師がこれまで地域活動のなかでで培ってきた【地域の社会資源をつくる】、【先手必勝(予防)の意識をもつ】、【関係機関、家族との関係づくりを主体に動く】、【健康問題を切り口に支援を広げる】、【思春期の子どもたちに丁寧にかかわる】活動を児童相談所のなかで発揮しながら進めていた。
    ③ 児童福祉司から見た保健師の児童相談所での活動について
     保健師が児童相談所で活動するにあたっては、児童福祉司は、保健師が児童相談所で専門性を発揮してほしいこと、また異なる視点をもつ専門職が組織には必要ということから【お互いの専門性を理解し、児相という組織としての動きをつくる】ことを意識していた。その中で保健師について【基礎的な教育の積み上げから発想できる】人材と考え、【保健分野において培った専門性を発揮する】ことを期待していた。児童相談所における具体的活動については、【医療機関と児相の橋渡しをする】ことや【医療的なアセスメントと支援ができる】など医療との連携における役割を期待していた。また地域の市町村や保健所、市町村児童福祉担当部署を把握しているという強みを活かし【市町村(地域)を底上げし、児相との連携を円滑にする】ことを望んでいた。そして保健師の人材育成についても【児相での経験を保健師のキャリアアップに活かす】ことを期待していた。
     以上の示唆をもとに、「児童相談所での保健師活動ガイド」を作成した。

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  • 児童相談所における保健師の活動ガイド

    研究代表者名 中板 育美(武蔵野大学看護学部)

    「児童相談所の保健師のあり方に関する研究」の中で作成されたものです。

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2019年度研究

  • 乳児院養育の可能性と課題を探る -現代発達科学的視座からの検証-(第3報)

    研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学大学院)

    1 目的
     現在、乳児院に入所してくる子どもの相当数が、入所時点で既に重篤な発達リスクを抱えており、逆に心身に医療的課題を持たない子どもは、半数にも満たないという状況がある。また、入所時に顕在的な問題を有さない子どもでも、虐待やネグレクト等の不適切なあるいは劣悪な環境下で過ごしてきたことが疑われるケースが少なくなく、総じて、入所児の発達状態は入所段階から、定型的環境で成育している子どもと比して、低水準にとどまると言わざるを得ない。実態として、乳児院の多くは、そうした子どもに対して専門的なケアを施し、その発達の改善を図り、また実現していることが想定される訳であるが、一般的に、退所時の発達状態のみをもって、乳児院で成育してきた子どもの発達は「著しく遅れ、また歪んでいる」と安易に判断されてしまうという社会的状況があることは否めない。本来、乳児院における子どもに対するケアの評価は、個々の子どもが入所時から退所時にかけていかに変化し得たかということをもってなされるべきであるが、退所時の子どもの状態が一般的な子どもの標準値に比して低いということだけから、乳児院養育の機能が不当にも過小評価されてしまっているという由々しき事態がある。もっとも、これについては、これまで日本の乳児院全体で、入所児の成長発達を共通に捉え得る標準的なアセスメント・ツールがなかったことも一因として考えられる。本研究は、入所児の成長発達を共通に捉え得る標準的なアセスメント票を作成し、乳児院入所児の6か月間の心理社会的は状態像の変化をとらえることを目的とする。
    2 方法
     全国の乳児院139施設にアセスメント票を送付し、63施設からの返送があった(返送率45.3%)。調査対象児は2019年8月-9月上旬に乳児院に入所した113名であった。その内107名を分析対象とした。調査は対象児が入所した前後1週間以内と退所する前後1週間以内、入所継続の場合は2月中旬に実施するよう依頼した。
    3 結果・考察
     入所時点での子どもの日齢は平均192.6日であった(SD = 248.55 Range 4-1183)。調査期間は平均147.8日であった(SD = 50.06 Range 22-213)。入所時点と最終時点を比較した結果、発達領域の二項関係、社会性、社会的認知、情動発達、自己・自我発達において得点が高くなっていた。一方でトラウマや子どものSOSについては、低月齢のトラウマにおいてのみ入所時点から最終時点にかけて有意な減少がみられ、子どものSOS領域については心理的領域においてのみ、減少がみられたが有意傾向であった。ただしトラウマ・子どもSOSについては入所時点から得点が低くとどまっていた。担当養育者にたいするアタッチメントについては入所期間中に、安全基地因子の得点が増加し、脱抑制型対人交流障害傾向と反応性アタッチメント障害傾向については入所時点よりも調査終了時点で低くなっていた。以上から数か月という短期間であっても、乳児院入所児は、入所中に担当養育者とアタッチメントを形成し、心理社会的に発達をしていることが示唆された。

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  • 市区町村における子ども家庭相談実践事例に関する調査研究 (第2報)

    研究代表者名 川松 亮(明星大学人文学部)

    1 目的
     2016年の児童福祉法改正により、市区町村における身近な子ども家庭相談の役割が重要視されるようになり、そのための市区町村相談体制強化が図られた。具体的には、市区町村に子ども家庭総合支援拠点を設置することとし、その人員配置基準が示された。一方、従来の市区町村の子ども家庭相談体制は十分な人員配置がなされておらず、相談業務の遂行に課題を抱えている自治体も見られた。国によって示された子ども家庭総合支援拠点の整備にはまだ時間がかかるものと想定される。
     そこで、支援拠点を設置して相談体制を強化している自治体を中心に、相談体制の整備状況についてヒアリングし、要保護児童対策地域協議会の取り組みや子育て世代包括支援センターとの関係を含めて、相談体制整備に向けての経緯や工夫点、さらには課題を聴き取り、その情報を整理して全国の市区町村相談体制充実強化の参考とするため本調査研究を実施した。本年度は2年計画の2年目であった。
    2 方法
     共同研究者の協議により、子ども家庭総合支援拠点(以下、拠点)と子育て世代包括支援センター(以下、センター)を整備している自治体を中心に、取り組みが進んでいるまたは取り組みに特徴があると考えられる自治体を選択した。結果的に、拠点の小規模A・B型、中規模型、大規模型から1か所ずつと総合支援拠点を未設置の自治体を選定した。ヒアリングは、事前に体制整備状況に関するアンケートへの回答を求め、事業概要等の関連資料の提供を求めたうえで、共同研究者2名が訪問して実施した。ヒアリング自治体に対しては、自治体名を明記して報告書を作成することを前提に、承諾を得たうえでヒアリングを実施し、個別事例情報は聞かずに相談体制を中心として聴き取りを行った。報告書の原稿は該当自治体の確認修正を経て作成した。
    3 結果・考察
     長崎県長与町では小規模自治体の特性を生かし、同じ母子保健係の中に拠点とセンターが置かれていた。自治体としての相談支援体制強化を検討しているところに国による拠点の施策化が重なり、それを利用する形で早期の拠点設置を行った。栃木県日光市は、行政と民間団体とが一体となった相談支援体制を構築していた。市から事業を委託する形で市の相談窓口を官民が共同で運営し、相談対応も一体となって行っていた。北海道千歳市は若い子育て世代が多く、転出入が多い地域特性のため、子育て支援施策が充実していた。同市では、児童相談所が受けた虐待相談についても市が受理して調査を実施しており、児童相談所との同行件数が多く、市として積極的に関与していた。東京都調布市では、子ども家庭支援センターを事業団に委託する形態で相談支援を構築しており、拠点役割も同センターが担っていた。岡山県倉敷市は人口規模が大きいため、市内を5地区に分け相談員は地区ごとに2人チームで対応する体制となっていた。進行管理会議も5地区に分けて、それぞれおおむね月1回開催していた。
     今年度のヒアリング対象自治体の内、2自治体で民間団体への委託が行われていた。そのことにより、支援の幅が広がり、きめ細かく融通が利く取り組みが可能となっていた。また民間団体に長期にわたって関わっている専門人材を活かすことで、自治体の専門性の強化にもつながっていた。一方で情報連携の点では、整理すべき課題があると思われる。
     それぞれの自治体において、地域の特性を踏まえ、自らの子ども家庭相談支援の取り組みを進めるために何が必要なのかを考え、自治体の事情に合った仕組みを創り出していた。拠点だけで支援が進むわけではなく、協議会をいかに活性化し、実効性のある機関協働を構築しいていくかも問われている。各自治体がそれぞれの子ども家庭福祉システムを計画的に整備し、その過程で拠点の制度を活用したオリジナルな支援体制を構築していくことが求められていると言えよう。

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  • 児童相談所における児童心理司の役割に関する研究 (第2報)

    研究代表者名 菅野 道英(そだちと臨床研究会)

    1 目的
     本研究では、全国の児童相談所の児童心理司を対象に質問紙調査を行い、児童相談所における児童心理司が果たすべき役割や育成のあり方を明らかにすることを目的とする。その上で、今後、子ども家庭相談の現場において、心理職はどのような役割を果たすことを求めていくのか、そのための学びやスーパービジョンなど育成のあり方などについて提言を行う。
    2 方法
     質問紙で、児童心理司の役割および業務遂行による貢献感について聴取した。内容は、先行研究を参考に、現在、さまざまな立場で活動している児童心理司および児童心理司/児童福祉司経験者で構成される共同研究のメンバーで検討を行った。
     児童心理司の役割に関する質問項目は、①アセスメント業務、②心理的支援業務、③地域支援業務、④子ども虐待対応業務、⑤連携・スーパービジョン、⑥研修・事務的業務の6つの軸を踏まえて作成され、各役割の重要度と遂行度を質問した。
    貢献感については、子どもの安心・安全、子どものウェルビーイング、保護者への支援などを想定した。また、児童心理司の基本情報、職場状況などについても質問項目に加えた。なお、管理職と現場の両方の現状を把握するために、上記の質問紙は「所長用アンケート」と「児童心理司用アンケート」の2種類を作成した。
     全国217か所の児童相談所を対象に、郵送による質問紙調査を実施した。「所長用アンケート」は児童相談所長、「児童心理司用アンケート」は児童心理司に回答をお願いした。なお、200か所の児童相談所からの回答が得られ、回収率は92.2%であった。
    3 結果
     アンケートを量的に処理できる質問項目と自由記述の質問項目に分けて統計的な処理を行い、共同研究者が分担して考察を行い、総合的な考察と、福祉司経験者の視点から考察を行った。
     調査結果からは、以下の点が明らかになった。
    ・ 回答した児童心理司の経験年数は1年目・2年目が3割を超えており、若手が多い傾向にあった
    ・ 児童心理司の役割は、所長・児童心理司いずれの回答でも、6つの軸すべて重要であると回答する傾向にあった
    ・児童心理司の業務の貢献感についての児童心理司の回答は、所長の回答に比べて、貢献しているとする回答が少ない傾向にあった
    ・ 児童心理司に必要なこととして、所長は人材配置を重視する回答が多く、児童心理司は経験や職場環境の改善を求める回答が多かった
    4 考察
     児童心理司について、所長からは専門職として児童相談所業務に貢献しているという評価を得られているものの、個々の児童心理司は、十分に貢献しているとは感じていない状況がうかがえた。所長は、現在の職員の陣容と担うべき業務を視野に、適切にそして最大量の業務を行えているのかという視点で管理者(経営者)として、業務をとらえる。従って、「よくやってくれている」という回答になるものと思われる。個々の児童心理司は、初任者の比率が高いこともあり、先輩たちの仕事ぶりと比較すると十分に貢献できているとは言い難いと感じているという姿が想像される。また、療育手帳発行に伴う障害程度の判定などは、「こなさなければならない」、「やってあたりまえ」の業務として認識され、貢献感を低くしているものと考えられるが、これは現場の感覚からするとしかたないものと考えられる。
     今後の児童心理司の業務の実施と育成に関して、①児童家庭相談体制について、どのようなシステムを目指すのかを明確にすることが必要、②高度な児童家庭相談の専門機関が必要、③研修は現場のニーズに沿って、というような提案を考えた。

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2018年度研究

  • 市区町村における子ども家庭相談実践事例に関する調査研究(第1報)

    研究代表者名 川松 亮(子どもの虹情報研修センター)

    1.研究目的
     2016年の児童福祉法改正により、市区町村における身近な子ども家庭相談の役割が重要視されるようになり、そのための市区町村相談体制強化が図られた。具体的には、市区町村に子ども家庭総合支援拠点を設置することとし、その人員配置基準が示された。一方、従来の市区町村子ども家庭相談体制は十分な人員配置がなされておらず、相談業務の遂行に課題を抱えている自治体も見られた。国によって示された子ども家庭総合支援拠点の整備にはまだ時間がかかるものと想定される。
     そこで、支援拠点を設置して相談体制を強化している自治体をヒアリングし、併せて要保護児童対策地域協議会の取り組みや子育て世代包括支援センターとの関係も調査し、整備に向けての経緯や工夫点、さらには課題を整理することで、全国の市区町村の体制充実強化の参考とするため、本調査研究を実施することとした。
    2.研究方法
     共同研究者の協議により、子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターを共に整備している自治体を中心に、取り組みが進んでいるまたは取り組みに特徴があると考えられる自治体を選択した。子ども家庭総合支援拠点の小規模A・B・C型、中規模型、大規模型のそれぞれに属する自治体をヒアリングできるようにした。ヒアリングには共同研究者2名が訪問し、聴き取り内容を録音して逐語録を作成したのちに原稿にまとめた。ヒアリング自治体に対しては、自治体名を明記して報告書を作成することを前提に、承諾を得たうえでヒアリングを実施し、個別事例情報は聞かずに相談体制を中心として聴き取りを行った。報告書の原稿は該当自治体の確認修正を経て作成した。
    3.結果と考察
     訪問先の情報を例示すると、小規模Bにあたる三条市では、教育委員会に調整機関が置かれ、子ども・若者総合サポートシステムの中核となっていた。保健師も同一部署に配属されていた。こうした方法で、教育と福祉・保健との融合・連携が図られていた。また、小規模Cにあたる東近江市では、従前から子ども家庭総合支援拠点の人員配置基準を満たしていたが、支援拠点になることで専門職配置が可能となったと評価された。中規模の松戸市では、子育て世代包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点が同じ建物に入っていた。また、子育て世代包括支援センターにはブランチが置かれており、それぞれに社会福祉職が配置され、ハイリスクケースはその社会福祉職を通して子ども家庭総合支援拠点と協働する体制が構築されていた。
     全体として、子ども家庭総合支援拠点となることで大きな変化はなく、これまで行ってきた取り組みを継続するために活用している状況が見られた。市民向けに子ども家庭支援拠点という看板を示すメリットは特に示されなかった。しかし、子ども家庭総合支援拠点になることで、人員の質も量も確保向上できる点は評価されていた。ただ、補助基準額では常勤雇用が不足しており、自治体独自の予算確保がなされる必要があることが指摘された。子育て世代包括支援センターとの関係は、建物が異なる場合が多く、連携協働には課題が見られた。その中で、松戸市の子育て世代包括支援センターにおける社会福祉職の存在が有効と考えられた。
     いずれにせよ、自らの自治体の子ども家庭相談に責任を持ち創造的に構築しようとしている自治体は、国の制度を効果的に活用することが可能となったと考えられる。各自治体の担当職員の意欲や熱意によるところは大きいと思われた。
     本ヒアリング調査は次年度も継続し、2年間のまとめとして、今後の子ども家庭総合支援拠点や要保護児童対策地域協議会運営のあり方について考え方を整理して提示する予定である。

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  • 乳児院養育の可能性と課題を探る-現代発達科学的視座からの検証-

    研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学大学院)

    1.目的
     現在、乳児院に入所してくる子どもの相当数が、入所時点で既に重篤な発達リスクを抱えており、逆に心身に医療的課題を持たない子どもは、半数にも満たないという状況がある。また、入所時に顕在的な問題を有さない子どもでも、虐待やネグレクト等の不適切な、あるいは劣悪な環境下で過ごしてきたことが疑われるケースが少なくなく、総じて、入所児の発達状態は入所段階から、定型的環境で成育している子どもと比して、低水準に止まると言わざるを得ない。実態として、乳児院の多くは、そうした子どもに対して専門的なケアを施し、その発達の改善を図り、また実現していることが想定される訳であるが、一般的に、退所時の発達状態のみをもって、乳児院で成育してきた子どもの発達は「著しく遅れ、また歪んでいる」と安易に判断されてしまうという社会的状況があることは否めない。
     本来、乳児院における子どもに対するケアの評価は、個々の子どもが入所時から退所時にかけていかに変化し得たかということをもってなされるべきであるが、退所時の子どもの状態が一般的な子どもの標準値に比して低いということだけから、乳児院養育の機能が不当にも過小評価されてしまっているという由々しき事態がある。もっとも、これについては、これまで日本の乳児院全体で、入所児の成長発達を共通に捉え得る標準的なアセスメント・ツールがなかったことも一因として考えられる。
     こうした状況認識の下、本研究は標準的なアセスメント・ツールを作成し、全国の乳児院で入所から退所にかけての入所時の成長発達の様相を明らかにすることを目的とする。2018年度は、その試案に関して現場職員から広く意見聴取するとともに、それをいくつかの乳児院で試行実施してもらい、そこにおける課題の掘り起こしとそれに基づいた修正作業を重ねる中で、標準アセスメント・ツール(以下、発達票と表記)を完成させることを企図した。
    2.調査1 
    (1) 方法 全国乳児福祉協議会研修会のワークショップ参加者である乳児院で勤務する職員82名を対象に、発達票の実施をワークショップの一環として依頼し、発達票についての改善点を広く聴取した。
    (2) 結果・考察 各項目のワーディング以外にも、実際の月齢と項目が想定する月齢のズレによる評定の難しさや項目内での大人(担当養育者、大人、保護者など)の区別の難しさなどの困難があげられた。これらの意見をもとに発達票および手引き・マニュアルの改訂を行った。
    3.調査2
    (1) 方法 施設の2018年11月〜12月末日までに入所した児童を対象とし、入所時点および退所時点(入所継続の場合は2019年1月末)での発達票を実施した。32名についての返送があり、有効回答は26名分であった。
    (2) 結果・考察 「担当養育者」や「馴れている大人」はどの職員を指すのかという疑問点があげられた。また予備的ではあるが、数量的な分析を行い、信頼性・妥当性の検討をおこなった。
     心理社会的発達および子どものSOSサインについては概ね再検査信頼性がみとめられ、基準関連妥当性が示唆された。一方で、担当養育者へのアタッチメントについては、安全基地と無秩序・無方向型アタッチメント、反応性アタッチメント障害については2時点で弱い相関がみられ、有意ではなかった。またそれぞれの時点での相関の様相が異なっていたり、健常サンプルから予測される相関と異なったりする場合がみられた。これは、入所時の生育歴や2時点間での関係性の構築の中での変化に起因する可能性があるが、今回はあくまでも予備的であるため以降さらなる検討が必要であろう。また、1か月という短期間ではあったが、心理社会的発達、アタッチメントの安定性、安全基地行動の得点の増加、および子どものSOSサインと反応性アタッチメント障害の得点の減少がみられた。

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  • 児童相談所における児童心理司の役割に関する研究(第1報)

    研究代表者名 菅野 道英(そだちと臨床研究会)

    1.目的
     児童相談所(以下、児相)が行う相談業務において、子どもと家族の心理的アセスメントやケアなどで、児童心理司の果たす役割は大きい。しかし、その業務内容については明記されておらず、それぞれの設置自治体の事情により業務体制や内容も異なる。また、同一自治体内の児相であっても、管轄地域の基礎自治体との関係においても、業務内容が異なるなど、類型化して語ることの難しさが指摘されている。本研究は、子ども家庭相談の現場において、心理職に期待される役割、人材育成、スーパービジョンのあり方などについて、提言を行うことを目的とした。
    2.方法
     本研究を遂行するにあたり、児相でさまざまな立場で活動している児童心理司、および、児童心理司経験者を共同研究者として迎え、悉皆調査実施にむけた調査票作成のため、児相の現状について意見交換を行った。具体的には、児相における児童心理司の現状、他職種との連携、児童心理司の養成の現状と課題について検討した。
    3.結果
    ①児童心理司の現状
      児童福祉司の増員や配置基準が定められたことにより、児童心理司の採用も進み、現場には経験年数5年未満の職員の割合が高くなった。専門職として採用されたとしても、他職種へ異動する場合もあることから、配属された部署に関わらず、公務員として広い知識と経験が求められる。
      児童心理司の業務は、心理診断と継続的支援に大別されるが、相談件数の増加に伴い、既存のケースを継続することが困難になり、継続的支援の比率が低くなっていることが指摘された。
    ②他職種との連携
      児相内で児童心理司が他職種と連携する際の基本は、児童福祉司とのチームによる見立てと支援を行うことである。また、相談内容によっては、医師や保健師など他職種との協働も行っている。さらに、対外的には、児相の職員として他機関との連携を図るため、外部機関の会議に参加することも必要になっている。
    ③児童心理司の養成
      従来は、児童心理司は採用人数を低めに設定し、OJTを中心とした丁寧な個別指導により専門性の高い人材を育成する方法が採られてきた。しかし、昨今の児童心理司の急激な増員により、ベテラン職員が多数の新人を指導することになり、業務の遂行に支障をきたす事態も見受けられるようになっている。
    ④調査票設問テーマの検討
      先行研究を基に児童心理司の業務内容について分析を行うのではなく、児童心理司が支援現場で実際に経験していることを問える設問テーマとする。具体的には、a.児童心理司が自身の業務についてどのような認識を持っているのか、b.児童相談所の使命を果たすために、心理専門職としてどのような工夫をしているのか、c.児童心理司は自らをどのように評価しているのか、の3点が明らかになるような設問テーマを設定し、設問項目を検討した。
    4.考察
     児相は、その時々の社会的な課題に先進的に取り組み、社会システムの構築に貢献してきた。代表的なものとしては、設立当初は、戦後の戦争孤児対策にはじまり、障害児の早期発見・早期療育、不登校児の支援などがあり、非行に関する相談にも長年取り組んできた。平成7年頃には、児童相談所の役割として『3つのC』が提唱されていた。それは、①高度に専門的な指導・治療を必要とする事例や困難な事例の相談に応じるクリニック機能(Clinic)、②市区町村への情報提供や技術支援などのコンサルテーション機能(Consultation)、③広域ネットワークの核としてのコーディネーター機能(Coordinator)とされ、②③については新たな機能として専門の担当者を設置し、スキルを磨いていくことを課題とした。
     しかし、虐待の相談件数が増え続ける中、児相が児童虐待への対応に追われ、行政権限による介入が強調される状況がある。支援を担う部署や機関がお互いに協働し連携する支援体制整備が急務である。子どもの最善の利益を優先する支援を行うには、子どもの発達や心理療法に関する児童心理司の知識やスキルの果たす役割は大きなものがあると考えられる。その人材の確保と育成が課題となる。

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2017年度研究

  • 嬰児殺が起きた「家族」に関する実証的研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     日本の虐待死亡事例において犠牲になる子どもの年齢として最も多いとされるのが「0歳児」である。本研究では、『平成27・28年度研究報告書嬰児殺に関する研究』(以下、「H27・28年度嬰児殺研究」)の目的を一部引き継ぎ、母親が加害者となった0日児の虐待死亡事例を対象に、加害者である母親が置かれていた状況を明らかにするとともに、死亡事例をなくすために必要な社会的支援について検討することを目的とする。
     研究方法では、対象は「H27・28年度嬰児殺研究」の5事例(①~⑤)と、2008年度から2017年3月までの間に発表された地方自治体による死亡事例検証報告書から確認できた4事例(A~D)の計9事例である。分析方法には3つのアプローチを用いた。第1に、先行研究で指摘された社会背景をベースに、mvQCAを用いて、どのような社会背景が組み合わされると嬰児殺が起きるのかを析出した。
     第2に、ABC-X理論を用いて、対象事例に共通してみられる母親とその家族の生活状況と家族の問題解決のパターンについて検討した。第3に、エスノメソドロジーの視角から、母親が妊娠の事実を「誰にも相談しなかった」と理解されてゆく軌跡を検討した。以上より、加害者たる母親の置かれていた状況を捉え、死亡事例をなくすために必要な社会的支援について検討を行った。
     結果は、第1では、新生児殺に至る2つのパス(道筋)が析出された。具体的には、①家族生活に経済的な困窮があり、加害者(母親)が家族やパートナー(父親)に対して葛藤を抱え新生児殺がおきるというパス(7事例)、②経済的な困窮やプレッシャーはないが、加害者がパートナーや同居家族に対し葛藤を抱え新生児殺がおきるパス(2事例)だった。
     第2では、対象の5事例が3つのカテゴリーに分類された。具体的には、経済的困窮が背景にあり、①低所得を多就業によって補う家族で、子育てのパートナーは父親だが母親が出産・育児に経済的な負担から同居の祖父母に負い目を感じ犯行に至った型(2事例)、②貧困状況にあり、父親は不在で子育てのパートナーを母方祖母もしくは祖父が担う家族で、母親の性産業で家計を支える型(2事例)、そして、安定就業の家族だが、③父親の連絡が途絶え途方にくれた母親が妊娠を秘匿し、社会的不名誉を避けるため犯行に至った型(1事例)だった。
     第3では、新生児殺事件の裁判過程で、加害者となった母親の妊娠の秘匿について、しかるべき相手に相談しなかった状況を、「相談すべき者/相談すべきではない者」に関する社会的知識が動員される仕方を明らかにした。加害者(母親)によるパートナー(父親)への妊娠の相談が適切か否かでは、社会通念に準じて両者がカテゴリー化され、双方のカテゴリーの親密度に応じて、一連の行為が理解される傾向にあった。新生児殺に至る背景を解明する際には、裁判過程の基準を離れ、母親と父親の双方の行動に基づいたストーリーを改めて理解する必要がある。
     以上から、嬰児殺は、経済的基盤が脆弱で嬰児の父親又は同居家族に葛藤がある状況で、母親に家計や家事、育児といった主たる家族生活の運営を担う負荷がかかり、他の家族成員に相談することができなかった型がある一方で、経済的な困難はないが、母親の未熟性と嬰児の父親の責任回避が要因となり、母親が妊娠の責任を一方的に負わざるをえなくなった型があることが示された。また、量刑を科すことが目的の裁判では背景要因の抽出が主要な検討課題とはならないため、裁判で構成されるストーリーを基に改めて事例の背景を汲みとる作業が必要であることが示唆された。死亡事例をなくすためには、望まない妊娠を防ぐことは基より、社会通念や家族力動によって母親に課せられた負荷を取り除くことが肝要となる。今後は、母親だけでなく、嬰児の父親(法的及び生物的)の行動や、家族内の母親の位置にも焦点をあてた検討が必要である。

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  • 乳児院養育の可能性と課題を探る -現代発達科学的視座からの検証-

    研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学大学院)

    1.目的
     現在、乳児院に入所してくる子どもの相当数が、入所時点で既に重篤な発達リスクを抱えており、逆に心身に医療的課題を持たない子どもは、半数にも満たないという状況がある。また、入所時に顕在的な問題を有さない子どもでも、虐待やネグレクト等の不適切な、あるいは劣悪な環境下で過ごしてきたことが疑われるケースが少なくなく、総じて、入所児の発達状態は入所段階から、定型的環境で成育している子どもと比して、低水準に止まると言わざるを得ない。実態として、乳児院の多くは、そうした子どもに対して専門的なケアを施し、その発達の改善を図り、また実現していることが想定される訳であるが、一般的に、退所時の発達状態のみをもって、乳児院で成育してきた子どもの発達は「著しく遅れ、また歪んでいる」と安易に判断されてしまうという社会的状況があることは否めない。
     本来、乳児院における子どもに対するケアの評価は、個々の子どもが入所時から退所時にかけていかに変化し得たかということをもってなされるべきであるが、退所時の子どもの状態が一般的な子どもの標準値に比して低いということだけから、乳児院養育の機能が不当にも過小評価されてしまっているという由々しき事態がある。もっとも、これについては、これまで日本の乳児院全体で、入所児の成長発達を共通に捉え得る標準的なアセスメント・ツールがなかったことも一因として考えられる。
     こうした状況認識の下、本研究は、将来的にそうした標準的ツールを作るための下準備として、2017年度は、個々の乳児院が、どのようなアセスメント・シートをいかに用いてきているかについての実態調査を行うこととした。
    2.方法
     全国の乳児院すべてに悉皆的に、入所前後・入所中・退所前後において、子どもの発達状態や課題、また家族の情報等を捉えるために用いているアセスメント・シートや記録フォーマットの送付を依頼した。
    3.結果・考察
     結果的に、全体の84.7%の乳児院から協力を得ることができ、収集されたアセスメント・シートの内容を、主に発達臨床心理学の視座から整理・分析し、現状として、子どもの心身発達あるいは子どもの家庭状況等のどのような側面に対して、より多く着目しているか、あるいは逆にあまり着目していないか、また子どもの発達の状況をどこまで踏み込んで詳細に捉えようとしているか、あるいは逆に表面的にしか捉えようとしていないかなどに関して、体系的に知見をまとめることができた。さらに、その知見に基づき、今後、日本の乳児院で広く活用されるべき、標準的なアセスメント・シートおよびアセスメント・システムの試案の作成を行った。

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  • 児童相談所における弁護士の役割と位置づけに関する研究(第2報)

    研究代表者名 影山 孝(東京都児童相談センター)

     児童相談所のソーシャルワークにおいて法的な対応を求められることが多くなり、そのために弁護士と連携協働して対応する機会が増えている。こうした状況の中、2016年児童福祉法改正により児童相談所への弁護士配置が進められることとなった。各自治体における配置は、常勤・非常勤・個人契約・団体契約とさまざまであり、常勤以外の弁護士相談頻度もまちまちである。地域の特性に根差した児童相談所体制の充実を図る中で、弁護士の利点をどう活かしていくかが問われているだろう。そのために、弁護士を配置することで児童相談所の業務にどういう効果が生まれているのか、弁護士と協働した取り組みをする上での課題は何かなどを整理して、今後のあり方を検討することを目的として本研究を実施した。2017年度は2016年度に行った質問紙調査を補足して、法改正後の状況を把握するため再度調査を行った。また特徴のある児童相談所を選んでヒアリングを実施した。
     2017年度の質問紙調査で判明した弁護士配置状況は、児相弁護士を新たに常勤配置した自治体が1か所増え、5自治体となった。また、非常勤配置した自治体が31か所と平成28年度調査より22か所増えた。一方団体契約については2016年度調査と変化なく、弁護士個人との契約は42か所から27か所に減るなど、契約弁護士から非常勤弁護士に代わって配置が進んだものとみることができる。ただし、常勤以外の弁護士への相談頻度や方法はさまざまであった。2017年度研究では、全国の10児童相談所に対して弁護士配置の状況に関するヒアリングを実施した。
     ヒアリング先は、常勤配置2か所、非常勤配置2か所、非常勤と個人契約の併用1か所.個人契約3か所、団体契約1か所であった。多くのヒアリングで児童相談所に配置された弁護士の同席を得た。
     本調査結果を踏まえ、今後の弁護士配置のあり方については以下のように考える。
     第一に、児童相談所の地域性などを考慮することである。全国それぞれの児童相談所が所管する面積や人口規模、地域特性はさまざまであり、そのことは相談対応件数の違いからも明らかであり、全国一律に児童相談体制を検討することは適当ではないし、弁護士の配置形態を全国一律に考えることはできない。弁護士の配置形態についても、各々の自治体の実態に応じて多様な形態を尊重すべきである。
     第二に、児童福祉に理解と情熱を持った弁護士を確保することである。児童相談所は、子どもの相談機関として位置付けられているが、常に子どもの最善の利益が確保されるかどうかが、唯一の判断基準となっている。子どもの福祉実現のために職務を行い、子どもの権利を守ることを最優先の目的として、熱意を持って取り組める弁護士を確保し、育成していくことが必要となる。
     第三に、常勤弁護士についてバックアップを行う仕組みが不可欠である。どのような形でバックアップを行うかは地域の実情を考慮することが必要であるが、県弁護士会の協力は不可欠であり、そのためには弁護士会で行われている委員会や研修への参加時間を保証していくことが必要で、場合によっては常勤弁護士が他の弁護士のスーパーバイズを受けられる費用を負担できる仕組みも考慮すべきである。また、申立件数や事例の困難度に応じて常勤弁護士と共に常勤以外の複数の弁護士による代理人を選任できる体制を整えていくことも必要である。
     第四に、非常勤、個人契約弁護士の場合には、定期的に弁護士が児相に赴いて、気軽に相談できる体制を作ることが必要と考える。常勤弁護士のメリットとして、弁護士と日常的に関わり、立ち話的にも法律相談を行えることがある。しかし、常勤弁護士でなくとも、弁護士が定期的に児童相談所を訪問し、同じフロアーに座り、ふらっと相談できる体制を作ることは可能である。また、弁護士相談に対する需要が高まるのであれば、弁護士の相談時間増を行うだけではなく、複数の弁護士を配置することが効果的である。
     最後に、子どもに対して児童相談所弁護士が積極的に関わることを検討すべきである。子どもに対して、家事審判手続きや司法手続きの流れを、弁護士が直接子どもに説明することが有意義である。

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  • 児童家庭支援センターの役割と機能のあり方に関する研究(第2報)

    研究代表者名 川並 利治(金沢星稜大学人間科学部)

    1.目的
     児童養護施設等に付置している児童家庭支援センター(以下、センターという。)は、児童福祉法及び児童福祉施設の設備及び運営に関する基準に規定され、児童家庭支援センター設置運営要綱で地域に根差した支援を提供できる専門性の高い相談機関として、その基本的なあり方が位置づけられている。
    しかし、2019年度末までに340か所(少子化社会対策大綱)と示された目標設置数は123か所(2018年5月1日現在 全国児童家庭支援センター協議会調べ)に留まっており、本研究1年目に実施した2016年度アンケート調査によれば、地域による取り組みの格差が生じ、また、総じて行政からの認識も希薄で、正しい理解がされているとは言えないことがわかった。
     2年目となる2017年度は、先進的もしくは特徴的な取り組みを行っていると思われるセンターを直接訪問し、経緯や工夫点、課題についてヒアリングを行って、有効な連携のあり方や取り組み例の紹介を通して、センターの今後の取り組みの進展・向上に寄与することを目的とした。
    2.方法
     選定に当たっては、アンケート調査から得られたデータより「独自性がある」「相談件数が多い」などを指標に、地域的な偏りが生じないよう北海道から九州までの全国ブロック別に最低1か所程度選定されるよう協議した。うち、4センターは共同研究者のセンターとし、表に示した10センターへのヒアリングを行った。

    所在地 児童家庭支援センター名 付置先
    1  北海道札幌市 興正こども家庭支援センター 児童養護施設
    2  岩手県大船渡市 児童家庭支援センター 大洋 児童養護施設
    3  埼玉県加須市 愛泉こども家庭センター 児童養護施設
    4  埼玉県比企郡嵐山町 らんざん児童家庭支援センター 児童心理治療施設
    5  千葉県千葉市 児童家庭支援センター ふたば 児童養護施設
    6  千葉県いすみ市 子山こども家庭支援センター 児童養護施設
    7  福井県越前市 児童家庭支援センター 一陽 児童養護施設
    8  滋賀県大津市 こばと子ども家庭支援センター 乳児院・児童養護施設
    9  鳥取県米子市 児童家庭支援センター 米子みその 乳児院
    10  大分県中津市 児童家庭支援センター「和(やわらぎ)」 児童養護施設

    3.結果及び考察
     相談件数が多いセンターはいずれもセンター職員と行政職員との「顔の見える関係」が構築されており、相互理解ができているがゆえ、スムーズな連携が図られている。
     また、今回のヒアリング先は、所在する自治体の人口が100万人を超えるセンターもあれば、10万人以下のセンターも複数あったが、自治体の人口によりセンターの求められるニーズが異なり、それぞれの役割を果たすことにより自治体との好連携が生み出されていることが見えてきた。
    例えば大都市モデルのセンターの役割として、特定のスキルに特化した支援の提供が求められる。
     具体的に「里親支援」「親子関係再構築支援プログラム」「通告時の安全確認」などが考えられる。また、全国の9割強を占める人口20万人未満の自治体においては、相談にかかわる高い専門スキルや豊富な社会資源を期待しにくい。したがってこのようなモデルのセンターは、児童相談所が近くにない中で
    様々なスキルを求められる。ヒアリング調査から、要保護児童対策地域協議会においてキーパーソンを担い、要保護児童の発見と支援の裾野を広げる役割を担っているセンターや、いち早く「フォスタリング機関」の前段階としてのモデルを実現し、里親支援及び児童虐待予防を充実させているセンターが存在することがわかった。さらに人口1万人未満の町村におけるセンターのモデルは、十分とはいえない社会資源や相談体制の中での児童相談所の補完機能や全般的支援の役割が求められるであろう。
     一方で、センターの人材確保、財政措置の課題をどうクリアするのか模索状態が続いている。センターを拡大していけるかは、都道府県(指定都市、中核市を含む)の意向に大きく左右され、圏域内でセンターを児童虐待防止の相談機関として明確に位置づけてもらえるような働きかけも重要である。
    「新しい社会的養育ビジョン」にも示されている通り、今後、センターは市区町村子ども家庭総合支援拠点と連携して、里親ショートステイを調整する機能、フォスタリング機関事業の機能や在宅措置・通所措置の機能など、リスクの高い家庭への支援や代替養育後のアフターケアなどを担う有力な社会資源として機能しなければならない。そのためには「児童家庭支援センターが提供できるスペシャルなスキルはこれです。」という明確なコンセプトが示せることが必要である。

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2016年度研究

  • 嬰児殺に関する研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     わが国における虐待死亡事例の中では、0歳児、とりわけ0日0か月児の割合が一貫して高くなっていることが、「社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が公表している「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」によって明らかになっている。したがって、0歳児の死亡をなくしていくことは、虐待死を克服する上での大きな課題と言える。しかしながら、こうした事例については、出生直後、もしくは出産後間もない事件であること、関係機関の関与も少ないことなどから、その実態が十分に把握できているとは言い難い現状にある。
     そこで、嬰児殺(0歳児の虐待死)について、公判の傍聴などを含む詳しい実情把握を行い、その発生要因や防止策を検討することを目的として本研究を行った。
    1.  新聞データ検索システムおよびインターネットサイトYahooニュースを利用し、嬰児殺(0歳児の虐待死)事件を収集。
    2.  嬰児殺(0歳児の虐待死)事例、12事例の公判を傍聴し、記禄を整理。
    3.  12事例の概要をまとめ、研究会で検討した上で、共同研究者がコメントを執筆。
    以上をまとめて報告書を作成した。

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  • 児童家庭支援センターの役割と機能のあり方に関する研究(第1報)

    研究代表者名 川並 利治(金沢星稜大学人間科学部)

     地域における児童家庭福祉の相談体制を充実させるうえで、児童家庭支援センター(以下、センターという)は地域に根差した支援を提供できる資源として、その役割の可能性は大きい。しかし、現状においては地域による取組の格差が生じ、また、児童相談所及び市町村児童家庭相談所管課と必ずしも適切な役割分担ができているとは言えない。
     そこで、今後のセンターの施策展開の基礎的資料づくりを目指して、28年度から2年間、本調査研究を実施した。まず、全国のセンター及びセンター所在市町村と各自治体の中央児童相談所に対して、質問紙調査による取組の現状や体制及び行政からの評価に関するアンケート調査を実施した。そして、現状の把握と課題の抽出を基に、全国児童家庭支援センター協議会の協力も得ながら分析を行った。
     課題を整理していく中で、「行政との連携」「要保護児童対策地域協議会」「指導委託」「里親支援」「専門性の担保」「体制・マンパワー」がセンターの運営・取組に大きく影響するファクターであるという仮説を立てた。そして、アンケート分析から「行政のセンター認知度」の大きさが「スムーズな連携を可能にするか否か」と相関性が高いことがみえた。
     また、児童相談所の「指導委託」は1センターあたり年平均4.8件と、依然として少ない状況ではあるが、「里親支援」の相談は少なくないことがわかった。
     さらに、「今後、職員に身につけてほしいスキル」については、再構築プログラムでもカウンセリング技術でもなく、ベーシックなソーシャルワークと機関連携を挙げる所属長がほとんどであった。
     このことは、児童家庭福祉における相談援助の専門性の尺度は、他ならぬしっかりしたアセスメントができるケースマネジメント力とネットワークの構築力であることを意味している。
     次年度は先進的な取組みやユニークな取組みを行っている児童家庭支援センターを数か所ピックアップしてヒアリング調査を行い、より詳細な現状の把握と課題を整理し、センターの支援のあり方について提言を行う予定である。

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  • 市区町村における児童家庭相談実践の現状と課題に関する研究 -政令指定都市・児童相談所設置市編-

    研究代表者名 川松 亮(子どもの虹情報研修センター)

     全国で先進的あるいは特徴がある取り組みを実施していると思われる自治体を選定し、ヒアリングを行うことで、市区町村の児童家庭相談実践の現状と課題を整理し、参考になる事例を周知することを目的とした研究を3年にわたって実施した。3年目となる平成28年度は、政令市の区と児童相談所設置市を対象とし、7区2市を訪問してヒアリングした。
     まず、全国20政令市に区の相談体制に関するアンケートを実施した。その結果、区に要保護児童対策地域協議会の調整機関を設置している政令市は20市中16市であった。区の実務者会議はすべての政令市で実施されており、毎月開催が9市に上った。区と児童相談所との連携ルールは7割の自治体で設定されていたが、共通アセスメントツールは55%の自治体が持っていなかった。
     ヒアリング調査では、比較的大きく歴史のある政令市において、区の相談体制の構築がようやく始められてはいるものの、未だ十分に整っているとはいえない自治体が見られた。その結果、児童相談においては児童相談所に委ねる傾向が見られた。それに対して、平成17年以降に政令市となった自治体の中には、児童相談所設置と同時に区の相談体制整備が進み、児童相談所との協働関係も構築されている自治体が見られた。
     政令市においては、区と児童相談所の組織が横並びである一方で、相互の意見の対立が語られることがあった。その点では、市の本庁が、区と児童相談所との調整機能を果たしている自治体も見られた。
     いくつかの自治体では、小学校や中学校区別に実務者会議を開催している区があった。今後は児童相談所の人員配置とからめながら、区の相談体制強化を進めるとともに、児童相談所との人事異動も進める必要があると思われる。
     次に、中核市の中で児童相談所設置市となっている横須賀市と金沢市にヒアリングを行った。両市は、要保護児童対策地域協議会の事務局を児童相談所に置くか本庁に置くかという相違があったが、いずれも歴史的な地域の取り組みをベースに児童相談所が設置されてきており、子育て支援と介入機能を一体で実施することが有効と評価されていた点が共通であった。

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  • 児童相談所における弁護士の役割と位置づけに関する研究

    研究代表者名 影山 孝(東京都児童相談センター)

     本研究は2年間の計画で実施し、初年度にあたる平成28年度は全国の中央児童相談所(69所)に対する質問紙調査を実施して、弁護士の果たすべき役割や課題等について意見集約することを目的とした。
     全国全ての中央児童相談所から質問紙による回答を得ることができ、回収率は100%となった。
     調査結果によると、全ての中央児童相談所で弁護士への相談体制がとられており、児童相談所に弁護士が配置されている自治体が61自治体あり、常勤弁護士配置が4自治体、非常勤弁護士配置が9自治体、他の自治体においては契約弁護士がとられていた(一部併用在り)。
     施設入所承認審判や親権制限審判など被虐待相談を中心とした家事審判事件については、申立書作成については半数以上の自治体で弁護士に作成を依頼しており、審問段階でも約半数の自治体において弁護士が関与していた。しかし、触法少年の家裁送致案件で、弁護士が関与している割合は1割弱であり、関与自治体の大半は常勤弁護士配置自治体であった。
     弁護士配置については、勤務条件(報酬)が一番大きな課題としているが、服務関係(兼業制限)をどのように考えていくのかも大きな課題となっている。児童相談所の非常勤又は契約弁護士が当該自治体に対する事件を取り扱う場合の利益相反の課題が存在することがわかった。
     児童相談所が弁護士に依頼したい業務は、文書作成、面接、相談に関する相談が多かった。家庭裁判所における司法手続きの申立書等の作成を弁護士に依頼することで審判における要点を押さえたものとなるなど、裁判手続きになじむものとなる可能性は高い。一方で、保護者に対して子どもの一時保護や施設入所についての説得をおこなったり、虐待環境の改善を促したりすることは、児童相談所本来のソーシャルワークとしておこなうことであり、こうした保護者との面接や相談援助活動に対して弁護士の活用を期待するのは、児童相談所自体の相談対応力の低下をきたすおそれがあり、注意が必要である。
     また、弁護士を常勤配置することで、すべてが解決することではなく、児童福祉や児童相談所業務に精通した弁護士を地域に確保することが必要である。そのためにも児童相談所に配置された弁護士(常勤、非常勤、契約などの形態を問わずに)と弁護士会や弁護士グループとの連携やバックアップ体制をいかに充実するかが大きな課題となっている。
     次年度はいくつかの自治体をヒアリングして、その結果と合わせて、児童相談所における弁護士の役割と位置付けに関する提言を行いたい。

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2015年度研究

  • 今後の児童虐待対策のあり方について (3) 虐待対策における課題解決のための具体策の提言

    研究代表者名 津崎 哲郎(NPO法人 児童虐待防止協会)

     本研究は3年をかけた研究の最終年の報告書である。児童虐待対策の全般的な課題点を整理し、いくつかのテーマに絞ってその課題を克服するための具体的な方向性や方法の提言を試みている。
    1 児童虐待の防止制度を構築していくうえでの理念
     包括的理念と、政策を進める上での重要な政策理念について提示する。
    2 児童虐待対策における課題点とその解決策に向けた提言
     ①24時間通告受理と、安全確認のありかた及び役割分担について
     ②児童相談所の体制強化について
     ③児童相談所の介入と支援役割の矛盾、保護者支援の向上について
     ④家族再統合支援に係る条件、機関連携、親子関係再構築機能の向上、改善について
     ⑤施設からの自立に向けた対策の整備、拡充
    3 医学医療の発展への課題
     今後医学医療関係者が、取り組みを進めるための方向性を提示する。
     ①医学医療の役割の見直し
     ②子どもの心身の健康障害の精査と治療の実施
     ③医学的研究の推進
     ④虐待医療を進める制度整備
    4 虐待保健の発展への課題
     医療保健モデルで虐待を理解し対策を再構築して、系統的に事業化・体制整備し、人材育成を行う必要がある。
     ①虐待保健の役割の見直し
     ②子どもの心身の健康の精査と推進の実施
    5 一時保護及び一時保護所について
     今後の一時保護所の活用に関わっての方向性を提示する。
     ①一時保護をめぐる児童相談所と保護者の対立
     ②一時保護の判断の違いをめぐって
     ③一時保護の活用
    6 統計について
     統計処理が持つ問題点と今後の取り組みの方向性について提示する。
    7 教育分野
     教員初任者研修の実情をレポートし提言を行う。
    8 市町村体制の強化と課題
     市町村の養育支援体制、要保護児童対策地域協議会の方向性を提示し、アメリカ・ワシントン州の取り組みを紹介する。

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  • 市区町村における児童家庭相談実践の現状と課題に関する研究(第2報)

    研究代表者名 川松 亮(子どもの虹情報研修センター)

     2004年に児童福祉法が改正され、市区町村が児童虐待対応の窓口になるとともに、要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)が法定されて、すでに10年以上が経過している。この間に、各市区町村では様々な工夫を繰り返して、相談体制の構築や要対協運営の活性化を図ってきた。しかし今だに相談体制が整わず、要対協の効果的運営に至っていない自治体もみられる。本研究は全国で先進的あるいは特徴がある取り組みを実施していると思われる自治体を選定し、ヒアリングを行うことで、市区町村の児童家庭相談実践の現状と課題を整理し、参考になる事例を周知することを目的とした。2年目にあたる本年度は、人口20万人以上の市(政令市、児童相談所設置市を除く)9市のヒアリングを実施した。
     ヒアリング実施自治体はいずれも専門職員複数を含む常勤職員が多く配置されており、人口規模を活かした充実が図られていた。またその職員が地域を分担して担当する体制も構築されていた。この地域割りは、合併前の旧村、保健センターエリア、中学校区など、それぞれの工夫が見られた。これに合わせて、要保護児童対策地域協議会の実務者会議のエリア細分化も図られており、それぞれに定期的な会議を開催することで、小エリアでの密度の濃い協議が行える工夫がこらされていた。
     課題として共通に語られていたのは、関係機関が対応を市に頼ってしまう傾向、進行管理ケースが多いため丁寧な見直しができないこと、会議が情報を報告しあうだけに終わってしまう傾向、事例に関与していない関係機関の参加意欲の低下、調整機関の担当者が相談対応もすることでの難しさなどが指摘された。
     児童相談所との関係においては、児童相談所の判断にゆだねる段階から、自立して独自に判断しながらも双方が協働できている関係までの発展段階があることが想定された。
     いずれの自治体もそれぞれ異なる経緯を持っているが、その自治体にあった取り組みを構築しようという職員の熱意とそれを受け止める市の姿勢があって発展してきたことが感じられた。

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2014年度研究

  • 母子生活支援施設における母子臨床についての研究 第2報:臨床実践に関するヒアリング調査

    研究代表者名 山下 洋(九州大学病院)

     本研究は、母子生活支援施設に入所中の世帯の母子関係の現状を把握し、そこでみられた問題に対する治療的支援の方法としての母子臨床の可能性やあり方などについて整理・検討することを目的としている。本報告書では、前報における実態調査の結果を踏まえ、母子臨床の取り組みを行なっている5施設を対象にヒアリング調査を実施し、その結果を整理・検討した。ヒアリング対象となった施設は倉明園、皐月、東さくら園、永生会母子ホーム、野菊荘であり、それぞれが独自の特色を持って支援を行なっていた。
     ヒアリング結果については、①アセスメント、②母親への支援、③子どもへの支援、④母子関係調整のための支援、⑤情報共有(チームワーク)、⑥他機関連携、⑦その他の7つの視点に沿って、各施設の支援実態について、事例を交えながら整理した。具体的な支援のノウハウ、施設の理念、支援者の思い等を読み取ることができ、現場の支援者にとっても得るものが多い内容となっている。
     各施設が利用者のニーズに合わせて様々な専門的支援を行なっている一方、全施設に共通していたのは、母子が共に生活できる母子生活支援施設のメリットを最大限に活かし、チームで母子臨床の取り組みを行なっていたことであった。考察では、上記7つの視点から、全施設に共通していた取り組みや姿勢等について検討を加えている。
     また巻末には、各施設の利用者向けの栞、自立支援計画書、家庭調査票等を資料として載せており、現場の支援者が活かせるようになっている。

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  • 今後の児童虐待対策のあり方について (2) 虐待対策における課題解決の方向性

    研究代表者名 津崎 哲郎(児童虐待防止協会)

     研究会での集団的討議を経て、以下の領域に関して課題の提示を行った。
    (1)実務上の主要な課題点と、その克服のためのいくつかの試案、及びそれらの利点、課題の提示
    (2) 医療・保健領域におけるいくつかの課題点と、その克服の方向性及び実践例、関連資料等の
    提示
    (3)一時保護のあり方について、現状と今後の活用をめぐっての提示
    (4)統計のあり方について、現行の問題点の整理と今後の方向性についての提示
    (5)児童虐待に係る学校教員研修の実情把握に関わっての提示
    (6) 市町村在宅支援体制の課題とその強化に向けての方策提示、並びにアメリカワシントン州における取組の紹介

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  • 市区町村における児童家庭相談実践の現状と課題に関する研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     2004年に児童福祉法が改正され、市区町村が児童虐待対応の窓口になるとともに、要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)が法定されて、すでに10年以上が経過している。この間に、各市区町村では様々な工夫を繰り返して、相談体制の構築や要対協運営の活性化を図ってきた。しかし今だに相談体制が整わず、要対協の効果的運営に至っていない自治体もみられる。本研究は全国で先進的あるいは特徴がある取り組みを実施していると思われる自治体を選定し、ヒアリングを行うことで、市区町村の児童家庭相談実践の現状と課題を整理し、参考になる事例を周知することを目的とした。ヒアリング対象として選定した自治体は、町が2自治体、人口10万人以下の市が2自治体、人口10万人から20万人以下の自治体が2か所であった。
     それぞれの自治体の特徴を見ると、小さい自治体なりの工夫や小さい自治体でもできることが見られた。例えば、全ての学校・保育園を児童相談担当者が巡回して相談を受けることで、連携関係をスムーズにしながら要支援事例を掘り起こせている自治体があった。また、庁内の教育・福祉・保健部署の一体化を図ることで、縦割りを超えた連携を可能とした自治体もあった。一方で、専門職員の複数雇用や異動周期を長くすることなどで、職員体制を充実させている自治体もあった。
     また、児童相談所との関係では、共通アセスメントによる協議や適宜の連絡体制が確保され、良好な関係が維持されている自治体が多かった。要対協の運営でも地域別会議を設けて進行管理の密度を高めたり、部会を設けるなどの工夫がそれぞれの自治体でなされていた。
     いずれの自治体においても異なる歴史や背景を持っているが、その特徴を踏まえながら、職員の創意工夫により現在の体制が構築されてきていることがわかった。自治体や首長の積極的な姿勢も体制強化に寄与していると考えられた。

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2013年度研究

  • 母子生活支援施設における母子臨床についての研究 第1報:質問紙調査による実態把握

    研究代表者名 山下 洋(九州大学病院)

     本研究は、母子生活支援施設入所中の世帯の母子関係の現状を把握し、その関係性に課題を抱えたケースへの母子臨床の可能性やあり方などについて整理・検討することを目的とした。平成24・25年度は、母子関係の実態を把握するため、全国の母子生活支援施設を対象に質問紙調査を実施した。回収率は77.4%(192/248施設)であり、入所世帯2948世帯についての回答が得られた。なお、調査は、全国母子生活支援施設協議会の協力を得て行った。
     その結果、母親については、その5割以上が18歳以降に暴力を受けており、2割以上が不適切な養育体験を経験していた。精神科に通院している母親は2割弱いることが分かった。子どもについては、年代が上がるにつれて、不適切な養育体験を経験している者の占める割合が増えていき、中学生以上では半数弱が該当していた。各年代を通して、愛着形成の障害から派生する感情や行動の調節の問題が見られ、成長の各時点において母子関係調整が重要な支援になると示唆された。
     各施設の体制については、在籍世帯が30世帯未満の施設が多く、在籍世帯10世帯以上の施設では11人以上の職員が勤務していた。心理職を配置している施設は5割強であった。入所時の情報把握では、入所理由と経緯については、ほとんどの施設で半数以上の世帯の情報を得られていた。緊急を要する状況等もあり、入所時に得られる情報が限られている場合もあると考えられた。また、孤立や虐待につながる恐れのある母子関係の調整については、多くの施設で十分できているとの自己評価ではあったが、良好な母子関係育成に向けた予防的介入や心理教育的アプローチを実施している施設は少なく、今後取り組まれるべき課題として挙げられた。
     次年度は、今回の調査をもとに複数の母子生活支援施設を対象にヒアリング調査を実施し、具体的な支援の方法・工夫等を探る予定である。

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  • 「親子心中」に関する研究 (3) 裁判傍聴記録による事例分析

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、児童虐待の一つの形態である「親子心中」について、その実態を明らかにし、今後の防止に寄与することを目的として、平成22年度から平成25年度までの4年間にわたって実施したものである。第1報では「親子心中」に関する先行研究の概観・分析を報告、第2報では2000年代(2000~2009年)に新聞報道された「親子心中」事例の分析を行い、現代における「親子心中」の実態を把握した。第3報となる本報告書では、「親子心中」事例の公判傍聴記録に基づき、「親子心中」の具体的な諸相(背景、動機、経緯等)について検討・分析した。
     本報告書で取り上げた「親子心中」事例は、2010~2013年の間に発生した「親子心中」事件のうち、加害者が生存し、起訴された12事例(父親加害者6事例、母親加害者6事例)である。事例検討を踏まえ、保健師、精神科医、弁護士の共同研究者3名がそれぞれの立場から、考察をまとめている。
     父親加害者6事例では、父子心中が4事例、父母子(一家)心中が2事例。父子心中のうち3事例は妻と離婚しており、そのうち2事例は離婚直後に発生していた。また、半数にあたる3事例において多額の借金があったことも特徴的であった。公判で精神鑑定が行われたのは1事例のみであったが、本報告書では「他にも精神鑑定を実施すべき事例が存在したように思われる」と言及している。
     一方、母親加害者6事例は、全て母子心中であった。4事例に離婚歴があり、離婚後に再婚したり内縁関係にあるなど複雑な家族関係がみられる事例もあった。事件前に精神科等への通院・入院歴があったのは5事例と多く、全て精神鑑定が行われた。本報告書では、半数にあたる3事例において、生育歴の中で被虐待、幼少期の不適切な養育、性被害等の経験があり、母子心中における母親の抱える問題の根深さが示唆された。
     巻末資料には、第2報で掲載した事件以降の2010~2013年に新聞報道された「親子心中」事例の一覧表、厚生労働省の検証報告書による「心中による虐待」の例数・人数、および警察庁生活安全局少年課による「親子心中」事件の検挙件数等を掲載したので、参照されたい。

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  • 今後の児童虐待対策のあり方について(1) 研究動向の把握

    研究代表者名 津崎 哲郎(花園大学)

     平成12年児童虐待防止法が施行された。この間何度か法律や指針が改正され、児童虐待防止の取り組みは前進した。しかし、制度全体を見ると整合性に欠ける部分も多々見られる。この点を踏まえれば各課題を全体の整合性の中で整理する必要があるが、それを担う部署がない。以上の状況を踏まえ、本研究では、現在の制度全体を鳥瞰的に押さえ、今後の児童虐待防止制度の方向性を3年計画で検討することを目的としている。
     1年目は、既存の研究、調査データーを活用し、制度全体の課題点を整理した。以下に示した内容について検討を行った。
    Ⅰ.総務省政策評価書(平成24年1月)に基づく課題点の整理
    Ⅱ.制度検討委員会(日本子ども虐待防止学会)の提言に基づく課題点の整理
    Ⅲ.死亡事例検証から考える今後の虐待対策(1)
    Ⅳ.虐待された子どもへの医療・保健の役割と課題
    Ⅴ.教育分野における課題点の整理
    Ⅵ.児童虐待関連施策に関するアメリカ・ワシントン州における動向
     なお、巻末には、資料として当該年度に行った研究会等の議事録を収録している。
     2年目は、課題に対する解決策を検討し、その方向性と、メリット、デメリット、あるいは実現の可能性等を検証する。

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2012年度研究

  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携(第4報)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教員養成開発センター)

    1.困難を抱えた子どもたちの学校における成長-学校内連携を基盤として-
     全校体制で特別支援教育を行っている小学校をフィールドにして、施設から通学してくる子どもたちへの支援を検討した。「運動会のダンス練習」と「特別支援級の構造化による対応」では、エピソード記述を用いて分析を行った。前者は、問題の「共視」によって子どもの葛藤を見守ること、後者ではパーソナルスペースを基盤としながら「学習する場」であることを前提とした教室作りの工夫が示された。
    2.児童養護施設における「学習」:支援者への調査から
     児童養護施設における3名の学習支援者に対する面接調査を実施した。3名はいずれも、それぞれの立場で学習支援のみを行うスタッフ(ボランティア、非常勤職員)である。支援者は、知識向上や学力向上という狭義の学習支援だけでなく、自己肯定感を高め、生活や遊びを通して社会のルールやマナー、物事に取り組む姿勢や意欲を育てるなど、「学校化」していない子どもたちの「学びの芽」を大切にした柔軟なかかわりをしていることが明らかになった。既成概念にとらわれない対話的な学習の場が、彼らの学びの基盤として重要であることが示された。
    3.児童養護施設と学校の連携-入所児童の通学状況把握調査、施設と学校との研修の実施状況調査を通して-
     都道府県教育委員会に上記調査を実施した結果、24都道府県から回答があった。入所児童の把握をしているのは6県、また施設と学校の共同研修の実施も4県にとどまり、これらは今後の重要な課題であることと考えられた。校区に施設をもつ学校の状況を教育委員会が把握し、必要な人員配置(加配教員など)を進める体制作りと、教育と福祉の共同研修など人材育成が、現場の実践者をつなぐ仕組み作りとして重要であることを指摘した。

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  • 児童虐待対応における児童福祉と医療との連携についての研究

    研究代表者名 山澤 重美(鳥取県米子児童相談所)

     本研究は、医療機関と児童相談所、児童福祉施設等、児童福祉に係わる機関がどのような関係をもち、どのような連携をすればよいかについて検討することを目的とした。
     研究は、①アンケート調査、②実践報告の2つの軸に分けて行った。具体的な研究方法と、結果の概略は以下のとおりである。
     ①アンケート調査については、全国の小児科研修指定医療機関と公立・私立の大学病院(207病院)を対象とし、医療機関側からみた児童福祉との連携について現状と課題を尋ねた。アンケート調査の結果、105病院から回答を得たが(回答率54%)、そのうち64%の病院で子ども虐待対応の専門チームが組織されていた。チームの構成は、10人前後からなる専門チームが最も多く、構成メンバーは医師が大半を占め、その7割が小児科、新生児科であったが、コーディネーター役を務める職種はMSWが最も多く、全体の6割弱を占めていた。なお、虐待対応チームの実績として、虐待対応件数、虐待通告件数、さらに対応チームの課題・問題も尋ねている。
     また、子ども虐待に対応するチームがない病院については、虐待ケースの初期対応、専門チームの必要性、専門チームの設置予定などについて調査をした。病院外との連携については、関係者会議の有無及び件数、要保護児童対策地域協議会との関わりなども項目も調査項目に入れている。
     今回のアンケート調査では、医療機関と児童福祉との連携における課題点として、医療機関と児童相談所のリスク評価とそれに伴う動きの速度の差異、情報共有のあり方などがあげられた。
     ②実践報告では、研究者の所属する児童相談所、及び連携する医療機関をとりあげ、援助した事例をふまえて、鳥取県西部地区における医療機関と児童福祉の連携について紹介している。具体的には、大学付属病院におけるマルトリートメントプロジェクトチームと児童福祉機関との連携、市立病院における児童福祉との連携、児童福祉施設と医療機関との連携について検討している。
     今回の研究では、医療機関と児童福祉施設の歩み寄りの重要性、情報共有の必要性、要保護児童対策地域協議会を中心とした地域連携の重要性、人材育成の重要性を指摘した。

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  • 「発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究 第2報」― その特徴と対応のあり方をめぐって―

    研究代表者名 橋本 和明(花園大学)

     前年度に引き続き、発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究を第2報としてまとめた。前回は全国の児童相談所を調査対象にしたが、今回は全国の福祉事務所を調査対象とし、①発達障害が疑われる保護者の虐待の特徴や傾向を明らかにし、発達障害と虐待とのメカニズムを把握すること、②そのような保護者への介入とかかわりのあり方を考え、虐待防止に向けた取り組みを探っていくこと、を本研究の目的とした。
     その結果、合計65事例の回答が得られた。それらを分析したところ、発達障害が疑われる保護者の傾向として、児童相談所調査の時と同様に心理的虐待の割合が高く、保護者は孤立したり、パートナーや家族員と反発あるいは対立するなど協力体制が組めずにいることがわかった。また、保護者の67.7%に二次障害があり、この割合は児童相談所調査(48.2%)よりも高い数値となった。また、前回調査の第1報では保護者の虐待を「非社会性タイプ」、「コミュニケーション・共感不全タイプ」、「柔軟性欠如タイプ」、「こだわり頑強タイプ」、「見通し不足タイプ」の5つに分けたが、本調査でも同様のタイプに分類することができた。さらに、そのような保護者への支援については、保護者の特性を把握してパターンを見つけ出すことをはじめとし、わかりやすく具体的であること、ハードルを下げてできたところを評価すること、等の多くの支援方法があることがわかった。
     以上のことを踏まえ、子育てには「社会性」、「共感性」、「柔軟性」が要求されるが、発達障害を抱える保護者にはなにより「多様性」という視点が必要で、支援者はそれを援助していくことが重要であることがわかった。

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2011年度研究

  • 児童相談所の医務業務に関する研究(第2報)

    研究代表者名 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)

     近年の児童虐待相談の増加を背景に、全国で常勤精神科医を置く児童相談所が増えており、これまで以上に児童相談所の医師の役割や業務への関心が高まっているが、児童相談所の医師の業務内容については児童福祉法制定以来今日まで具体的な指針が示されたことはなく、児童福祉司や児童心理司などの他の職員と比べて、常勤で勤務する医師の組織内での位置づけや業務内容は不明確な状況が続いている。そこで、これまで十分に検討されてこなかった児童相談所における医師の業務に関する包括的な研究が計画され、初年度の平成22年度には医務業務に関する資料調査、全国の児童相談所での常勤医師の配置状況の調査、常勤医師の業務内容についての聞き取り調査を行い、具体的な業務内容についての規定がなく、組織内での位置づけが不明確な現状を報告した。
     2年目となる平成23年度の研究では、現行の児童福祉法、児童相談所運営指針等の法令における児童相談所の医師の制度的な位置づけや業務に関する調査、児童相談所職員からの聞き取り調査、具体的な医師の配置事例の調査、教育・研修についての調査を行い、1年目の結果と合わせて児童相談所医師の業務指針案を提言した。児童相談所職員からは常勤医師を求める声が多かったが、現行の法令において、児童相談所業務の多くが必ずしも常勤医師でなければできないとされているわけではなく、常勤医師としての業務を改めて定義する必要性が認められた。これらの結果を踏まえ、児童相談所医師の業務指針案では、新たに医務部門を創設して、医師は医務主任として児童相談所業務に関わることを提案した。また、児童相談所が措置した児童の医学的治療についても継続的に管理・指導する業務の必要性も合わせて提言している。この提言を出発点として、今後さらに活発な議論が拡がり、より効果的な医師の活用がはかられることが期待される。

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  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携(第3報)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教育実践総合センター)

     これまでの研究で継続的課題としてきた以下の3点、すなわち①情報共有、②特別支援教育の活用、③進路問題については、本報告書でも引き続き検討した。
     また、それらに加え、本研究では、次の3点をテーマとしてとりあげた。
     ①「児童養護施設-学校間連携の事例検討」:A施設とB小学校との連携のあり方を3期に分けて検討した。とくにB小学校の取り組みは子どもに「事例性」を持たせ、「ケアの発想」を基本にしていた。また学校内連携(情報共有)を重視したこと、柔軟な教育的配慮を行ったことなどが、施設-学校間連携が安定化した要因であった。「児童養護施設を抱える学校で作り上げた、施設との連携の軌跡」:施設と協力して子どもの入所(学校案内)から退所(転出先への申し送り)までの支援体制を整えたこと、子どものサポート体制を個別に検討する「校内就学委員会」の設置などが報告された。「児童養護施設における心理士と他職員との情報共有および学校との連携」:心理士が行う他職員との情報共有では、「子どもにメリットがあり、職員に役に立つ情報」という工夫がなされていた。心理士と学校との連携は、未だ模索段階であるが、徐々に実践が蓄積されつつあることが明らかとなった。
     ②「児童養護施設と学校の連携:情報共有上の課題を中心に」:千葉県・千葉市の児童養護施設における特別支援教育対象児童の調査を実施した結果、小学校で19.7%、中学校で22.0%が特別支援教育の対象となっていた。しかし、この数字には施設によってばらつきがある。その背景には、特別支援教育に対する市町村教育委員会の取り組みの違いがあることがうかがわれた。
     ③「児童養護施設在籍児童の中学卒業後の進路動向」;地域で進学できる高校が固定されてしまうなど、現在も施設入所児の高校進学状況は厳しい。また、進学後1年以内の中退率は6.8%と全国平均1.7%の約4倍であった。子どもを育てる主体が「社会全体へと転換する」流れのなかで、資金の補助、ケアの連続性など、施設入所児の自立支援には、省庁を越えた具体的対策が必要とされている。

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  • 「親子心中」に関する研究(2) 2000年代に新聞報道された事例の分析

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、昨年度からの継続研究として、現代における「親子心中」の実態を把握することを目的に、2000年代(2000~2009年)に新聞で報道された18歳未満の子どもが被害者として死亡した「親子心中」事例を収集、分析した。以下に、本研究より明らかになった点を紹介する。
     2000年代の10年間における「親子心中」件数は395件、死亡児童数は552人であり、毎年少なくとも30件以上の「親子心中」事件が起こり、40人以上の児童が死亡していることがわかった。その中では、「母子心中」が半数以上(158件:65.1%)を占めており、次いで「父母子心中」が71件(18.0%)、「父子心中」が39件(9.9%)、「その他の心中」が27件(6.8%)となっていた。
     死亡児の年齢は0歳児が最も多く、5歳以下で半数以上を占めていた。その一方、10歳以上の死亡児も約2割を占めており、高年齢児であっても被害を受ける傾向があった。また、「母子心中」における死亡児の年齢は0歳児が多く5歳以下が半数以上を占める一方、「父子心中」では3歳が最も多く、「母子心中」における死亡児の年齢よりも高い傾向があることがわかった。
     加害者をみると、実母が単独加害者の事例では9割以上が「母子心中」の形態をとっていたが、実父が単独加害者の事例では「父子心中」は約半数で、実母も殺害して「父母子心中」に至った事例が約4割を占めていることが特徴的であった。また、実母が単独加害者の事例では、精神疾患が疑われる事例が多々見られたが、実父が単独加害者の事例ではほとんど見られず、借金や仕事上の問題を抱えていた事例がそれぞれ1割以上を占めていた。
     報告書には分析対象とした395件の事例一覧と、アメリカを中心とした海外事例も掲載しており、本研究の研究協力者である国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦氏(自殺予防総合対策センター・副センター長)による講義録『我が国における自殺の現状と課題』も載せているので参照にされたい。
     次年度は、「親子心中」に至った動機・背景について、より詳細に分析するため、裁判記録を基に事例研究を行うこととしている。

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  • 児童相談所のあり方に関する研究−児童相談所に関する歴史年表−

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     すでに60年以上の歴史を持つ児童相談所は、わが国における児童福祉の発展に重要な足跡を残してきたが、児童虐待防止法の制定・施行や、市町村が第一義的に児童家庭相談を担うこととした児童福祉法改正によって、その役割は大きな変化を遂げた。一言で言えば、児童虐待対応の最前線で業務を行っている児童相談所は、そのあり方が鋭く問われる激動の時代を迎えながら、果たすべき役割はますます重要となっていると言っていい。
     ところが、このような児童相談所で勤務する職員の経験年数は決して十分とは言えず、児童相談所の本来果たすべき役割やその意味などを深く理解し得ないまま、厳しい業務に直面している職員も少なくない。本研究は、こうした実情をふまえ、児童相談所のそもそもの原点からふりかえり、児童相談所が果たしてきた役割やその変遷をたどることで現在の業務を俯瞰し、児童相談所の今後のあり方を展望することを大きな狙いとして実施した。本報告書では、児童相談所が設置されてから児童虐待防止法が成立するまでの児童相談所の歴史を、年表を作成することで概観し、あわせて、社会の大きな流れや児童相談所を取り巻く深刻な事件などのさまざまなトピックスを取り上げ、簡潔にコメントしている。
     加えて、研究協力者の竹中哲夫氏に「児童相談所小史と展望(試論)」を執筆してもらっているので、新任の職員をはじめとして多くの児童相談所職員や関係機関の方々に読んでもらい、児童相談所が辿った歴史を知るとともに、今後のあり方を、ともに見つめてもらえればと願っている。

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  • 乳児院における子どもの社会情緒的発達を促進する生活臨床プログラムの模索~生活臨床のセンスを磨くために~

    研究代表者名 青木 紀久代(お茶の水女子大学)

     国連総会での「児童の代替的養護に関する指針」(2009)の採択後、厚生労働省のとりまとめた「社会的養護の課題と将来像」(2011)などに認められるように、施設での養育は大きな変革期を迎えており、これまで以上の質の向上や高度専門性の確保が求められている。
     このような中で、全国の乳児院は、全国乳児福祉協議会を中心に、いち早く変革に取り組み、将来ビジョンや研修体系などを整えつつあり、乳児院職員の人材育成は、焦眉の課題の一つと言える。
     こうした背景から、本研究では、乳児院の基幹的職員をはじめとした指導的立場の職員を対象に、子どもの社会情緒的発達を促進する生活臨床的なセンスをブラッシュアップする研修プログラムを、子どもの虹情報研修センターを拠点に開発することを試みた。
     具体的にフォーカスを当てたプログラムのテーマは、「関係性の視点を生活臨床として学ぶ」というものである。関係性や、生活臨床というキーワードは、重要でありながら、それを具体的に研修プログラムにどのように取り入れるかは、難しい課題である。我々は、長期にわたって実際の乳児院でアクションリサーチを行いながら、プログラムの開発を試みた。
     まず、乳児院の子どもと担当養育者の生活場面での相互作用に着目し、その映像記録から、研修素材を抽出した。これをもとに、参加型職員研修プログラムのコンテンツを作成し、実践した内容となっている。この研修プログラムは、その後もさらに改良され、継続した実践が行われている。報告書には、コンテンツの詳細と、参加者の事後アンケートなどが掲載されている。

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  • 情緒障害児短期治療施設における性的問題への対応に関する研究(第2報)

    研究代表者名 滝川 一廣(学習院大学)

     本研究は、児童福祉施設における性的問題の現状と課題、また対応方法について検討することを目的とした研究の第2報である。第1報のアンケート結果に基づき、性的問題が多く起こった施設を中心に事例分析を行い、施設内での性的問題発生のメカニズム、性的問題発生時の対応のあり方、性的問題を抱えた子どもへの治療的支援のあり方、予防の手立てを検討した。
     施設の中で起きる性的問題に関わる子どもの特徴として、①ネグレクトを受けた子どもの心的発達の未熟さ、②性被害体験が必ずしもない、③支配傾向、④孤立傾向、などがあげられた。
     施設内での問題の拡大化・深刻化の背景については、①発達の未熟な子どもの遊びなどが媒介となり、②支配服従の関係性と性的問題行動が重なり合うという二つの要因が重なり、あわせて施設環境や職員の認識の差に加え、施設全体が落ち着かないなどの状況要因も関係していることがわかった。
     性的問題への対応は、初期対応、治療教育的支援、予防的支援としてまとめた。性的問題の発生は、子どもの心的発達の未熟さに引き起こされるものであるため、発達の再保障を行うことが優先されることを指摘した。そのために、まずは生活のあらゆる場面を視野に入れた個別的対応、身体感覚の統合などを行い、それをベースに性的問題行動の振り返り、被害体験への治療的アプローチ、生育歴・ライフストーリーの整理、知識とスキル習得を行っていく必要性を指摘した。
     予防的支援として、①入所時のアセスメントの強化、②入所時の子どもへの動機付け、③性的問題と暴力を認めない文化の構築と環境整備、④プログラムの実施などをあげた。プログラムやマニュアルについては、そのプログラムやマニュアルに備わる発達保障性、治療性などの意味を十分に吟味し、個々のケース、その施設にあった取り組みを行っていく必要があることを指摘した。

    ※報告書全文は援助機関にのみ公開しているため、PDFを開ける際にはパスワードが必要です。パスワードは「援助機関向けページ」へのログインパスワードと同じです。

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  • 「発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究」―その特徴と対応のあり方をめぐって―

    研究代表者名 橋本 和明(花園大学)

     子どもに発達障害があることが虐待のリスク要因となるといった研究はこれまで数多く存在する。しかし、保護者に発達障害があり、そのことが虐待を招いてしまうという発達障害と虐待の関係を論じた研究は少ない。本研究では、①発達障害が疑われる保護者の虐待の特徴や傾向を明らかにし、発達障害と虐待とのメカニズムを把握すること、②そのような保護者への介入とかかわりのあり方を考え、虐待防止に向けた取り組みを探っていくこと、を目的とした。全国の児童相談所を対象に調査を実施し、回答の得られた計141事例を分析したところ、発達障害が疑われる保護者の傾向として、通常の虐待よりも心理的虐待の割合が高いこと、保護者の半数近くが二次障害を併発しており、保護者は孤立したり、家族員と反発あるいは対立するなど協力体制が組めずにいることがわかった。また、保護者の虐待を「非社会性タイプ」、「コミュニケーション・共感不全タイプ」、「柔軟性欠如タイプ」、「こだわり頑強タイプ」、「見通し不足タイプ」の5つに分けることができた。そして、いずれの保護者にも共通して言えることは、発達障害という特性があるがゆえに、多方面にわたって子育てに苦悩していることであった。彼らはほんの些細なところにも大きな躓きを感じ、それが育児の停滞を招いて子どもとの関係に不安を抱いてしまう。そのことを十分に理解した上で、われわれは生活全体を見渡した包括的な支援が必要となってくる。毎日の生活が少しでもスムーズに行けば、生活のなかに連続性が生まれる。そうなることで、彼らはこだわりから少し解放され、子育てにも柔軟性を生み、少し先まで見通せる展望が出てくる。このことが子育てをより適切に導く潤滑剤となり、虐待の防止につながると言える。

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2010年度研究

  • 児童相談所の医務業務に関する研究

    研究代表者名 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)

     子どもに関する広範な相談に対応する児童相談所の業務において、精神科医に期待される役割は大きく、特に近年の虐待相談の増加を受けて常勤の精神科医を配置する児童相談所も増えてきているが、児童相談所の医師の業務内容については、児童福祉法制定以来今日まで具体的な指針が示されたことはなく、児童福祉司や児童心理司などの他の職員と比べて、常勤で勤務する医師の組織内での位置づけや業務内容は不明確な状況が続いている。本研究はこれまで十分に検討されてこなかった児童相談所における医師の業務に焦点をあて、児童福祉領域で医師が専門性を十分に発揮できるような枠組みを明らかにすることを目的に実施された。研究は2年計画で実施され、初年度の平成22年度は医務業務に関する資料調査、全国の児童相談所での常勤医師の配置状況の調査、常勤医師の業務内容についての聞き取り調査を行い、児童相談所の医師の現状と課題を検討した。
     その結果、児童福祉法制定から現在までの児童相談所運営指針などの資料から、医師は一貫して必須の職員と位置づけられているものの、具体的な業務内容についての記述は乏しく、他職種と比べて曖昧なまま現在に至っていることが明らかになった。現状については、平成22年度には全国で26カ所の児童相談所に45名の常勤医師が勤務していたが、兼務の医師も多く、週4日以上児童相談所に勤務している医師は27名のみであった。医師の業務は主に子どもの診察、子ども・保護者への指示・助言・指導、児童福祉司への助言・指導・研修であったが、現場の医師からは、業務の多様性や基本的な指針の欠如、研修・スーパーバイズの機会がないこと、組織内での位置づけの不明確さなどが指摘された。
     これらの結果を踏まえて、次年度には児童相談所の医務業務の指針を策定する予定であるが、今年度の報告書は、児童相談所の医師の歴史的経緯と現状を理解する資料としても活用できる内容になっている。

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  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携(第2報)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教育実践総合センター)

     この第2報では、第1報からの継続的研究課題として、学校との情報共有を中心とした児童養護施設への面接調査、校区の小中学校における特別支援教育の運用実態とその活用方法、高校教員への面接調査をもとにした施設の子どもたちへの進路保障について取り上げた。その結果は、以下の通りである。
    (1)  全国12施設のインタビューを通じて、施設が学校、そして地域と積極的につながろうとしていることが示された。ただ、学校における学級担任の交替、また施設における担当職員の交替など、施設入所児を取り巻く状況の変化が大きいことを考えると、校区に施設を持つ学校への「加配教員」配置が求められる。実際に配置されている学校-施設間連携からも、「加配教員」(例えば、特別支援コーディネーター)が安定的な連携窓口として機能していることが明らかとなった。
    (2)  特別支援学級の設置状況は自治体によってばらつきがあり、地域の方針が大きく影響していることがうかがわれた。このため、特別支援教育を必要としている施設入所児が通学区域外の学級に通学している場合もある。特殊教育から転換した特別支援教育への否定的なイメージとグレーゾーンの子どもたちの誕生、それにともなう用語の混乱(「通級」や「取り出し指導」など)についても合わせて指摘した。
    (3)  高校専門学科の担任教師への面接調査からは、専門学科では施設から通学する生徒に対してきめ細やかな指導が行われ、生徒の適応も良好であることが明らかになった。我が国では専門学科への進学率は諸外国に比して高くないが、実験や実習といった体験中心で、少人数の班編制を学習に取り入れている専門学科の教育は、虐待を受けた子どもの高校適応、また自立支援という観点からも大きな意味があると考えられる。

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  • 児童養護施設における心理職のあり方に関する研究

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究の目的は、1999年に児童養護施設に心理職が配置されてから10年以上が経過した現状において、これまでの実践や体験を整理することによって、今後の児童養護施設に求められる心理職のあり方について一定の示唆を得ることである。児童養護施設で勤務している100名の心理職を対象に、仕事の魅力や困難性、生活場面での支援のあり方や職員チームの構築について工夫している点などを、質問紙調査によって尋ねた。協力者の回答を、統計的な手法と質的な方法によって分析し、経験年数(3年未満と4年以上)と勤務形態(常勤と非常勤)による比較を行った。その結果、①児童養護施設の心理職ならではのやりがいや魅力については、生活に近く、子どもの成長に長期にわたって寄り添えることの利点が強調されていた、②協力者の多くが、子どもや職員との関係の構築、パニックやトラブル時の関わり、生活場面と面接場面をつなぐことができるなどのメリットから、生活でのかかわりの有効性を感じている一方で、有効さを感じていない協力者も2割ほど存在した、③経験の浅い心理職は、チームの一員として認めてもらうために職員との関係形成に重点を置く傾向があったが、常勤で経験の長い心理職は施設全体がどうあるかを考え、個別心理療法は子どもの回復と育ちを促す手段の一つとして相対化されていく、といったことが浮かび上がった。今後の課題としては、児童養護施設において生活を基盤にした治療的機能や構造の構築、その中での心理職の役割の明確化が挙げられた。

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  • 情緒障害児短期治療施設における性的問題への対応に関する研究(第1報)

    研究代表者名 滝川 一廣(学習院大学)

     本研究では、児童福祉施設における性的問題の現状と課題、また対応方法について検討することを目的として、全国の情緒障害児短期治療施設全37施設を対象にアンケート調査を行った。調査項目は、全入所児に対しての、性的問題行動(全22項目)の有無、性的問題以外の問題(全19項目)の有無、施設の構造や対応のあり方などの取り組みに関する項目(自由記述含む20項目)、性的加害問題の有無とその対応に関する項目(7項目)である。
     その結果、性的問題行動としては「ベタベタする、会話の際に相手の身体に触る」「卑猥な言葉、性行為に関する声を出す」「他人の性器やプライベートゾーンに触る」「異性への過剰な関心、過剰に親しくする」「性描写への過剰な反応」「実習生など知らない大人にすぐに抱きつく」が全入所児童の1割以上に認められた。また、性的問題以外の問題としては、心的発達や対人関係上の未熟さが3割以上の子どもに認められた。こうした未熟さは、性的問題化の抑止力の脆弱さと関連し、性的加害-被害が起きやすい状況を後押ししやすいことが懸念される。調査では、過去3年間で約7割の施設が性的加害の問題を経験していることが分かり、加害問題を未然に防ぐには、性教育や性被害に気づく試み、そのための情報収集、関係機関との連携、さらには施設の構造などが重要であることが指摘された。
     次年度研究では、これらをふまえ、具体的な事例を通して、問題発生のメカニズムを分析し、未然防止の手立て、問題発生時の早期かつ適切な対応のあり方、性的問題を抱えた子どもへの治療的支援のあり方についてさらに検討を深める方針である。

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  • 「親子心中」に関する研究(1) 先行研究の検討

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     いわゆる「親子心中」によって子どもが死亡する事例は、児童虐待の一つの形態として「社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が実施している「子ども虐待による死亡事例等の検証」の対象となっており、その数は、他の虐待死亡事例件数と比較しても決して少なくない。したがって、虐待死の最たるものとさえ言い得るこのような死亡事例をなくしていくことは、私たちの社会に課せられた大きな責務であると言えよう。
     ところが、現在も「親子心中」に関する公式統計はなく、わが国における正確な実態把握が事実上不可能である上、具体的な事例に即した検証を行おうとしても、加害者が死亡している場合には追跡調査の手がかりを失い、原因の追及等が壁に突き当たってしまうため、防止策を検討することも簡単ではない。
     そこで本研究では、あらためて「親子心中」の実情に迫り、今後の防止に寄与することを目的とした。
     研究は3年計画とし、初年度となる平成22年度は、戦前、戦後の先行研究を収集、分析した。多くの論文があるとはいえ、先に述べたように公式統計がないことや研究者の関心の向け方がさまざまであることなどから、各論文を比較検討することには困難もあったが、本研究によって、大正の末年頃から急増したといわれている「親子心中」が、さまざまな呼称で呼ばれていること、戦前、戦後を通じて母子心中がもっとも多いこと、原因、動機は明確にとらえがたいが、時代によって変遷していること、また母子心中と父子心中、一家心中などではその原因に違いがあると思われること、ほとんどの場合は血縁関係の間で生じ、非血縁での「親子心中」はまれであること、我が国独自のものとする見解が多く見られたが、諸外国にも存在すること等々が明らかとなった。
     こうした結果をふまえて、今後は現代における「親子心中」の実態を可能な限り明らかにし、さらには具体的な事例分析を行うことで、さらに深く分析を行い、防止策を検討する予定である。
     なお、本報告書の末尾には、「親子心中」に関連する戦前、戦後の書籍、文献等を150件あまり掲載しているので参考にされたい。

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  • 乳児院における子どもの社会情緒的発達を促進する生活臨床プログラムの模索

    研究代表者名 青木 紀久代(お茶の水女子大学)

     本研究では、心理職が乳児院の現場で働くことを前提に、生活の場に適合する子どもの社会情緒的発達支援のためのコンサルテーションの方略を検討した。この支援のために本研究で特に重視したものは、担当養育者と子どもの関係性を育てることである。すなわち、コンサルテーションでは、担当養育者側の子どもに対する「間主観的な関わり合い」について、担当養育者自身が様々な気づきを得ながら、子どもの感情を深く理解し、共感する態勢を強化していくことが含まれる。そしてそれは、子どもにとって特別なものではなく、毎日の何気ない生活場面で確認でき、繰り返し体験可能な相互交流の中で行われることが望ましい。
     そこで、食事介助場面でのコンサルテーションという設定を作り、3名の子どもを1年間フォローすることとした。コンサルテーションは、ビデオカンファレンスの形式とし、対象児と担当職員との相互作用場面のビデオ記録を再生しながら、担当養育者の体験を共に振り返った。話し合いの記録は全て逐語に起こし、資料として報告書に掲載した。同時に、発達検査、養育記録などの資料を継続して収集し、子どもの発達と養育者らの子ども理解の変遷を記録した。さらに、全プログラム終了後、担当養育者3名に対し、事後インタビューを行った。
     これらの資料の分析から、日常生活における子ども-養育担当者の関係性に働きかける介入によって、子どもの社会情緒的発達を起点とした様々な領域の発達が促進されるプロセスを把握することができた。
     この他にも、これらの実践経過の検討を通して、心理職並びに養育を行う職員への専門研修に必要な課題を抽出する試みも行われている。

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2009年度研究

  • 被虐待児への学習援助に関する研究-被虐待児の認知に関する研究-

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:視覚性ワーキングメモリー機能の発達研究―被虐待児と定型発達児の比較を通じて―
       被虐待児のワーキングメモリーは、定型発達児に遅れて発達していく。聴覚妨害が定型児では妨害にならなかったが、被虐待児においては明らかに低下を示した。
    研究課題2: 報酬とリスクの見通しによる意志決定の特徴の解明―ギャンブル課題を用いて― 被虐待児と定型発達児の比較を通じて
       今回の研究からは、両者ともに未熟なパターンが多く、明らかな差異は検出し得なかった。ただ、罰回避性の傾向が認められた。このことが長期の学習意欲を賦活する際に重要な示唆を与えていることが考えられた。
    研究課題3: 被虐待児の認知および学習支援に関する研究―指導員に対する児の自発的な働きかけに注目して―
       線引き問題、選択式問題に比して記述問題が明らかに低得点であった。すなわち、記述問題児の指導者に対して、暴言、課題の放棄といったことが見られたことから、情緒的な対応方法を模索しなければいけないことが示された。また、固定したメンバーが対応している場合の改善性もそうでない場合に比して明らかであった。

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  • 児童相談所の専門性の確保のあり方に関する研究―自治体における児童福祉司の採用・任用の現状と課題―

    研究代表者名 才村 純(関西学院大学・日本子ども家庭総合研究所)

     児童相談所における専門性の確保が喫緊の課題となっている。児童相談所の専門性を左右する重要な要素として、児童福祉司の採用・任用制度が挙げられる。本研究では、児童福祉司の採用・任用実態を把握・分析することにより、児童相談所の専門性を確保するための採用・任用制度のあり方について提言を行うこととした。
     具体的には、全国の児童相談所主管課と児童相談所を対象に、児童福祉司の専門職採用・任用の実態および意識に関する質問紙調査を実施した。より詳細な情報を得るため、児童福祉司業務に従事する職員が全員福祉職、全員が行政職、最近行政職から福祉職に切り替えた自治体など特徴的な自治体について実地調査を行った。
     その結果、福祉職任用の利点として「専門性が確保できる」という意見が共通して出され、行政職を任用している自治体からは、異動サイクルが短く専門性の確保が困難、養成に時間・労力が必要などの意見が出された。児童福祉司に求められる専門性の特質は専門職者としての人格的側面にあり、これは膨大な経験の蓄積とたゆまない研鑽の結果獲得できるものであり、そのためには、福祉職の任用が必要であると考えられた。ただ、福祉職任用の課題として、昇任ポストや異動先の確保が困難であるとする意見が多く出されことを踏まえ、専門職任用の前提として、人事異動システムの改善および採用した専門職に対する人材育成計画の必要性について指摘した。国に対しては、①任用資格の厳格化、②スーパーバイザーの登録及び派遣のシステム化などを提言した。
     なお、報告書には、質問紙調査で得られたデータの詳細を掲載するとともに、実地調査についても、先駆的な取り組みなどを含めた具体的なデータを自治体ごとに掲載している。

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  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教育実践総合センター)

     近年、施設入所児おける被虐待児の増加とともに、その子どもたちを受け入れる学校現場での混乱が顕著になってきた。これまで学校現場は「虐待の発見」において重要な役割を担ってきたが、今後はケア的な側面、すなわち子どもの学校生活全般を含めて支援する際の課題を明らかにしていく必要がある。本研究では、校区に児童養護施設を持つ小中学校の教員に面接調査を実施し、学校と施設の連携について調査した。その結果は、以下の3点にまとめられる。
    ① 学校と施設の間で、子どもの背景に関する情報に関しての共有不足がある。特に子どもの「生育史」や「家族背景」などについては、「個人情報」であるため学校も施設も深く立ち入って聞いては(知らせては)いけない、という自主規制の問題が明らかになった。この傾向は、2005年4月の「個人情報の保護に関する法律」施行前後から顕著になっている。
    ② 学校の学級担任交代サイクルが早くなっていて、かつて2年持ち上がりであった小学校でも、学級担任の1年交替が増加傾向にある。虐待を受けた子どもは変化の多い生活を余儀なくされてきているが、学校システムが流動的になりつつある中で、「援助者(学級担任)の交替」をどう乗り越えていけるかが大きな課題といえる。(なお、情報共有という視点から、学ぶべきところの多い実践を行っている学校の取り組みを紹介した。)
    ③ 施設入所児の特別支援教育の活用と進路保障に焦点をあてたことによって、虐待を受けて施設に入所してきた子どもの学校適応を支援し学力保障を担う場として、特別支援学級の有用性が示唆された。また、学習ボランティアの活用や教員への面接調査などから、進路保障という大きな課題が明確になった。

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  • 専門相談における法的問題に関する相談内容の研究

    研究代表者名 佐々木 宏二(子どもの虹情報研修センター)

     子どもの虹情報研修センターの専門相談室で、平成15年度から平成20年度までに、児童虐待の専門相談・援助機関(児童相談所・都道府県・市町村・児童福祉施設等)から寄せられた法律相談(計160件)のうち、相談・援助の現場で役立つと考えられる相談事例(94件)を抜き出し、その参考回答例を作成した。回答例の作成にあたっては、弁護士の助言を受けながら実施した。
     相談事例の内容をみると、通告から調査・介入、一時保護に至る初期介入の問題、28条や面会・通信など一時保護中から措置に至るまでの親権制限に関する問題、施設や里親家庭での生活上のトラブルや親対応の問題、親権にかかわる問題などが主に取り上げられている。相談事例の一つひとつから、相談機関が直面する困難を読み取ることができる。
     法律相談は、年を追うごとに増加しており、児童虐待に対応している相談・援助機関では、法律の解釈で悩むことや、法律上のトラブルを抱えることが、近年とみに目立ってきている。
     この研究報告書は、相談現場での処遇・援助で困った時に、関連する事例のQ&Aとして実務上でも役立つ内容となっており、事例を通して法律問題の理解を深めることに役立つものと思う。

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  • 乳児院における愛着の発達支援に関する研究~乳児院を拠点とする子どもの社会・情緒的発達に適した養育環境とは~

    研究代表者名 青木 紀久代(お茶の水女子大学)

     乳児院における子どもの社会・情緒的な発達(その代表的なものとして愛着)を促進する養育・保育環境作りを目標に、心理職の立場から2年間の実践研究を行った。活動内容は、子どもの発達状況の把握と改善策の提案、養育場面に入ってのコンサルテーション、院内研修、家族関係再構築プログラムの全てが含まれる。
     1年目は、主に子どもの発達状態について、情緒面を含めたアセスメントを実施した。対象は、Y乳児院に在籍する生後2ヶ月から35ヶ月までの男女44名である。全般に言語以外の発達は良好だった。ただし情動調整が困難でケアが必要な子どもは、多く見られた。 
     これらの結果から、情動調整と愛着形成に重要な、養育者の応答的環境をより良いものとするニーズの存在を把握することができた。
     そこで2年目に、小規模ケアを受ける4名の子どもをモデルケースとして、発達促進プログラムを実施した。プログラムは、①月に一度の発達検査、②担当養育者に対する結果のフィードバック、③担当養育者と子どもの生活場面の関与観察、④②及び③をもとにした心理コンサルテーション、⑤日々の生活における個別プログラムの改良の4つから成る。
     開始時点での対象児の発達指数は、1名は平均域であったが、残り3名は平均以下~境界域であった。しかし半年後には、全対象児の発達指数は、顕著に向上した。
     コンサルテーションでは、日常できる遊びを多く提案し、子どもとじっくりと遊び込む環境をサポートしたが、その過程では、担当養育者自身の情動調整力を護るためのケアが必要となる。子どもの情動が激しく混乱するようなときに、実は担当養育者自身も大きく動揺しており、良好な応答性を保つことが難しくなるからである。
     報告書では、タイプの異なる対象児の発達過程を取り上げ、コンサルテーションの共通性を抽出した。また、一連の介入と愛着形成及び情動調整力促進との関係を検討している。

    ※報告書全文は援助機関にのみ公開しているため、PDFを開ける際にはパスワードが必要です。パスワードは「援助機関向けページ」へのログインパスワードと同じです。

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2008年度研究

  • 児童虐待における援助目標と援助の評価に関する研究―情緒障害児短期治療施設におけるアフターフォローと退所後の児童の状況に関する研究(続報)―高校生年齢児童の支援の現況と問題点

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     平成18年度の情緒障害児短期治療施設(情短)退所後の児童の調査で示された問題点の一つは、就学の困難な児童が少なくないことであった。高校卒業後の進学率は65%で全国値75%に近いが、最終学歴が中卒の率は全国値0.2%に対して16%、高校中退の率も全国値2.5%に対して36%と、顕著に高いことが示された。家庭の支援に期待できず、早期から自立生活力を要求される被虐待児童が、中卒や高校中退のままで、生涯、安定した社会生活を送ることは容易でない。本研究では、被虐待状況から入所時、退所時、退所後の現在までの資料を基に、高校進学・卒業者と比較し、また、中卒・高校中退の個々の事例についてその理由を推察し、改善策を検討した。
     中卒者にはネグレクト例が多く、中学卒業前に退所し、知的能力は普通であったが、現在、半数は無職やフリーターであった。退所理由によって退所後の状況が異なり、児童の成長により退所した例は自活し、児童は治療中であるが家庭の希望で退所した例は就労したり家事を担当して家庭を支えており、児童の逸脱行為のために退所した例は、他の施設に移って退所した後も問題行動が多く、就労していなかった。各群に共通して家庭からの支援がなく、自立支援が必要なことが示された。
     高校中退者は、中学卒業時または高校在学中に退所し、知的能力に問題が無くても学力の遅れがあり、現在、半数が無職やフリーターであった。退所時に将来への希望がない、対人関係に問題を有するなど社会生活能力が不十分で、更に、家庭が生活苦を抱え、児童の養育が不十分であったと思われる。成長や進路が整って退所した男子は就職かアルバイト、女子はアルバイトか無職、退所時に医療の必要があった例では無職が多かった。中卒者と同様に、家庭からの支援が得にくいか、自身の治療がなお必要な状況にあったと推測される。
     高校生年齢児の支援体制づくりなど、退所後の児童および家庭に対する長期的で持続的な支援策とネットワークの構築、重症例の医療機関との密接な連携が期待される。

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  • 被虐待児への学習援助に関する研究-被虐待児の認知に関する研究-

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し、治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:TK式標準学力検査を用いて
     IQについては全員が良好であるにもかかわらず、国語における意味理解、漢字の書き取り、文脈理解、内容理解が低得点であった。算数では文章題、知識が低得点であった。
    研究課題2:視覚性ワーキングメモリの発達研究
     視覚あるいは聴覚の妨害刺激による視覚性ワーキングメモリーの差異は認められなかった。11〜13歳で急速に発達し成人の容量で、保持と排除の機能が成人レベルになるになることが証明された。
    研究課題3:報酬とリスクの見通しによる意志決定の特徴の解明-ギャンブル課題を用いて-
     通常課題と逆転課題において課題を正しく行うことが出来たのは、9名中3名のみであり、逆転課題においてのみ正しい行動を選択できたのは、4名であった。9名中2名は最後まで正しい行動が出来なかった。

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  • 被虐待児の学校場面における支援に関する調査研究

    研究代表者名 生島 博之(愛知教育大学教育実践総合センター)

     本研究は、被虐待児の学校場面における支援に関する調査研究である。具体的には、多くの被虐待児が入所している情緒障害児短期治療施設(10施設)に調査協力を求め、入所児童たちが通っている学校(養護学校型、分校・分級型、地元校型、混合型など)を中心に聞き取り調査を行った。
     その結果、被虐待児たちが通っている学校においては、学級崩壊などの危機的状況に面しているところも存在しており、多くの教員たちは被虐待児の教育の難しさを痛感していることが明らかとなった。
     そこで、『子ども虐待という第四の発達障害』(杉山、2007)という観点や『特別支援教育』という視点から調査内容を整理し、①大声をださないということ、②給食指導について、③パニックから守るということ、④感情コントロールの問題への対応、⑤性教育のあり方、⑥学習指導のあり方、⑦攻撃性を肯定的に活かす教育、⑧学校と情緒障害児短期治療施設の連携のあり方などについて考察し、「被虐待児の学校場面における支援」のポイントについて提言した。
     また、ハード面などに関する聞き取り調査の内容を整理し、①教員の適切な数、②本校や一般校との交流の重要性、③登校停止について、④ハード面での改善点、⑤研修センター的役割と教員の人事、などについて考察し、緊急に取り組むべき課題として、「情緒障害児短期治療施設に入所している被虐待児が通うことになる学校の基本スタイル(教員数、設備面など)を養護学校方式とし、その教育にあたっては、一般校との交流を深めること」などと提言し、「教育大学の使命・教員養成カリキュラムのあり方」についてもあわせて言及した。

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  • 児童虐待における家族支援に関する研究 第2報―児童福祉施設と児童相談所の連携をめぐって―

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本論は平成19年度に報告された第1報「児童福祉施設での取り組み」の続報である。本研究の目的は、①児童福祉施設と児童相談所との連携の現状を把握し、有効な取り組みや困難な点、課題等を分析すること、②支援を受ける家族にとって有益な連携を行うために必要な視点やシステム、方法についての検討等を行うこと、の2点である。本研究の方法は、児童福祉施設および児童相談所に所属している実践家6名によって報告された、児童福祉施設と児童相談所の連携に関する特徴的な12事例についてのメタ事例検討である。各事例及び討議内容はKJ法に準じる方法を用いて分類した。結果と考察では、児童虐待が生じた家族への支援において児童相談所及び児童福祉施設が担うべき役割と、両者の連携が困難な場合の工夫を具体的な事例を提示しながら論じた。総合的考察では、①入所前アセスメントの重要性、②ケースカンファレンス・関係者会議の開催、③援助者の交代について、④ニーズをめぐって、⑤あらためて連携とは、という5つの視点で検討した。本報告書は「連携とは、児童相談所、施設、それから家族自身によって合意された、援助可能性に開かれたストーリーが、時宜に応じて継続的に作られることである。本論でまとめられた各機関の細かな工夫は、このストーリーに基づいた実践的・経験的な示唆だと言えよう」という言葉でまとめられている。家族支援をめぐる児童相談所と児童福祉施設の連携のみならず、両者の協働関係全体に対する示唆が、実践的・具体的なイメージを持って理解されるよう提示されている。

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2007年度研究

  • 被虐待児への学習援助に関する研究―被虐待児の感情認知および課題時の行動観察に関する研究―

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:被虐待児の感情認知に関する調査
     エラーパターンにおいては差はなかった。コントロール群では、幸せ場面でのエラーは認められなかった。被虐待児においては、幸せ場面を怒りや恐怖と認識することがあった。
    研究課題2:課題時の行動観察に関する研究
     注意やモチベーションの持続、対人距離、特定の刺激に関する情緒的反応などの問題が認められた。これらの行動特徴を理解しての学習支援が重要となると考えられた。

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  • 被虐待児に対する臨床上の治療技法に関する研究(情緒障害児短期治療施設における被虐待児への心理治療)

    研究代表者名 平岡 篤武(静岡県立吉原林間学園)

     情緒障害児短期治療施設(以下「情短」)は昭和37年に設置されて以来、主に不登校等神経症タイプの不適応症状を有する子どもへの入所型心理治療を児童福祉施設として担ってきた。しかし、現在では入所児に占める被虐待ケースの割合が平均7割を超え、施設によっては8~9割に達している。本研究では、全国30の情短で行われている、個人心理治療とグループ治療の実施状況に関する質的な調査・検討を行った。今回の調査により、被虐待児の入所比率が大きくなることによって他害的・破壊的・逸脱的な子どもの問題行動が頻繁に発生し、「施設崩壊」「スタッフの燃え尽き」が危惧される情短の現状において、各施設が行っている心理治療に関する取り組みの実態を明らかにし、課題を提起した。
     個人心理治療については、従来のような純粋に言語的なやり取りだけでは個人心理治療時間が成立し難くなっていると考えられ、活動を媒介とした取り組みや心理教育的な構造を持った取り組みが導入されつつある。被虐待児への心理治療の方向性として、従来言われてきた『成長促進的アプローチ』に加え、『安全・信頼感獲得へのアプローチ』、『行動修正的アプローチ(認知・行動への働きかけ)』が必要である。
     グループ治療については、被虐待児の入所比率が増え、安心・安全感(二者関係)のレベルで未達成の課題を有する子どもが増えていることの反映として、グループ治療には二者関係から三者関係への橋渡しをしていく効果が期待されており、より構造の明確な心理教育的アプローチが導入されてきている。被虐待児が増えたことによるグループ治療実施の困難性を克服するためには、施設間での治療技法に関する情報共有が必要である。
     巻末に30施設におけるスタッフの勤務体制、心理治療が俯瞰できる資料を付した。

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  • 児童養護施設における困難事例の分析―児童養護施設に入所した195事例の検討―

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、平成17年度の「児童養護施設における困難事例の分析」に続くものである。ここでは、援助者が抱えた子どもや家族の問題をさらに詳細に分類し、援助者がどのような課題や問題に対峙しているか、それらがどのように推移するかなどを把握し、それらを援助者が捉え、理解するあり方を整理検討し、どのような援助の工夫やアプローチをしているかを見出すことを目的とした。結果と考察は以下にまとめられる。
    ① 援助者の目につきやすい子どもの問題と、その気になって注意や感性を働かせないと見えにくい課題や問題がある。
    ② 子どもの加齢とともに変化する状態像として、就学前は基本的生活習慣と衝動性に関する問題が中心であり、小学校低学年では、活動範囲が広がる中で、学校や施設生活を困難にさせる問題が多岐にわたって見られるようになる。小学校高学年以降は、施設や学校内でのいじめと地域での非行が目立ってくる。これにより職員が見えにくい問題が増加し、さらに援助が困難となる。
    ③ 「役にたった」と感じられた取り組みや工夫としては以下の4点が見出された。
    ・核になり、しっかり受け止めてくれる、信頼できる大人とのかかわり
    ・子どもの発達状況や特徴、そのときの状態に適した課題、場の提供、かかわり
    ・その子の良い資質や得意とするところの発見、周囲から認められる体験の創出
    ・関係者(施設内・外)の連携
     この4点は、第1報告(平成17年度研究報告)と同様の結果であった。

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  • 児童虐待における家族支援に関する研究―児童福祉施設での取り組み―

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     平成16年度より児童福祉施設に家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)が配置されるようになり、家族支援の重要性と共に、支援体制や方法、その効果等について盛んに議論されるようになった。そうした状況に鑑み、本研究は、①児童福祉施設に入所している児童の親や家庭状況などの現状の把握をし、②支援状況や困難点、課題などの現状を分析し、③支援に必要な視点、システム、有効な援助方法を検討することを目的として実施した。
     方法としては、児童福祉施設(本研究においては、児童養護施設と情緒障害児短期治療施設を主に取り上げた)で家族支援の中核的役割を担う実践家を共同研究者とし、研究1として改善事例、困難事例、気になる事例(改善、困難に分類されないが、援助に困っている事例)全63事例を挙げ、改善事例の特徴、困難事例の特徴、気になる事例の特徴などを整理した。研究2は、各実践家に施設の支援状況を報告してもらい、支援に必要な体制や視点、支援の工夫などを議論し、抽出した。研究3では、より実践的な支援方法を検討するため、改善事例と困難事例の事例研究を行った。幅広く概要を捉える視点から具体性の高い内容へという構成になっている。本報告書には、このようにして抽出された必要な視点や援助の工夫が具体的に挙げられている。とりわけ、困難事例の特徴として挙げられた、アセスメントが立たないことや家族と関係が構築できないことに対応するようにして、アセスメントの視点と関係作りの工夫に多くの紙面が割かれている。援助者にとってヒントとなるような視点が抽出されているので、ご参照頂きたい。
     なお、本研究で検討しきれなかった家族支援における児童福祉施設と児童相談所の連携に関しては、重要な課題であるので、引き続き平成20年度の家族支援研究のテーマとした。

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2006年度研究

  • 被虐待児における音楽療法の適用

    研究代表者名 長田 有子(チャイルドリサーチネット)

     本研究は、情緒障害児短期治療施設の被虐待児における3年間に及ぶ音楽を用いた SST(ソーシャルスキルトレーニング)と個人療法のセッションの結果をまとめたものである。情動の発達過程から子どもがストレスを受けた時に対処する方法として2つの様式が存在することが指摘されている(Lazarus,1994)。
     3歳未満に虐待を受けると視聴覚を閉じることで自分を守ろうとし、5歳未満にて虐待を受けると言葉の意味の解釈で自分を守ろうとする。例えば「自分は悪い子だからこうされる」と自尊感情を低めることによって状況の再評価を行う。この事から低学年の療法において視聴覚を広げる目的によるセッションを行い、また中高学年の療法においては歌詞の意味によって自分の気持ちや感情に共感できる部分を発表することにより、自尊感情を高めるセッションを行った。視聴覚を広げるセッションにおいて1年間月2回のセッション回数においての結果は、視覚(①形の区別、②視覚的記憶、③空間位置の区別、)聴覚(①聴覚的注意、②聴覚的記憶、③音の聞き分け)、粗大運動(①姿勢の維持)、行動/情緒(①過度の緊張、②多動性)において5%水準で統計的な有意差が認められた。また意味の解釈におけるセッションにおいても1年間同数行った。セッション前におけるEQ検査の結果は、どれも本人個人評価が高く自分自身の正当な評価が難しく高得点になっていたが、セッション後数値が低くなり、自分自身の欠点も認められる正当な評価になった。この事により自尊感情を高めるためにはありのままの自分を受け止める許容も必要だということを知ることができた。
     この研究後も施設から里親に養育されている個人セッションも行っており、半年でIQ40も伸びたケースがあり、より早く被虐待児の幼児期に視聴感覚を広げるセッションを行うことにより、能力の向上が可能であり養育家庭においての負担を軽減できると思われる。

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  • 被虐待児への学習援助に関する研究―被虐待児の認知に関する研究―

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し、治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:虐待と学習効果    
     学習意欲、読み書きと算数の数概念、注意集中などに問題があることを指摘した。
    研究課題2:CBCLなどのチェックリストによる状態像の把握による探索的研究
     CBCLにて、4つのタイプに分類できた。CDCにては心理職と生活指導員において差を認めた。DAMでは、身体イメージのゆがみが不適応状態と相関していた。
    研究課題3:前頭葉機能障害と学習効果
     遂行機能には問題を認めなかったが、WMに問題が認められ、ADHDとの差異が明らかになった。
    研究課題4:視空間手続き学習課題
     個々の児童によって認知的処理にも差異があり、その違いにもいくつかのバリエーションがあることが証明された。

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  • 被虐待児への学習援助に関する研究―被虐待児の学習支援に関する研究―

    研究代表者名 髙田 治(横浜いずみ学園)

     虐待が子どもに与える悪影響は、心理的な問題以外にも様々な領域で見られることがわかっている。学校での不適応も多くみられるが、学習における成績不振もその一因と考えられる。子どもにとって学業成績は、自己評価を大きく左右し、進学、就職など将来を左右するものである。被虐待児の支援は心理的援助が注目されるが、学習支援も実際は大きな意味をもつと考えられ、学習ボランティアなどによる学習支援は行われているものの、その成果は芳しくない。
     本研究は被虐待児の学習支援方法を探求することを目的として3年間行われた。1年目は、施設内での一対一の学習支援に関する難しさを学習ボランティアの大学生数人から聞き取り、苦手で出来そうもない課題を避けようとしたり、取り組もうとしても集中力が続かない様子など学習の構えに関する問題、教授者になかなか慣れない、教え方に合わせられないなどの教授者との関係の問題などが見出された。
     2年目は1事例の学習支援の経過から発達障害のような傾向が見られ、それに合わせた支援の必要性を示した。
     3年目は1事例の学習支援場面を毎回録画し、スーパーバイズを受け次の支援に生かすことを約1年間行い、その経過を報告し、考察を加えた。その児童は英単語の綴りが殆ど覚えられないことから、ディスレクシアであることがわかり、その視点からの考察も行った。被虐待児の中には学習障害などの認知機能上の問題がある子どもたちがおり、子どもの認知的な特徴、学習の構えなどを考慮した支援が必要であることを示した。しかし、本研究ではより効果的な支援方法の開発には至らず、今後の課題である。

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  • 児童虐待における援助目標と援助の評価に関する研究―情緒障害児短期治療施設におけるアフターフォローと退所後の児童の状況に関する研究―

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     虐待を受けて治療を要する状態となり情緒障害児短期治療施設(情短)に入所した児童が、改善・成長のみならず、退所して施設の保護から離れても社会生活を送れることが重要である。
     本研究は、平成12年から平成16年まで行なった5年間の縦断研究に引き続き、情短退所後の児童の状態を把握して、情短のケアの有効性や退所後のフォローアップのあり方を検討することを目的として行なった。上記の縦断調査の対象児童(全国全17施設に2000年9月に在所していた児童、571名)について、2種類の質問紙を作成し、一方は施設を介して本人または家族に、他方は施設の職員に記入を依頼して退所後の実態を把握し、更に、入所前のリスクアセスメントから入所後毎年および退所時までの縦断調査結果(心身の健康・発達や行動など174項目)と併せて解析した。情短のケアの有効性と問題点を、わが国で初めて全国の全情短施設を対象とした調査に基づいて検討したもので、報告書には詳細な結果と図表の他、本人・家族の情短を利用した感想も掲載した。
     退所後の状態は、被虐待児の4割、非被虐待児の7割が家族と生活し、一定期間の家族からの分離と適切な治療により家族再統合が可能なケースも多々あることが示され、8割以上が就学または就労して登校・出勤しており、種々の心配がありながらも社会適応している様子が示された。また、入所で治療効果があった児、成長により退所した児は退所後の状態も良く、情短におけるケアが被虐待の有無に関わらず、一定の効果を果たしていると考えられ、環境療法の有効性が確認され、今後の充実が期待される結果となった。
     今後の課題として、中学卒業前に退所した児童の中学卒業までのアフターケアの必要性、退所後、特に2年間のフォローの重要性、治療を中断して退所した事例のフォローのあり方、医療ケアを要する児童の退所後の医療との連携、自己評価の低い児童への支援、実社会で生きる力の育成、などが浮き彫りとなった。

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  • 児童虐待における援助目標と援助の評価に関する研究 被虐待児童の施設ケアにおける攻撃性・暴力性の問題とその対応―情緒障害短期治療施設での事例分析的研究―

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     本研究は、情緒障害児短期治療施設に入所した重い被虐待児が、施設内で示す子ども同士あるいは職員への激しい攻撃や暴力への具体的な対応を研究したものである。「児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究」(平成16年度)において、被虐待児のさまざまな問題が施設ケアを通して改善する道筋を長期に継時的に分析し、攻撃性・暴力性へのケアが大きなポイントになることを明らかにしたが、本研究はそれを踏まえ、実際に激しい暴力の起きた諸事例の詳細な事例検討を通して、そのケアの実践的なノウハウを具体的に研究した。
     被虐待児の暴力行動は、受けてきた暴力の再現やPTSDの症状など子どもに内在する問題として捉えられやすい。しかし個々の暴力事例をていねいに分析すると、①ケアの目的や見通しなどの事前の合意、②子どもの生育歴や現況への理解、③施設の治療構造・生活構造のあり方、等に何らかの不備があったなど、むしろケアをする側の手続きやシステム上の不備が、暴力を引き出したり拡大している側面が明らかになった。換言すれば、それらの不備をなくす方策があれば、暴力の予防・軽減が可能となる。本研究では、それらのポイントを検討し、その方策を具体的に詳述した。
     次に実際に暴力が起きた場合の危機介入を検討し、①その子自身をみずからの激しい暴力性・破壊性から護る、②まわりの子どもたちの心身の安全を護る、③スタッフを消耗・燃え尽きから護る、の3つを主眼にその具体的な方法とシステムづくりを示した。
     被虐待児が示す攻撃性・暴力性の問題は、その対処だけに力を注げばよい問題ではなく、施設ケアが、①入所から退所して家庭や社会に居場所を得るまでの長期的な視野に立った支援であること、②たえず当事者の子どもを理解し直し、子どもとの合意をとり直しつつ進められる支援であること、この2点の重要さを示す問題と考えられた。暴力の問題に焦点をあてながら、2点について具体的・実践的にどうすればよいかを掘り下げる研究となった。

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2005年度研究

  • 児童養護施設における困難事例の分析

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     子どもの虹情報研修センターでは、児童養護施設職員対象の研修の事前課題として、担当するケースを一つ選び「事例概要」としてまとめることを求めている。本研究は、その「事例概要」(過去2年間全206例)の記述から、入所に至るまでの生育歴上の特記事項、入所後の子どもや家族の問題、それらに対する援助体制や取り組みの工夫等を抽出し、整理、分析することを目的とした。
     結果として以下の4点が見出された。
    ①困難な事例に、3歳までの分離体験が多く見られる。
    ② 小学校3、4年時は、適応的な行動がとれるようになり状態が安定するケースと、弱者へのいじめ、非行などの問題が生じ始めるケースに分かれる。
    ③問題が多発するケースの背景に、未解決なままに残されている家族の問題がある。
    ④好転したケースの要因として以下の5つが認められる。
    ・関係者(施設内・外)の利用・連携
    ・信頼できる大人とのかかわり
    ・子どもの発達状況や特徴、状態に適した課題や場の提供
    ・子どものよき資質や得意なことを見出し、周囲から認められる体験
    ・根気と時間をかけること

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2004年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究ー2000年から2004年亘る縦断研究の報告ー

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     被虐待児の心理的支援の必要性の認識が広まるに伴い、情緒障害児短期治療施設への期待は大きくなり、新設施設も増えている。しかし、被虐待児に対する治療効果に関する実証研究は殆どなく、情緒障害児短期治療施設の治療の留意点などを探る資料も乏しい。そこで、2000年より入所中の子どもの治療効果を探るために、縦断研究を行ってきた。
     本研究は、2000年9月1日に情緒障害児短期治療施設全17施設に在籍していた全児童を対象に、2000年10月より毎年10月に5回にわたって行った縦断調査の報告である。回収率はほぼ100%であり、ほぼ実態を示していると考えられる。入所前の状態、入所6カ月の状態、治療効果について結果を示し、考察を加えた。
     結果からは、入所前と入所後6カ月の状態の比較から、家庭から離れたことで改善する問題が多いことが示され、保護の意義が示された。また、被虐待児と虐待を受けていない子どもの改善には大きな差はなく、情緒障害児短期治療施設が培ってきた支援法が被虐待児にも有効であることが示された。多くの症状に関しては、入所後24カ月で5割から8割の改善がみられる。抑うつ、孤立などは早く改善するが、衝動、攻撃的問題の改善に時間がかかり、衝動、攻撃的問題が2年以上続く子どもたちを支援し続ける大変さが窺われた。
     数量的な結果をもとに、情緒障害児短期治療施設のケアの問題点として、学力と自己評価の問題、問題行動への対応について考察し、今後の展望について述べた。

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  • 臨床動作法の児童福祉施設入所児童への適用に関する研究(第3報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     本研究は、平成14年度からの継続研究である。昨年度のグループに参加した一人の児童に焦点を当て、その児童の状態像の変化、体験様式の変化、またそのような変化を可能にした本グループワークの治療的な意味を明確にする事を試みた。
     対象児童は、周囲の喧騒に巻き込まれて調子が上がって止まらなくなるADHD傾向や、大きな音に驚き、動物のようになる解離傾向を抱えていた。その改善を目的に、止まることを自然に促す運動課題や、環境との相互作用を楽しみつつ自分をコントロールする運動課題を中心にプログラムを組んだ。
     状態像の変化としては「止まる」ことが動きのレパートリーに加わると共に、解離機制を自律的に用いてキャラクターに成り込むことで課題を乗り越えることが見られた。また、当初は周囲の雰囲気に共振し、集団から飛び出してしまうという体験様式しか持ち得なかったが、自分自身の重さを感じ環境に働きかけると同時に、環境からも働きかけられつつ環境と一体化する「とけ込み」という体験様式を得る変化も見られた。
     状態像、体験様式の変化と並行して、対象児童はグループの中で一人離れて過ごす姿が目立つようになる。それは集団に共振するとなくなってしまう自分自身を保つために、集団との間に物理的な距離を作り、自分と集団との間に境界を創り出そうとしていたと考えられた。このグループを通じて、自分と異なる存在である集団に初めて出会うことができ、本児童の生きる世界そのものが大きく変容したことが明らかになった。
     適切に設定された運動課題に児童が引き込まれ、積極的に努力し、方略作りを行う。その過程はスタッフや他の参加者に見守られ、支持される。そのような安心できる雰囲気の中、課題を克服することで、達成感・自己効力感が高まる。そして、それが運動課題への更なる挑戦を引き出すという循環が、本グループワークの重要な治療的構造であり、上記の変化を引き起こす基盤であることを論じた。

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2003年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究(第2報)

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     情緒障害児短期治療施設に対する被虐待児への心理支援への期待は大きく、2000年10月から2003年10月までの間に8施設が開設した。しかし、多数の被虐待児を受け入れる過程で施設崩壊に近い大きな困難に見舞われた施設もあり、開設当初の施設運営の難しさが見られた。そこで本研究では、2000年10月から2003年4月までに開設した5つの情緒障害児短期治療施設を対象に調査を行い、開設時の問題点、留意点を探った。
     前年度に報告した縦断調査と同じアンケート調査を行った結果、入所時の特徴に施設による差異が大きいことが示され、地域の事情の差もうかがわれた。特定の大人との関係や、睡眠や食事などの領域では各施設共通して改善しているが、問題行動が新たに出現したなど悪化した項目がある施設もあった。
     そこで、2人の研究者が5施設の中の4施設に赴き、事例検討会に参加し、問題点を考察した。その結果から、「入所時のあり方と児童との最初の出会い」「生活援助のあり方」「セラピーのあり方とセラピストの役割」「親(家族)とのかかわり」「学校教育をめぐって」「地域の中の施設」「児童相談所、行政との連携」「施設の居住環境」の8項目について考察を加えた。問題点は挙げられたものの、各施設のスタッフの真摯な努力と模索が共通して見られた。その努力を生かすために、情緒障害児短期治療施設のケアにおいて核となるべき基本的な共通理解がまとめられ、全体で共有されることが、今後の課題とされた。

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  • 臨床動作法の被虐待児への適用に関する研究 (第2報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     本研究は、前年度からの継続研究である。今年度は新たなメンバーでのグループ全9回のセッションを基に、①様々な問題を抱えた参加児童に合った運動課題の開発と、②その課題に取り組む中での個々の子どもの変化、③グループプロセスとそれが参加児童に与える影響の3点について考察を行った。
    ① 参加児童の多くはじっとしていられない、一度動き出すと止まらない等、自分の体のコントロールに問題を抱えていた。また、すぐに他人と張り合ってけんかになる、負けることを受け入れられないなど、対人関係の問題を抱えている子が多かった。その問題の解決をめざすための、楽しみ、リラックスしながらも体の制止を促す運動課題(だるまさんがころんだ、動作法)、子ども同士の直接的な交流を目指した運動課題(タオルキャッチボール)の詳細とその意義について具体的に述べた。
    ② 運動課題に取り組む中で、参加児童は、苦手な運動課題にも取り組む、腰の引けた姿勢が改善する、協力的な構えを得る、課題の前に練習をする、自分でさらに難しい課題を設定するなどの変化が見られた。そのような変化を参加児童それぞれについて記述した。
    ③ 回を重ねるにつれ、参加児童が運動課題に集中し、また各自の挑戦を皆が尊重する雰囲気(規範)が醸し出された。課題が明確である、課題が繰り返され、課題に対する方略が工夫されやすい、自分の努力や方略に対する承認、支持があるなどのグループの特徴は、リジリエンス(自然治癒力)を伸ばす概念に重なることが明らかになった。現在の身体運動の特徴を形作ったトラウマ的な過去を再体験し乗り越えるという方向だけでなく、自我の強さ、弾力性を養うという未来志向のアプローチでもあることを明らかにした。

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2002年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     被虐待児の施設入所が増加し、心理支援の必要性が訴えられるようになった。情緒障害児短期治療施設は児童福祉施設の中で唯一心理治療を目的としており、被虐待児の心理支援が期待されている。しかし、被虐待児への治療効果に関する実証研究は少ない。
     本研究の目的は、縦断調査により治療の有効性、問題点を探ることであり、滝川他(2001)「児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効利用に関する調査研究」(「平成12年度児童環境づくり等総合調査研究事業報告書」恩師財団母子愛育会所収)に続くものである。
     本報告では、2000年9月1日に情緒障害児短期治療施設全17施設に在籍していた全児童を対象に、2000年10月に行った初回調査(回収率はほぼ100%)の結果を報告した。各児童について、「子どもの状態に関する調査」(睡眠、情動の傾向、特定の子どもとの関係、自分自身に対する構え、いわゆる問題行動など全19領域166項目に該当するかを問う)と加藤他(2000)の作成した「リスクアセスメント」を、担当職員が中心となって評定した。
     虐待の種類や性別に加え、リスクアセスメントによる対象集団の特徴を示し、「子どもの状態に関する調査」の各項目とそれらの特徴の関連を調べた。殆どの領域で被虐待児の方が被虐待経験のない児童よりも該当率が高く、被虐待経験の影響が示された。虐待の種類によって影響に違いのある項目も、虐待の種類に関わらず影響が見られる項目もあり、虐待の種類別の影響など、更なる検討が今後の課題として示された。
     また、縦断調査の中途であるが、仮説生成を目的にその時点の退所児の効果を調べた。

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  • 臨床動作法の被虐待児への適用に関する研究(第1報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     被虐待児は、心理面、対人関係面の問題だけでなく、運動・感覚機能が育っていない、または統合されておらず、転びやすい、なわとびが飛べないなど、身体運動の面でも問題を抱えている。本研究は、このような問題を抱えている被虐待児を対象として、身体運動による治療的アプローチを試みたグループワークについての事例研究である。
     「課題通りの動作をしようと努力するプロセスの中で得られる様々な体験が、当人にとって必要・有効・有用な治療体験として経験されることが真の狙いである」という動作療法(臨床動作法)の視点を活用し、運動機能の改善だけではなく、心理面、情緒面での変化・改善も可能になる治療的なグループになることを目指した。
     月1回、45分間、全7回のセッションを詳述し、以下の3点について考察を行った。
    ① 参加児童が見せる身体運動、動作の特徴は、生活場面での児童のあり方と密接に関連していることが明らかになった。それゆえ、身体運動の変化が生じることによってその子自身の物事への構えが変わる可能性について論じた。
    ② その子に必要な運動課題を工夫・設定し、その運動課題を毎回繰り返すことによって、不安や恐怖を抱えた被虐待児は安心感を抱き、課題に集中して取り組み、自分なりの方略を考え、試行錯誤していけることが明らかとなった。
    ③ それぞれの子が運動課題に集中すると、他の子にアドバイスをしたり、応援をしたりと普段見られない協力する雰囲気が生まれた。また、グループ全体に躍動感が生まれるなどのグループに生じた変化について記述した。
     運動課題の設定については、以下の論文(藤岡他「身体運動による被虐待児のグループアプローチ」子どもの虹情報研修センター紀要№1 2003)も参考にしていただきたい。

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