文献・研究等の収集と分析

2023年度研究

  • 研修資料 2019~2022年度 障害児の虐待死に関する研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

2021年度研究

  • 子ども虐待に関する文献研究 児童虐待重大事例の分析 2010年~2020年(第1報)

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    2021年度の文献研究は、2011年から2020年までに起こった児童虐待による死亡事例をはじめとした重大事件をピックアップし、それらについての文献、資料等を収集、分析を行う。2021年度には2011年から2015年までの事件、2021年度には2016年から2020年までの事件を対象とする。なおこの研究は、2000年から2010年までの事例を取り上げた「児童虐待重大事例の分析」(平成22年度、平成23年度報告書)に続くものである。繰り返し報道されるなどして、社会が注目し、児童虐待の防止制度や対応の在り方に影響を与えた事件を数十例抽出し、事例の内容、発覚後の経過、検証報告書などによる事例への評価、事件の影響などをまとめ、各事例に共通する事柄や重症化を予防する視点などを分析、考察することを目的とする。

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2020年度研究

  • 虐待の援助法に関する文献研究(第10 報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第9 期(2017 年4 月から2019 年3 月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学)

     本研究は、2017年4月から2019年3月までの児童虐待に関する法令、判例及び法学研究の動向を分析し、虐待対応の動向や研究の意義を法学、社会福祉学、心理学等の観点から明らかにすることによって、その後の児童虐待問題に対する法的対応に与えた影響を探ることを目的としている。
     今期の重要な動向として、2017年の児童福祉法等の改正や関連分野の法律の成立・改正がある。2017年の児童福祉法等の改正では、2か月を超える一時保護に対する家庭裁判所の承認制度や在宅指導措置に関する勧告制度が創設ないし改正された。関連法として民法における特別養子縁組制度や母子保健法の改正のほか、成育医療基本法が成立した。通知としては、2016年、2017年の改正児童福祉法施行のための多くの通知が発出された。その後、東京都目黒区や千葉県野田市、北海道札幌市において重大な児童虐待死亡事例が発生し、社会的にも重大な関心事となったことから、国は関係閣僚会議を開催して重大な決定を公表し、機関連携や居所不明児童の安全確認等に関する通知が数多く発出された。これらの動向は、2019年の児童福祉法等の改正につながることになる。
    判例の動向としては、児童福祉法分野では、揺さぶられ症候群(SBS)をめぐる事件で入所措置承認申立を却下した事例や一時保護の延長を認める審判例が、民法分野では親権喪失事件で原審と控訴審で判断が分かれた事例が公表された。行政法分野では、一時保護の違法性を争う事例が依然として多く、里親委託解除の違法を争う事例も増えてきている。刑事法分野では、司法面接(協同面接)の結果と証拠能力・証明力の判断に関する裁判例、性的虐待やSBS事案で判断が分かれた事例、強制わいせつ罪に関する判例の変更等が注目される。
     研究活動としては、児童福祉法分野については、関連学会において司法関与に関連する改正法の内容や課題に関するシンポジウムが開催され、学会誌には、児童相談所における弁護士配置や一時保護をめぐる論考が掲載された。北欧や中国等における児童虐待防止法制度の動向が紹介され、児童虐待問題に対する介入的傾向の当否を比較法の観点から論ずる書籍や特集が編まれた。民法分野では、成年年齢の引き下げに関する民法の一部改正法が成立する一方、特別養子縁組制度の改正が議論され、これら法改正に関する解説書や論考が数多く公表された。また、慈恵病院が導入の検討を表明した内密出産制度に関する議論も活発化した。刑事法分野では、実体法の領域で、児童福祉法や民法の改正さらには性犯罪処罰規定の改正などによる刑罰法令の解釈・適用への影響がたびたび議論された。手続法の領域にあっては、SBSを理由とした子どもの死亡にかかる刑事事件において事実認定のあり方が問題とされ、児童虐待の刑事事件における捜査機関の活動のあり方、司法面接(協同面接ないし代表者面接)への関与や検察による加害者の改善・更生の取組などにつき前期に引き続いてたびたび取り上げられるとともに、警察の介入による虐待の防止との関係も一段と活発に議論された。行政法分野では児童虐待に対応する諸機関の連携につき、情報共有や強制的介入のあり方が具体的な事例を素材として考察されるとともに、国家活動全体を視野に入れ、立法・司法・行政に分節して相互の関係を問う考察がなされた。 
     児童福祉、保育・教育といった子どもの生活に直結する分野では、2016年の児童福祉法改正を踏まえた施策が具体化し、同時にその効果測定への関心が調査や研究に現われ始めた。加えて、児童虐待死亡事例の衝撃は、児童福祉、保育・教育の両分野において、「児童虐待防止対策の抜本的強化」を推し進める動機として見て取れた。社会的養育では、2016年改正を受けて子どもの権利条約の精神に則り、子どもの家庭養育優先原則が明示されたことにより「新しい社会的養育ビジョン」が公表され、社会的養育推進計画の策定の通知が発出された。「ビジョン」では在宅支援が虐待対策の柱の一つとして着目され、代替養育ではフォスタリング機関事業と里親制度の充実強化等が示された。医療・保健・心理分野では、子育て世代包括支援センターが法定化され、チャイルドデスレビューによる虐待のエビデンスに関する議論が活発化した。
     これらの分野については、主要な判例、文献、調査研究に関する解説とともに、資料として、児童虐待関連通知および判例、文献リスト、児童福祉に関する年表および司法統計資料を付している。
     SBS問題や一時保護をめぐる手続、子どもの権利擁護、社会的養育推進計画の実施等、残された重要課題のほか、新型コロナウイルス感染防止に伴う孤立や貧困問題など、新たな課題も生じている。これら児童虐待をめぐるさまざまな課題への対応には、公私の取組みの充実や関係機関の連携が今後ますます求められるところから、調査研究の成果を共有し実際の対応に活かすには、児童虐待防止関連法分野に関する文献学的研究の重要性は、今後さらに増していくものと思われる。

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  • 子ども虐待に関する文献研究 親の精神疾患と子どもの育ち

    研究代表者名 長沼 葉月(東京都立大学)

    1.目的
     精神疾患のある親と暮らす子どもがどのような体験を積み重ねて育っていくのか、どのような支援が有用なのかに関して示唆を得ることを目的とした。
    2.研究の内容
     まず、海外の文献から精神疾患のある親と暮らす子どもの体験に関する研究や支援の取り組みの在り方について重要な要素をまとめた。次に和文文献から、精神疾患のある親と暮らす子どもの困難と必要とされる支援について、子どもの目線からの文献を取りまとめた。先駆的な支援実践例についてもまとめた。子どもの困難が顕在化してくる学齢期に関しては、学校が重要な役割を担うこととなるため、既存の調査報告書やスクールソーシャルワーカーの実践活動事例集を素材として分析を行った。また支援に有用な絵本について検討した。
     海外の文献のレビューからは、精神疾患のある親と暮らす子どもは、そうでない家庭で育つ子どもと比べて精神医学的な問題を抱える割合が高いことが報告されている。生活上の困難としては、「親の心の病に対する子どもの理解や不安」、「子ども自身の困難」、「親子の関係の問題」、「対処戦略の変化」、「社会的交流の問題」が挙げられた。そして、必要な支援要素として①精神疾患やその影響について十分な説明があること、②信頼できる大人と話をする機会があること、③一人ではないことを知る機会があることが挙げられた。海外で行われている家族参加型プログラム、ピアサポート、オンライン介入、ビブリオセラピーのそれぞれの具体的なプログラム例についても紹介した。
     次に日本における子どもの体験として、子どもが幼い頃から訳の分からぬまま親の症状を見るしかない生活、世話をされない生活の苦しさに直面すること、思春期以降も精神的な不安定さを持ち、我慢を強いられ、安心できる人や場所がないことや支えられない苦しさを抱えること、そしてそれらが青年期以降の生きづらさにつながることが示された。子どもに対して親の精神疾患に関する説明があるかどうかや周囲の大人が状況をどう捉えているかで、子どもへの影響が大きく変わることや、援助を求めづらい社会構造があることが指摘された。その上で子どもに対する調査から、望ましい支援の要素として精神疾患に関する理解や親の症状に巻き込まれないように保護されること、生活面での世話、家族相互の愛情、親と距離を取り自分のための時間を過ごすこと、他者からの継続的な支えについて挙げた。
     学校教員を対象とした調査からは、教員の気づく目が重要であること、小学生と中学生では子どもの示すサインが異なることが示唆された。またスクールソーシャルワーカーの実践事例集からは、スクールソーシャルワーカーが関わる事例は子どもの不登校や、家庭の衛生環境が悪化してゴミ屋敷化するなど、問題が顕著になってからの介入であることが多かった。支援としては継続的に粘り強く家庭訪問を繰り返して親との関係を構築してから、様々な支援の利用に至ることが多く、特に未受診の親に対するアウトリーチを誰がどのように担当するべきかという課題が示唆された。
     以上から以下のことが示唆された。精神疾患のある親と暮らす子どもは、その年齢に応じて様々な困難に直面する。親の精神疾患について子どもの状況に応じて対話を重ねることの重要性が示された。同時に、親と子の生活を支えるサービスと、子どもが自分のための時間を過ごせる居場所の必要性が示唆された。

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2019年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 社会的養護における子どもの喪失体験

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    1.目的
     近年、虐待を受けて社会的養護を必要とする子ども達が増加している。子ども達の多くは、虐待等の不適切な養育の結果、愛着やトラウマなどの心的課題を抱えている。同時に養育環境の変化や愛着対象との離別等による喪失体験を繰り返しており、施設入所や里親委託さえも、それまでの環境からの離別による喪失を体験することとなる。しかし愛着やトラウマ等の心的課題に比べて、喪失に焦点をあてた文献や研究は少ない。そこで本研究は、子どもの喪失体験に焦点を当てた文献や研究をレビューし、喪失の子どもに与える影響等について、文献や研究報告を通して整理する。さらに社会的養護の元で暮らす子どもの喪失について、戦後の戦争孤児から現在の虐待を受けた子どもの喪失体験とそれが及ぼす人生への影響等、文献や研究を通して分析、整理することを目的とする。
    2.方法
     まず、心理学事典等で「喪失」の概念整理を試み、次に「喪失」「死別」「離別」「分離」×「子ども」「児童」「施設」「社会的養護」をキーワードにインンターネットおよびCiNiiで著書、論文等を検索し、喪失に関連する内容のものを収集した。さらに収集した著書等の引用・参考文献をもとに拾い切れていない著書等を収集した。
     収拾した著書等について、子ども一般を対象として喪失が述べられたものと社会的養護の子どもの喪失体験に関するものに分け、分析を行った。
    3.結果・考察
     分析した結果と考察の概要は以下のとおりである。
    ① 子どもの喪失体験についての文献の多くは、親等の重要な対象との死別や離別を扱ったものが多いが、喪失の悲しみや悲嘆は、重要な他者の喪失だけに限定されるものではない。例えばGoldman(2000)は、①関係の喪失、②物の喪失、③環境の喪失、④自己の喪失、⑤習慣の喪失、⑥将来の喪失、⑦大人からの保護の喪失という7つの喪失に分類している。また髙橋(2016)は「別離としての喪失」「心理社会的な喪失」「あいまいな喪失」の3つの視点で整理している。
    ② 子どもの喪失への対応に必要なものとして、Bowlby (1980) は、第1に、喪失前に子どもが両親と適度に安定した関係を結んでいること、第2に、子どもに正確な情報が与えられ、家族と悲哀を分かち合ったりすることが許されること、第3に、親密な代理者が存在し、子どもの慰めになり、その関係がその後も維持されるという保証があることと述べている。James & Friedman(2001)は、喪失を経験した子どもに必要な対応は「彼らの悲しみに寄り添い子どもの話に十分に耳を傾けること」とし、その逆の「適切ではない対応」として、「泣いてはいけない」、「喪失の置き換え(代わりのもので補う)」、「1人で悲しみに浸れ」、「強くあれ」、「忙しくせよ」、「時間がすべてを癒す」という支援者側の姿勢であると指摘している。
    ③ 戦争孤児と高度経済成長期以降の虐待等によって施設入所となった子どもとでは、親との死別の有無という点で本質的に異なるとの認識が一般的だが、Goldman(2000)の定義する喪失を踏まえると、両者には共通した喪失のテーマがある。それは、関係性の喪失、それまでの家や環境の喪失、逆境状況における自己の喪失、習慣の喪失等である。
    ④ 社会的養護における子どもは、さらに多くの喪失体験を繰り返す可能性がある。それらは以下のようなものである。
    ・ 入所・委託による、それまで自分を支えてきた諸要件(友人、活動、家、家具、地域など)の喪失
    ・ 担当者の変更や施設の措置変更、里親家庭の変更等の新たな喪失
    ・ 環境の変化や対象との分離を繰り返すことによる自己一貫性や自己の歴史性の喪失
    ・ 子どもの過去に関する「協同記憶」が、再生されにくく、これも自己一貫性や自己の歴史性の喪失につながる
    ⑤ 過去の外傷体験が、自分の存在価値の喪失となり、特にアイデンティティの課題に向き合う思春期・青年期の子どもにとっては、実存の危機となる。
    ⑥ 喪失を乗り越えるための意義ある取り組みについて述べられた見解を以下にまとめる。
    ・ 彼らの悲しみに寄り添い、子どもの話に十分に耳を傾け、彼らの言葉にならない複雑な思いを想像し、受け止めていく姿勢が基本となる
    ・ 入所・委託の際に、それまでの暮らしで子どもを支えてきた大切な人やものや活動等の諸々を入所・委託後もつなぎ、継続できるよう充分な配慮と対応をすること
    ・ 措置変更や養育者の変更を可能な限り避け、それがどうしても必要な場合は、例えば「ならし保育」など、移行に伴う手だてを十分に行うこと
    ・ こどもの過去の思い出などを養育者と子どもと共有し、支援者との協同記憶としていくこと
    ・ 幼少期の逆境状況による外傷ストーリーの回復過程において、時に思春期・青年期に生じやすい実存的絶望について深く理解し、寄り添い、粘り強く支えること

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2018年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 わが国の児童福祉領域におけるアタッチメントに関する理論の系譜

    研究代表者名 久保田 まり(東洋英和女学院大学)

    1.研究目的
     本研究の背景として、近年の児童虐待の増加と「被虐待児の愛着の問題」への注目に伴い、児童養護施設等のケアにおいても「愛着」が中心的な課題となってきていることが挙げられる。それ故、本研究は、わが国の児童福祉領域において、愛着の概念や理論がどのように紹介され、受け入れられ実践に導入されてきたのかについて、主として第二次世界大戦後から現在までを通じ、その変遷を探る。具体的には、本研究は文献研究とし、国内の研究論文、書籍、実践報告、および関連する海外の研究論文を渉猟し、今後の支援策の析出に貢献できるよう、体系的にまとめ上げることを目的とする。
    2.概要
     本文献研究は、Ⅷ章から構成されている。Ⅰ章では、戦後から現在までの日本の児童福祉領域において、「愛着」の概念や理論がどのように紹介・導入され、実践に活かされてきたのかをまとめている。欧米のホスピタリズム研究の中でも、特に児童福祉領域に大きな影響を及ぼしたBenderの貢献や、谷川を中心とした「日本の施設児のホスピタリズム」の実態調査、『社會事業』誌上で展開された福祉実践家たちのホスピタリズム論争とその終焉、そしてその後の高度経済成長期をはさみ、現代の児童虐待の増加に伴う「愛着理論」の(再)重視の流れ、等を体系的にまとめた。Ⅱ章ではBowlbyの愛着理論の骨子および、児童虐待にも関連する現代の愛着研究の動向をまとめた。前者については、愛着という絆のもつ意味や、愛着のコントロールシステム理論、愛着パターンの個人差について概説した。また、後者については、具体的には、愛着システムの崩壊のメカニズムや、代替養育者の愛着形成の可能性などについての研究を概観した。Ⅲ章では、重篤な虐待やネグレクトを受けた子どもに見られる「愛着の発達精神病理」について、愛着障害、愛着とトラウマ、デプリベーション児を対象とした大規模な縦断研究である「ルーマニア研究」の三点についてまとめている。Ⅳ章では、乳児院や児童養護施設での担当養育者との愛着形成の実践とその効果、および「生活臨床」ということに留意した研究を紹介している。Ⅴ章では、愛着に問題を持つ子どもの心理療法を中心としたケアの実践について紹介している。Ⅵ章は、里親制度や里親養育(養子縁組里親を含む)について、里親家庭での愛着形成の問題と課題、および「SOS 子どもの村JAPAN」の実践、パーマネンシー概念と養子縁組里親の問題についてまとめている。Ⅶ章では、愛着理論に基づく親子支援の理論と実際をテーマとして、具体的には、「セラプレイ」と「サークル・オブ・セキュリティ」のプログラムについて詳述している。最後のⅧ章では、愛着理論に基づく児童虐待の援助的介入プログラムと効果について、海外の実践研究を概説している。一つは、Healthy Families America(HFA)プログラムについてであり、虐待の世代間連鎖のメカニズムを概観した上で、アウトリーチ型(保健師による継続的家庭訪問支援)のHFAプログラムの概要と、15年後のフォローアップ調査を通した効果測定の結果について紹介している。二つ目は、発達精神病理との関連が指摘されている「D型愛着」の早期介入プログラムであるAttachment and Biobehavioral Catchup(ABC)プログラムの内容とその効果について紹介している。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第9報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第8期(2014年4月から2017年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、戦後のわが国の児童虐待対応において、法学分野が果たした役割を明らかにすることを目的とする。
     これまでに7期に分けて法学文献資料を収集し報告書を作成してきた。今期は第8期として、2014年4月~2017年3月における児童虐待に関する法制度及び法学文献・資料の研究を行った。内容としては、法令・判例および法学研究の動向を分析し、主要判例の解説を行った。併せて、主要文献・調査の紹介と解説を行い、法学分野が果たしてきた役割を明確化した。また、資料として、①児童虐待関連通知、②民法分野判例リスト、③刑事法分野判例リスト、④行政法判例リスト、⑤児童虐待関係文献リスト、⑥日本における児童福祉に関する年表、⑦児童虐待司法関係統計を掲載している。

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2017年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 非行と児童虐待

    研究代表者名 富田 拓(国立きぬ川学院)

    1.問題と目的
     児童虐待と非行には密接な関係があるとされていているが、そのような理解や概念は時代によっても違い、立場によっても異なる。今回の文献研究では、そうしたことも踏まえ、戦後から日本社会において、主に児童福祉における非行対応、児童虐待対応の中で、それらがどのように絡み合い、どういった議論がなされてきたのか、それぞれの現場での議論も含め文献をレビューすることにより検討を行う。
     なお、この分野についてのすべての文献を網羅することは膨大過ぎて筆者らの手に余るので、今回は、選択的にテーマを設定し、検討を行った。
    2.方法
     国立国会図書館、CiNii、聞く蔵等を利用し、キーワードを「非行と虐待」を基本とし、非行については、「犯罪少年」等広がりのある言葉も含め検索を行った。結果、500以上の文献が初期には収集されたが、その中から取捨選択し、テーマを以下のように設定した。
    ・「近代日本における非行と児童虐待に関する認識」
    ・「非行と虐待に関する量的研究の動向」
    ・「非行と虐待に関する新聞記事の動向」
    ・「児童相談所における非行ケースへの対応―児童相談事例集掲載ケースの検討から」
    ・「日本の精神医学は非行をどう見てきたか」
    ・「各種虐待の被害体験と非行・反社会的行動」
    3.結果と考察
     「近代日本における非行と児童虐待に関する認識」では、児童虐待防止のための組織の活動が欧米各国で展開される19世紀末から20世紀初頭において、日本の関係者が児童虐待と非行、犯罪をどのように捉えたかを考察している。主として留岡幸助、山本徳尚ら草創期の感化院関係者の認識を概観し、原胤昭と菊池俊諦らの論考を検討している。
     「非行と虐待に関する量的研究の動向」では、戦後から行われてきた数量的研究のうち、特に非行と虐待について検討したものについてレビューを行った。
     「非行と虐待に関する新聞記事の動向」では、「非行と虐待」で検索しヒットした1985年から2017年までの新聞記事716記事のうち、176記事について検討を行い、それらの新聞記事の特徴を分析した。
     「児童相談所における非行ケースへの対応―児童相談事例集掲載ケースの検討から」では、1949年から1998年まで出版されていた児童相談事例集(児童のケースワーク事例集、児童福祉事業取扱事例集)を年代順に見ることで、その時々に児童相談所がどのように非行を扱っていたかの比較検討を行った。
     「日本の精神医学は非行をどう見てきたか」では、日本の精神医学の黎明期に精神科医が少年非行に強い関心を寄せたのはなぜだったのかというところから、家族などの虐待的生育環境に着目することになったこと、そしてその後司法精神医学が非行に対する興味を大きく減じ、近年の発達障害と非行との関連への注目、虐待と非行の関連の再発見と続いて、司法精神医学がようやく発達の視点をもつに至った経緯を文献を通して明らかにすることを目的とした。
     「各種虐待による被害体験と非行・反社会的行動」については、特にネグレクトや男性の性被害などあまり言われてこなかったことに注目した。これらの被害体験と、非行、問題行動との関連を考えたとき、どのようなことが今まで言われ、どのような課題があるかについて検討を行った。
     今回は、非行と児童虐待に関する文献について、特に国内文献を中心に検討を行った。歴史的には、児童福祉の始まりの時期から関連が言われていた。「児童虐待」と同様に、時代による言葉やとらえ方の変化が見られるものの、社会的にも、専門家の間でもその関連については関心が払われていた。特に、児童虐待に関する関心が児童虐待防止法成立前後で高まったが、その流れと同じ頃に非行と虐待の関連が再発見されたことになる。しかしながら、虐待が非行へ及ぼす細かい影響や長期的な影響、予後を追った研究は我が国では行われてこなかった。なぜこのような状況なのかということへの関心を持つとともに、今後は量的及び質的にこの分野に関する研究をさらに行うべきであると考える。

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2016年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 子どもの貧困と虐待

    研究代表者名 川松 亮(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献の概観・分析を目的とした継続研究である。2016年度は「子どもの貧困と虐待」に関する文献の収集と整理を行った。大きく海外と日本の文献に分けて分析を行った。
     海外の文献は、1989年以前という早い時期から見られるが、その後も量的には増加しており、2010年以降も同様に推移していることが伺えた。2016年9月5日の時点で、データベースから2752件の文献がヒットした。
     特に2010年以降という、比較的新しい時期の論文群に注目し、最近の知見等が包括的にまとめられている、OECDのレポート“Economic Determinants and Consequences of Child Maltreatment”と、Child Abuse & Neglect 誌などに掲載された数点の論文の内容について、最新の動向、認識、研究方法、研究結果、課題などを探ることとした。
     OECDの論文によれば、子ども虐待に影響を及ぼすリスクとして、経済的リソースが重要な役割を担っていることは多くの研究が明確に指摘しているものの、現状として、その因果関係を示すエビデンスは(皆無ではないが)まだまだ少なく今後の課題であるとされていた。他の論文からは、虐待とそのアウトカムを分析する場合、貧困は多くの場合コントロールされる要因であり、いくつかの研究からは重要な仲介要因として経済状況が位置づけられていることが分かった。縦断データに基づいて分析された研究においても、経済的要因は虐待と関連していることが見えた。
     一方、日本の論壇上で子どもの貧困と虐待に関する指摘が始まるのは、1990年代に入ってからだが、その数は2ケタにとどまる。2008年前後に「子どもの貧困」をめぐる議論がわが国で巻き起こり始めるのと同時期に、貧困と虐待との関連性に触れた論文が集中して発表され始めた。その論拠となる調査はまだ多くはないが、いくつか公表されている。
     収集した論文は全て、貧困と虐待の相関関係に肯定的だった。とりわけネグレクトにおいてその傾向が強かった。しかし、あくまで相関の高さが確認できているにすぎず、その因果関係の分析にはさらにデータの蓄積が必要である。一方で、虐待の複合的な要因の一つとして貧困がとりあげられている論文が多く、家族形態・学歴・就労状況・夫婦関係・社会的孤立などとも絡めながら議論が展開されている。また、虐待の重症度が高いほど背景に経済的困難が見られることも合わせて指摘されている。さらに、ひとり親家庭や再構成家庭における虐待事例の経済的指標の低さを指摘するものが多かった。社会的孤立との関連性の高さに触れ、このことが支援へのつながりにくさとして現れていることを指摘した論文もあった。
     今後も引き続き、家庭が抱える他の困難要因との相互関係について多面的な分析研究をするとともに、分析の結果得られた支援のポイントを整理して、具体的な支援策を検討することが必要と思われる。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第8報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第7期(2012年4月から2014年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     児童虐待に関する法学文献の収集整理を行う本研究は、第6期までの報告書を発行してきている。
    昨年度は第7期(2012年4月〜2014年3月)における児童虐待に関する法制度及び法学文献・資料の研究を行った。
     内容としては、①法令(法律・通知等)、②判例、③法学文献、④統計資料を対象に、その動向を分析し、併せて主要文献資料等の紹介・解説を付した。これにより、児童虐待対策において法学分野が果たした役割を明らかにした。

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2015年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 精神障害をもつ保護者による虐待

    研究代表者名 長尾 真理子(白百合パークハイム)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献の概観・分析を目的とした継続研究である。本報告書では、「精神障害をもつ保護者による虐待」をテーマに、4つの視点から文献研究を行なっている。まずは、先行研究の全体的な概観を行なった。ここでは、親の精神障害は虐待のリスク因子の1つであること、児童相談所が扱った児童虐待事例を対象とした調査では約3〜6割の保護者が心身に何かしらの問題を抱えていることなど、これまでに明らかになっている知見についてまとめている。次に、妊娠中のアルコールや覚醒剤等の摂取が子どもの認知的・行動的問題に及ぼす影響について、海外の文献を中心に概観している。そして、これまでの研究において、妊娠中のアルコールや薬物の摂取が、子どもの認知機能低下を引き起こすこと、行動や適応の問題に関連があることが明らかにされていることを示した。3つ目は、児童相談所の事例集である「児童相談事例集」を対象に、精神障害を抱える養育者の虐待事例137例について分析した。最も多かったのは「アルコール使用障害」であり、次いで「パーソナリティの異常」、「統合失調症」などの事例が続いている。最後に、平成24・25年度に発表された自治体による死亡事例検証報告書のうち、加害者である保護者に精神障害があった事例19例について検討している。それにより、支援機関が関わっているもののタイミング良く変化を捉えることが難しいこと、アセスメントの精密度を上げる必要性があることなどを明らかにした。
     なお本研究においては、多くの文献や事例を対象とするため、明確な診断名がついていなくても精神障害の疑いがあるとされている事例等も含んでいる。最後に、2014年および2015年の児童虐待に関する文献一覧を掲載しているので参考にされたい。

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2014年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 児童虐待とDV

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本研究では、「DV家庭の問題」を取り上げ、収集した文献を、おもにはDV被害者の観点、及び加害者の観点から捉えたものに分けて整理した。また、DVが存在する(存在した)家族における児童虐待死亡事例についても検討した。その結果、わが国においても相当数の文献が著されていることがわかったが、先行研究や先行論文として諸外国の成果から学びつつ種々の調査等を行い、まとめているものが少なくなかった。そこで、本報告書では、「DVの目撃」という観点から、アメリカを中心に海外の文献についても収集し、紹介した。
     ここでは、本研究で明らかとなった点をいくつか述べておきたい。
     第一に、児童虐待死亡事例の検証結果などからうかがわれることとして、児童虐待を扱う現場においては、DVの理解がまだまだ表層的なものにとどまっており、本質的な理解がなされないままアセスメントがなされ、若しくはなされていないと思われる事例が見受けられた。
     その背景には、単なる理解不足というだけでなく、DV関係を把握することの難しさが感じられた。すなわち、児童福祉援助機関が、(当事者から訴えもなされていない場合も含めて)DV被害を調査し、確認するのはハードルが高く、周囲からの情報に依存せざるを得ない点が挙げられる。
     また、厚生労働省の専門委員会第7次報告は、「『身体的暴力』や『暴言』などの有無によりDVの有無を捉えようとしており、『支配-被支配』といった関係性の病理という視点に基づく情報収集やアセスメントを行っていなかった」と述べていたが、単なる暴力の有無といったエピソードにとどまらず、生活の広範なありようを見て取る必要がある「関係性の病理」を正しく判断することの困難さもうかがわれた。
     第二に、DV家庭にいる子どもへの影響は、身体的にも心理的にも多岐にわたり、母子相互の関係も含めて複雑かつ深刻な様相を呈していることが、いくつかの研究で明らかにされていた。たとえば春原(2011)は「DVに子どもが巻き込まれる構造」として7つのパターンを提示していた。
     第三に、DV加害者に対する支援をみると、必ずしも十分検討されているとは言えず、榊原・打越(2015)は「未だ課題はあるが、暴力の再発防止のために、加害者更生プログラムの受講を義務づける命令の実現を検討する段階にあろう」と指摘していた。
     なお、昨今件数が急上昇している「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」という心理的虐待への取り組みについての研究、検討も、今後の課題ではないかと思われた。
     本研究のまとめとして、「今後は、援助の具体的な実践事例を蓄積し、そこから学びつつ、DVそのものについての研究も睨みながら、DVと児童虐待の関連性や、DV家庭における児童虐待問題への対応についてさらに検討を加えていくことが望まれる」と指摘した。 
     なお、本報告書には、末尾に2013年に刊行された、児童虐待に関する文献一覧を掲載している。

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2013年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 自治体による児童虐待死亡事例等検証報告書の分析

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     自治体における児童虐待死亡事例等の検証は、2007年の児童虐待防止法第2次改正において義務化され、現在まで多くの検証が実施されてきている。ただし、検証報告書の内容は千差万別であると同時に、近年では、どの事例をとっても提言の内容など類似しているとの意見も散見されるようになった。
     こうした状況をふまえ、本研究では、地方自治体でどのような虐待死亡事例に対してどのような検証が行われているのかといった自治体検証の実態を明らかにし、検証のあり方について分析することで、より適切な検証方法や、虐待死をなくしていくための効果的な方策を検討することを目的とした。
     児童虐待防止法の施行日(2000年11月20日)から2012年3月末までの10年あまりの間に作成された、児童虐待による死亡事例等重大事例についての検証報告書を分析対象としたが、収集できたのは111報告書で、事例数は142、被害児童は153人であった。
     分析の方法としては、虐待の態様別に、これらをまず「心中事例」と「心中以外の事例」の2つに分類し、ついで「心中以外の事例」を「身体的虐待」と「ネグレクト」に再分類した。その上で、事例数の多かった「身体的虐待」については、児童福祉法が定義する「乳児(満1歳に満たない者)」「幼
    児(満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)」「少年(小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者)」に分け、年齢別、年代別にそれぞれの特徴や、関係機関の関わり方、提言内容などを吟味・検討し、分析した。
     その上で、これら全体をとおして、死亡事例に至るのを防ぎ得なかった盲点などはどこにあるのかといった点を、末尾の「まとめと考察」の中で20項目にわたって示すなど、死亡事例を未然に防ぐための教訓を導き出すよう努力した。
     詳細は報告書本文に譲るが、百以上の自治体検証報告書を収集した上で、それらを比較検討しながら分析を試みた調査・研究はこれまでほとんどなく、不十分さは残るとしても、今後の虐待対策に一定の示唆を与えるものとなったのではないかと考えている。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第7報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第6期(2010年4月から2012年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、2010年4月から2012年3月までの、児童虐待に関する法律、通知、判例、研究の動向を明らかにするものである。
     第6期において最も注目されるのは、児童虐待に関する民法・児童福祉法の改正議論が本格化し、2011年5月に「民法等の一部を改正する法律」が成立したことである。同法律によって、親権停止制度の導入、親権喪失宣告の要件及び請求権者の見直し、未成年後見制度の改正、児童福祉施設入所中及び一時保護中の児童に対する親権行使等に関する児童福祉法の改正などが実現した。
     研究の動向については、民法・児童福祉法の改正に関連した文献が数多く公表されるとともに、児童虐待に関する比較法的研究も散見された。社会的養護との関係においては、「被措置児童等虐待(施設内虐待)」に関する研究が深化された。刑事法分野において、司法面接に対する関心が第5期から引き続き高まりつつあること、被害児童の告訴能力に関する裁判例が公表されたことも注目される。さらに、2009年改正の「臓器の移植に関する法律」によって15歳未満の子どもからの臓器摘出が可能となったことに伴い、子どもに対する虐待の有無を的確に確認する体制が整備されるとともに、これに関連した通知も発出された。学校現場では、児童虐待防止に関する意識の変化も見られた。虐待死亡事例検証についてチャイルド・デス・レビュー(CDR)が動き出した一方で、2010年に2件の重大な死亡事件が発生したことは、虐待対策がなお課題を抱えていることを明らかにした。
     次期(第7期)では、改正民法・児童福祉法の運用の実情や司法面接の実施状況、家庭的養護、里親養護の促進の状況やそれに伴う新たな課題などが論じられることになる。

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2012年度研究

  • 児童虐待に関する文献紹介(2008~2011年)

    研究代表者名 子どもの虹情報研修センター 研究部

2011年度研究

  • 研修資料 平成23年度 児童の虐待死に関する文献研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

  • 児童虐待に関する文献紹介(2008-2009年)

    研究代表者名 子どもの虹情報研修センター 研究部

  • 児童虐待に関する文献研究 児童虐待重大事例の分析(第2報)

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献を概観、分析することを目的とし、平成15年度から継続して行っている。
     今年度は昨年度に引き続き、「児童虐待重大事例」をテーマとした。今回は、2007年以降の(一部2006年度の事例を含む)13事例を取り上げた。
     この第2報には、第1報で扱った2006年以前の事例には見られなかったものとして、「代理によるミュンヒハウゼン症候群」が問題になった事例、「乳幼児ゆさぶり症候群」(Shaken Baby Syndrome)が疑われた事例、医療ネグレクトが問題になった事例、「親子心中」事例、虐待によって子どもが追い詰められ重大事件を起こした事例などがある。
     本研究では、こうした児童虐待における新たな事例についての検討に加え、「自治体における検証について」、「援助機関及び機関連携に関する問題」、「児童虐待施策への影響」、「重罰化と裁判員制度」について総括を行った。
     今回分析を行ったのは以下の13事例である。①奈良県田原本町の事例(2006年)、②北海道苫小牧市の事例(2007年発覚)、③高知県南国市の事例(2008年)、④埼玉県蕨市の事例(2008年)、⑤奈良県奈良市の事例(2008年)、⑥福岡市西区の事例(2008年)、⑦岐阜県関市の事例(2008年)、⑧東京都練馬区の事例(2008年)、⑨大阪市西淀川区の事例(2009年)、⑩静岡市葵区の事例(2009年)、⑪福岡市東区の事例(2009年)、⑫東京都江戸川区の事例(2010年)、⑬奈良県桜井市の事例(2010年)。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第6報)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第5期(2007年7月から2010年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、児童虐待防止法大規模改正(第2回)後の2007年7月から2010年3月までを対象として、児童虐待に関する法令、判例及び法学研究の動向を分析し、その意義を法学、社会福祉学、心理学等の観点から明らかにするものである。
     第5期の動向としてまず注目されるのは、2008年11月の児童福祉法改正によって、社会的養護に関する一連の改革(子育て支援事業の法律上の明記、里親制度改正、小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)の創設、施設内虐待関係規定の追加など)が行われたことである。これに関連した通知に加え、2007年児童虐待防止法改正や虐待死亡事例検証を受けて数多くの通知が発出されている。児童虐待に関連する裁判例にも注目するべきものが現れ、児童福祉法28条審判事件において「代理によるミュンヒハウゼン症候群」が疑われた事例や、不作為による共犯や虐待の事実認定が問題となった刑事裁判例、児童福祉施設入所措置決定の取消や施設内虐待が問題となった行政法関係の裁判例が公表された。
     各分野の研究動向については、2007年児童虐待防止法改正や2008年児童福祉法改正に関連する研究(自立援助ホームの歴史的研究、里親制度に関する研究など)の他に、刑事介入や警察との連携の強化に関する議論、「家族への子の権利」「親に教育される子供の権利」に焦点を当てる憲法学的研究、司法面接に関する研究、「虐待と非行」や「子どもの貧困と虐待」に関する研究、スクールソーシャルワーカーの活用に関する研究などで発展がみられる。さらに、社会的養護の当事者組織の活動の全国的な広がり、子育て支援事業の展開、自治体や厚生労働省による虐待死亡事例検証なども、今期の注目すべき動向である。
     報告書には、児童虐待関係通知の概要、児童虐待関連の判例及び文献リスト、児童福祉関連年表、司法関係統計等を資料として収録している。

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2010年度研究

  • 研修資料 平成22年度 児童の虐待死に関する文献研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

  • 児童虐待に関する文献研究 児童虐待重大事例の分析(第1報)

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献を概観、分析することを目的とし、平成15年度から継続して行っている。
     今年度のテーマは「児童虐待重大事例」とした。児童虐待防止法の制定(2000年)以降、児童虐待に関する事件報道は増加し、今日に至っている。国の社会保障審議会児童部会に置かれた専門委員会は、2003年後半からの児童虐待による死亡事例の検証を行っているが、2007年の児童虐待防止法改正では、自治体においても死亡事例の検証が義務付けられた。しかし、それらの報告書で扱う内容をみると、関係した機関のあり方や連携の問題が中心で、事件そのものの経過や家族背景などについて十分に分析されているとは言い難い。そこで本研究では、2000年以後の児童虐待重大事例について、文献や検証報告書、新聞記事などを中心に整理、概観し、事件に至った経過、子どもの特徴や家族背景、社会に与えた影響などについて分析することとした。このような詳細な事例分析を積み重ねることにより、虐待予防の視点を見出すことに寄与すると考えたからである。なお、今年度は2006年までの重大事例を対象とし、2007年以降の事例は次年度研究とした。
     今回分析を行ったのは、以下の11事例である。①愛知県武富町の事例(2000年)、②兵庫県尼崎市の事例(2001年)、③山形県村山市の事例(2003年)、④愛知県名古屋市の事例(2003年)、⑤大阪府岸和田市の事例(2004年)、⑥栃木県小山市の事例(2004年)、⑦福岡県福岡市の事例(2005年)、⑧群馬県渋川市の事例(2006年)、⑨秋田県の藤里町の事例(2006年)、⑩福島県泉崎村の事例(2006年)、⑪京都府長岡京市の事例(2006年)。

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2009年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 子ども虐待と発達障害の関連に焦点をあてた文献の分析

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献、実践報告等を概観、分析することを目的とした継続研究である。本報告から、これまで同様文献や研究を概観するとともに、重点テーマを設定し、それに関する文献、研究報告等をより詳細にレビューし、分析を行うこととした。本報告で扱うテーマは「子ども虐待と発達障害の関連」である。なお、本報告からこれまでの研究タイトルを「児童虐待の援助法に関する文献研究」から「児童虐待に関する文献研究」に変更している。
     子ども虐待と発達障害の関連について文献を整理分析したところ、次のような流れが認められた。両者がそれまで「全く別の領域の問題として扱われていた段階」から、1990年の終わりころになると「発達障害が虐待のリスクファクターであるとした段階」が訪れ、2000年代中ごろからは「被虐待体験が発達障害を生じさせる可能性を認識すると共に、発達障害概念が拡大した段階」へと進む変遷である。特に人生早期の虐待的環境が脳に影響をもたらすという指摘は、これまで脳の機能障害というと、大きな外傷を除いて先天的なものに限られていた病理から、環境因(特に乳幼児の不適切な環境)を原因とする病理にまで拡大させた。これにより発達障害概念が拡大し、教育や福祉領域等、様々な臨床現場に混乱をもたらしている状況がうかがわれることが示された。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第5報)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第4期(2004年5月から 2007年6月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、2004年5月の児童虐待防止法第1回目の主要改正から2007年6月の第2回目の主要改正までの時期を対象に、児童虐待に関する法令、判例及び法学研究の動向を分析し、さらに、虐待対応の動向や研究の意義を、法学、社会福祉学、心理学等の観点から明らかにすることによって、その後の児童虐待問題に対する法的対応に与えた影響を探るものである。
     第4期は、児童虐待防止法及び児童福祉法の改正によって、介入的側面の強化と同時に、介入後の支援の拡充が図られた時期である。2004年5月の児童虐待防止法改正は、虐待の定義の見直し、通告義務者の拡大、被虐待児や虐待親への治療的支援、要保護児童の自立支援など、分離後の親子再統合に向けた施策をも含む総合的な改正であった。同年12月3日の児童福祉法改正では、市町村の相談体制の充実と都道府県・児童相談所による市町村に対する援助、地方公共団体における要保護児童対策地域協議会の設置、司法関与の強化(強制入所措置の有期限化、家裁から児相への勧告)など、児童虐待対策について抜本的な改正が行われた。さらに、2007年の児童虐待防止法・児童福祉法改正では、司法関与による強制的立ち入り制度(臨検・捜索)が創設され、親に対する児童福祉司指導の実効性を高めるための手立てが講じられた。
     各分野における研究動向も引き続き活発である。「施設内虐待」「性的虐待」への関心の高まり、虐待予防策の一つとしての子育て支援策の展開、虐待と非行との関連に対する認識の深化と実務的視点からの調査研究などが、対象期の特徴として挙げられる。厚生労働省においても、2005年4月以降、虐待によって子どもが死亡した事例の検証報告書が公表されるようになった。また、2004年の法改正の影響は、市町村の相談業務に焦点を合わせたマニュアルの作成や、地域におけるネットワークの構築などにもみることができる。

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2008年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究 戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     これまでの一連の研究は、「子ども虐待」を超えて子どもの「危機的状況」という視点から、戦後日本社会の臨床研究、文献、実践報告等を概観して分析し、戦後から2007年までを第1報から第4報としてまとめてきた。それをふまえて本報告では、性的虐待と教育心理学関係の教科書という2つのテーマについて分析した。
    (1)  2000年の児童虐待防止法施行以降、身体的虐待やネグレクトのケースについては、児童相談所をはじめ、さまざまな機関が積極的に対応を進め、新たな施策や対応方法が進んできているが、「性的虐待」については、十分に取り組めていない観がある。そこで、2000年以降の性的虐待に関する研究や文献、実践報告等を改めて分析し、研究の歩みや社会の性的虐待に対する認識、取り組み状況を分析した。そして、性的被害の後遺症が極めて深刻であること、被害児童に対する福祉的援助の必要性を考えて性的虐待についての日本の定義を見直すべきであること、早期発見・対応の難しさなどを指摘した。また、性的虐待や性的被害の内容は多岐に及び、受ける年齢や状況によってその影響は異なるため、個々の実情に合った治療的手立てを見出していくことの重要性をあげた。
     加えて、報告書では性的虐待に関する文献を5つ紹介している。
    (2)  教育分野においては子ども虐待対応における取り組みがいまだ十分でない状況が見られる。そこで、1990年代から現在に至るまでに出版された教員養成系の大学で用いられる教育心理学の教科書120冊の分析を行った。その結果、児童虐待についての記述が少なく、重要な情報すべてが記述されているわけではないこと、児童虐待に関する法制の目まぐるしい変化に対応できず、「虐待に関する法制・機関」の記述が全体的に少ないことを指摘した。

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2007年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究-戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析-児童虐待に関する文献(2000-2007年)の紹介

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

  • 虐待の援助法に関する文献研究(第4報:2000年代)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第3期(2000年6月から2004年4月まで)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター) 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究では、児童虐待防止法が成立した2000年6月から2004年4月の児童虐待防止法改正までの時期を対象として、児童虐待に関する法的問題を扱う文献や裁判例、通知等の法令を分析した。
     第3期において最も注目されるのは、児童虐待防止法の成立によって、これまで主として行政解釈によって行われてきた虐待対応が、立法による法的枠組みとして整備されたことである。これに関連した通知等も数多く発出され、さらに、「児童虐待」が各分野の学会でテーマにされ、雑誌において特集が組まれるなど、児童虐待防止法の制定に伴う影響も各所にみられる。「協定書」や「覚書」を通じた行政と民間組織とのネットワークの構築、市町村のマニュアル作成、被虐待児への治療に関する研究、親への治療命令に関する議論、非行原因としての虐待という視点の明確化などが、各分野における今期の特徴として挙げられる。
     その一方で、「児童虐待」に関する重大な問題や日本の法制度の直面している課題が明らかになったのも、この時期であった。2004年初頭に明らかとなったいわゆる岸和田事件は、教育機関と児童相談所との連携や、学校における虐待防止に向けた取り組みのあり方に一石を投じた。司法関与のあり方、強制的立入調査制度、児童家庭相談の市町村への移譲といった問題が次の改正に向けての論点とされ、さまざまな分野から改正提言が行われた。国の社会保障審議会児童部会においても、「児童虐待の防止等に関する専門委員会」報告書(2003年6月)、「社会的養護のあり方に関する専門委員会」報告書(2003年10月)、「児童虐待への対応など要保護児童および要支援家庭に対する支援のあり方に関する当面の見直しの方向性について」(2003年11月)が取りまとめられ、これらの報告書は、2004年の児童虐待防止法・児童福祉法改正の方向性を示すものとなった。

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2006年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究(第4報:2000~2006年まで)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を越えて、児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察も含めて、「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告を概観して分析したものである。この第4報では、2000年から2006年に至る社会状況と2000年以降に出版された書籍を中心に概観したが、それに加えて児童虐待防止法が施行された2000年に発行された雑誌特集号、全国情緒障害児短期治療施設協議会の紀要「心理治療と治療教育」(第1−第17巻)、日本子ども虐待防止学会の「子どもの虐待とネグレクト」誌に掲載された1999年から2006年までの事例についても取り上げた。その結果は、以下の4点にまとめられる。
    (1)  1990年代からはじまる富裕層と貧困層の二極化の流れの拡大が、少子化の進行する中で児童虐待発生ハイリスク層の拡大に影響を与えており、児童虐待をめぐる事件報道も急増した。その中で大きく報道された重大事件が、その後の法律改正や施策に強く影響を与えたと考えられる。
    (2)  2000年からの新たな動向としては、①保育、教育関係の専門家養成用テキストに児童虐待が取り上げられるようになったこと、②翻訳書の大量の出版、③児童虐待を中核とした「子どもの危機的状況」の歴史を振り返る作業が始まったことがあげられる。
    (3)  情緒障害児短期治療施設において児童虐待問題がどのように取り上げられ、被虐待児への心理臨床的援助を担うようになってきたかについて概観した。
    (4)  事例分析からは、被虐待児の心理臨床的援助が、施設内「環境療法」から「総合環境療法」へと展開していることが確認された。
     なお、本報告書では、児童虐待をめぐる記述の正確さに関する疑問と、第3報の続編として「バックラッシュ」問題について、2000年以降の国内外動向について報告した。

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2005年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究(第3報:1990年代まで)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を越えて、児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察も含めて「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告を概観、分析したものである。第1報(1970代まで)、第2報(1980年代)に続き、この第3報では1990年代以降に焦点をあてて「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析を行った。
     この1990年代は、1990年の「児童虐待防止協会」の設立に始まり、1994年の「子どもの権利条約」批准から2000年の「児童虐待防止法」の施行等へと続く、日本の児童虐待対応が大きく前進した時代である。また「児童虐待」に関する文献、研究論文も著しく増加したため、文献研究としては書籍と雑誌特集号の論文に絞って分析を行った。その結果は、以下の3点にまとめられる。
    (1)  家庭での養育困難な要保護児童の増加に伴い、2つの大きな流れ(民間活動の活発化、子どもの権利擁護の拡がり)が生まれた。その中で、専門家も含めた多分野横断的協働の実践が行われ、児童虐待防止法の成立へと繋がった。
    (2)  この1990年代は、当事者が声をあげ始め、それをふまえて社会全体に虐待についての危機意識が広がっていき、そうした中で様々な専門家が実践的援助に取り組んだ時代であった。
    (3)  児童相談所が扱った児童虐待事例の分析からは、①児童相談の拡がりと課題、②児童相談所のコーディネート機能、③児童虐待事例への積極的介入、という3つの特徴が見出された。
     なお、最後にアメリカとイギリスで1980年代後半から90年代にかけて大きな社会問題となった性的虐待と「バックラッシュ」問題についての文献研究をふまえて、日本の状況についても言及した。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第3報:1990年代)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第2期(1990年4月から2000年5月まで)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、第1期(1980年代)に続き、1990年4月から児童虐待防止法が制定された2000年5月までを対象として、児童虐待に関する法令及び法学研究の動向をさぐるものである。法学分野以外の分野の文献(児童福祉、医学、保健等)についても、前期と同様に、その内容の影響の大きさ等を勘案して、研究の対象とした。
     第2期の特徴としては、まず、虐待問題に対する社会的関心の高まりに応じて、「児童虐待」概念が次第に明確になり、各分野においても児童虐待への対応が模索されたことが挙げられる。法改正や通知に関して、1997年の児童福祉法改正、厚生省児童家庭局長通知「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(平成9年6月20日児発第434号)の発出など、児童虐待対応に向けての重要な指針が示されたのもこの時期である。裁判例についても、児童福祉法28条事件の申立件数の急増や、刑事裁判例における「虐待」の視点の導入など、虐待問題に即した対応がみられるようになった。さらに、1996年の「日本子どもの虐待防止研究会」(JaSPCAN)の設立に代表されるように、児童虐待問題に関する研究動向も各分野において活発化し、各種の児童虐待防止「手引き(マニュアル)」も数多く刊行されるようになる。
     このように、第2期は児童虐待への認識が芽生えた時期であるが、本研究では、その主たる法的関心が、まだ発見、通報、初期介入に向けられるに止まっていたことも明らかにされた。法制度についても、従来の枠組みでの対応に止まらざるをえない状況にあった。親子分離後の児童と家族への援助や家族再統合、虐待親に対する治療的介入の研究は始まったものの、まだ総合的な施策を講じるまでには至らなかった。この時期の法解釈を通じた取り組みから認識された課題や実務から提示されたノウハウの積み重ねは、第3期(2000年代前半)における総合的支援のための法制度の形成に引き継がれることになる。

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2004年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究(第2報:1980年代)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を越えて、児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察も含めて、「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告等を概観して分析したものである。戦後から1970年代を取り上げた第1報に続き、この第2報では1980年代に焦点をあてて「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析を行った。その結果は、以下の3点にまとめられる。
     ①1980年代は子どもの存在価値そのものが社会全体として薄らぎつつあったが、家事や育児よりも、遊びや仕事、社会的成功など家庭外へ意識が向かうと同時に、一方で家族は、その閉鎖性、密室性を強めていった時代でもあった。そうした中で、非行問題など様々な子どもの危機的状況において、放任と密着という一見相反する二つの傾向がみられた。②医学、法律などの領域で、それぞれの専門家が危機感を持って様々な調査研究を行った時代であった。しかしながら、専門家同士の交流がなく、「ネグレクト」という用語に対する混乱にみられるように、児童虐待という子どもの危機的状況に対する社会一般の認識は十分とは言えない時代であった。③上記をふまえて、児童相談所が、児童虐待という子どもの危機的状況をどのように捉えていたかについて、児童相談事例集に収録された事例を分析した。その結果、児童養護問題への回帰、心理主義と社会とのズレ、児童虐待への対応の今日的課題として主訴(心身障害)によってその裏にある児童虐待や児童養護問題が隠れてしまうマスキング現象、という3つの特徴が見出された。
     なお報告書では、1980年代以降の「虐待」を捉えるにあたって、重要な前提となるべき概念として家族社会学者である落合恵美子氏による「家族の戦後体制」とその崩壊をデータに基づき紹介した。さらに、戦後日本における児童虐待関連文献、研究等の年代別リストを掲載した。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第2報:1980年代)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第1期(1980年から1990年まで)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、1980年代の児童虐待の法的対応の経緯について、法学文献、判例および法令・通知を中心としつつ、医学、保健学、社会学、教育学、社会福祉学等の文献をも含めて、検討するものである。
     対象期である1980年代の全体的な状況は、次の2点に要約することができる。その一つは、この時期、児童虐待(とりわけネグレクト)が社会的にまだ十分に認識されておらず、その対応についても虐待対応独自の視点が導入されていたとは言えなかったことである。このことは、法改正及び通知の動向や裁判例、さらに各分野の研究動向についても全般的に言えることである。もう一つは、このような虐待問題に対する社会的関心の低さにもかかわらず、児童虐待に関する研究や調査が行われ、特に児童福祉や医療の分野では、実際的見地からの提案やマニュアルの提示などがなされていたことである。これらの先駆的研究は、法制度の積極的活用を提案するまでには至らないものの、その後の児童虐待防止の大きな流れにつながるものとして注目されるものである。
     本報告書は、法令・判例及び各分野(児童福祉法、民法、刑事法、医療・福祉、非行・教護)の研究動向、主要判例解説及び主要文献解説を中心に構成される。さらに、巻末に資料として、児童虐待関係厚生省通知、刑事法関係判例リスト、児童虐待関係文献リスト、児童虐待関係年表及び統計を収録し、便宜に供している。

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2003年度研究

  • 虐待の援助法に関する文献研究(第1報:1970年代まで)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を超えて、「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告等(主として『児童のケースワーク事例集』第1〜20集、『児童相談事例集』第1〜12集)を概観・分析したものである。児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察もふまえ、現代の児童虐待の援助法を考える上での有益な資料を提供し、今後どのような研究が必要であるかを探ることを目的として文献研究を行った。
     この第1報では、1970年代までの戦後日本社会における「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析の結果、広く危機的状況への適切な認識を欠いた背景として次の5点が明らかとなった。
     ①戦後の日本社会においても、子どもの危機的状況は「貧困型」から「先進国型」へと質的に変わりながら存在した。②家庭内におこる危機的状況は、児童の問題の多様化による専門家の関心の拡散と高度経済成長による地域の崩壊によって見えにくくなっていった。③児童虐待の概念規定が狭く、生命にかかわらずとも心身に影響を残すであろう身体的虐待、および遺棄を除いたネグレクト等の状況が含まれていなかった。④特に「不適切な養育」にあたるネグレクトについては、愛情剥奪や情緒的剥奪といった問題で小児医療や発達心理学の一部の研究者が扱っていたに過ぎず、子どもにとって危機的状況であるとの認識が一般社会の中で持たれていなかった。⑤「自由とはこういうもの」等といった大人の観念的とらわれが、現実の子どもの危機状況把握とそれへの対応を鈍らせてしまった。
     なお本報告書には、戦後から1970年代までの子どもの「危機的状況」に関する資料や、この研究報告に対する小児医学(小林登氏)、非行・犯罪(安香宏氏)、児童福祉(高橋利一氏)および心理治療(四方燿子氏)の四領域からのコメントを掲載している。

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