臨床・実践に関する研究(課題研究)

2003年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究(第2報)

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     情緒障害児短期治療施設に対する被虐待児への心理支援への期待は大きく、2000年10月から2003年10月までの間に8施設が開設した。しかし、多数の被虐待児を受け入れる過程で施設崩壊に近い大きな困難に見舞われた施設もあり、開設当初の施設運営の難しさが見られた。そこで本研究では、2000年10月から2003年4月までに開設した5つの情緒障害児短期治療施設を対象に調査を行い、開設時の問題点、留意点を探った。
     前年度に報告した縦断調査と同じアンケート調査を行った結果、入所時の特徴に施設による差異が大きいことが示され、地域の事情の差もうかがわれた。特定の大人との関係や、睡眠や食事などの領域では各施設共通して改善しているが、問題行動が新たに出現したなど悪化した項目がある施設もあった。
     そこで、2人の研究者が5施設の中の4施設に赴き、事例検討会に参加し、問題点を考察した。その結果から、「入所時のあり方と児童との最初の出会い」「生活援助のあり方」「セラピーのあり方とセラピストの役割」「親(家族)とのかかわり」「学校教育をめぐって」「地域の中の施設」「児童相談所、行政との連携」「施設の居住環境」の8項目について考察を加えた。問題点は挙げられたものの、各施設のスタッフの真摯な努力と模索が共通して見られた。その努力を生かすために、情緒障害児短期治療施設のケアにおいて核となるべき基本的な共通理解がまとめられ、全体で共有されることが、今後の課題とされた。

    報告書ダウンロード

  • 臨床動作法の被虐待児への適用に関する研究 (第2報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     本研究は、前年度からの継続研究である。今年度は新たなメンバーでのグループ全9回のセッションを基に、①様々な問題を抱えた参加児童に合った運動課題の開発と、②その課題に取り組む中での個々の子どもの変化、③グループプロセスとそれが参加児童に与える影響の3点について考察を行った。
    ① 参加児童の多くはじっとしていられない、一度動き出すと止まらない等、自分の体のコントロールに問題を抱えていた。また、すぐに他人と張り合ってけんかになる、負けることを受け入れられないなど、対人関係の問題を抱えている子が多かった。その問題の解決をめざすための、楽しみ、リラックスしながらも体の制止を促す運動課題(だるまさんがころんだ、動作法)、子ども同士の直接的な交流を目指した運動課題(タオルキャッチボール)の詳細とその意義について具体的に述べた。
    ② 運動課題に取り組む中で、参加児童は、苦手な運動課題にも取り組む、腰の引けた姿勢が改善する、協力的な構えを得る、課題の前に練習をする、自分でさらに難しい課題を設定するなどの変化が見られた。そのような変化を参加児童それぞれについて記述した。
    ③ 回を重ねるにつれ、参加児童が運動課題に集中し、また各自の挑戦を皆が尊重する雰囲気(規範)が醸し出された。課題が明確である、課題が繰り返され、課題に対する方略が工夫されやすい、自分の努力や方略に対する承認、支持があるなどのグループの特徴は、リジリエンス(自然治癒力)を伸ばす概念に重なることが明らかになった。現在の身体運動の特徴を形作ったトラウマ的な過去を再体験し乗り越えるという方向だけでなく、自我の強さ、弾力性を養うという未来志向のアプローチでもあることを明らかにした。

    報告書ダウンロード