臨床・実践に関する研究(課題研究)

2002年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     被虐待児の施設入所が増加し、心理支援の必要性が訴えられるようになった。情緒障害児短期治療施設は児童福祉施設の中で唯一心理治療を目的としており、被虐待児の心理支援が期待されている。しかし、被虐待児への治療効果に関する実証研究は少ない。
     本研究の目的は、縦断調査により治療の有効性、問題点を探ることであり、滝川他(2001)「児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効利用に関する調査研究」(「平成12年度児童環境づくり等総合調査研究事業報告書」恩師財団母子愛育会所収)に続くものである。
     本報告では、2000年9月1日に情緒障害児短期治療施設全17施設に在籍していた全児童を対象に、2000年10月に行った初回調査(回収率はほぼ100%)の結果を報告した。各児童について、「子どもの状態に関する調査」(睡眠、情動の傾向、特定の子どもとの関係、自分自身に対する構え、いわゆる問題行動など全19領域166項目に該当するかを問う)と加藤他(2000)の作成した「リスクアセスメント」を、担当職員が中心となって評定した。
     虐待の種類や性別に加え、リスクアセスメントによる対象集団の特徴を示し、「子どもの状態に関する調査」の各項目とそれらの特徴の関連を調べた。殆どの領域で被虐待児の方が被虐待経験のない児童よりも該当率が高く、被虐待経験の影響が示された。虐待の種類によって影響に違いのある項目も、虐待の種類に関わらず影響が見られる項目もあり、虐待の種類別の影響など、更なる検討が今後の課題として示された。
     また、縦断調査の中途であるが、仮説生成を目的にその時点の退所児の効果を調べた。

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  • 臨床動作法の被虐待児への適用に関する研究(第1報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     被虐待児は、心理面、対人関係面の問題だけでなく、運動・感覚機能が育っていない、または統合されておらず、転びやすい、なわとびが飛べないなど、身体運動の面でも問題を抱えている。本研究は、このような問題を抱えている被虐待児を対象として、身体運動による治療的アプローチを試みたグループワークについての事例研究である。
     「課題通りの動作をしようと努力するプロセスの中で得られる様々な体験が、当人にとって必要・有効・有用な治療体験として経験されることが真の狙いである」という動作療法(臨床動作法)の視点を活用し、運動機能の改善だけではなく、心理面、情緒面での変化・改善も可能になる治療的なグループになることを目指した。
     月1回、45分間、全7回のセッションを詳述し、以下の3点について考察を行った。
    ① 参加児童が見せる身体運動、動作の特徴は、生活場面での児童のあり方と密接に関連していることが明らかになった。それゆえ、身体運動の変化が生じることによってその子自身の物事への構えが変わる可能性について論じた。
    ② その子に必要な運動課題を工夫・設定し、その運動課題を毎回繰り返すことによって、不安や恐怖を抱えた被虐待児は安心感を抱き、課題に集中して取り組み、自分なりの方略を考え、試行錯誤していけることが明らかとなった。
    ③ それぞれの子が運動課題に集中すると、他の子にアドバイスをしたり、応援をしたりと普段見られない協力する雰囲気が生まれた。また、グループ全体に躍動感が生まれるなどのグループに生じた変化について記述した。
     運動課題の設定については、以下の論文(藤岡他「身体運動による被虐待児のグループアプローチ」子どもの虹情報研修センター紀要№1 2003)も参考にしていただきたい。

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