臨床・実践に関する研究(課題研究)

2004年度研究

  • 児童虐待に対する情緒障害児短期治療施設の有効活用に関する縦断研究ー2000年から2004年亘る縦断研究の報告ー

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     被虐待児の心理的支援の必要性の認識が広まるに伴い、情緒障害児短期治療施設への期待は大きくなり、新設施設も増えている。しかし、被虐待児に対する治療効果に関する実証研究は殆どなく、情緒障害児短期治療施設の治療の留意点などを探る資料も乏しい。そこで、2000年より入所中の子どもの治療効果を探るために、縦断研究を行ってきた。
     本研究は、2000年9月1日に情緒障害児短期治療施設全17施設に在籍していた全児童を対象に、2000年10月より毎年10月に5回にわたって行った縦断調査の報告である。回収率はほぼ100%であり、ほぼ実態を示していると考えられる。入所前の状態、入所6カ月の状態、治療効果について結果を示し、考察を加えた。
     結果からは、入所前と入所後6カ月の状態の比較から、家庭から離れたことで改善する問題が多いことが示され、保護の意義が示された。また、被虐待児と虐待を受けていない子どもの改善には大きな差はなく、情緒障害児短期治療施設が培ってきた支援法が被虐待児にも有効であることが示された。多くの症状に関しては、入所後24カ月で5割から8割の改善がみられる。抑うつ、孤立などは早く改善するが、衝動、攻撃的問題の改善に時間がかかり、衝動、攻撃的問題が2年以上続く子どもたちを支援し続ける大変さが窺われた。
     数量的な結果をもとに、情緒障害児短期治療施設のケアの問題点として、学力と自己評価の問題、問題行動への対応について考察し、今後の展望について述べた。

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  • 臨床動作法の児童福祉施設入所児童への適用に関する研究(第3報)

    研究代表者名 藤岡 孝志(日本社会事業大学)

     本研究は、平成14年度からの継続研究である。昨年度のグループに参加した一人の児童に焦点を当て、その児童の状態像の変化、体験様式の変化、またそのような変化を可能にした本グループワークの治療的な意味を明確にする事を試みた。
     対象児童は、周囲の喧騒に巻き込まれて調子が上がって止まらなくなるADHD傾向や、大きな音に驚き、動物のようになる解離傾向を抱えていた。その改善を目的に、止まることを自然に促す運動課題や、環境との相互作用を楽しみつつ自分をコントロールする運動課題を中心にプログラムを組んだ。
     状態像の変化としては「止まる」ことが動きのレパートリーに加わると共に、解離機制を自律的に用いてキャラクターに成り込むことで課題を乗り越えることが見られた。また、当初は周囲の雰囲気に共振し、集団から飛び出してしまうという体験様式しか持ち得なかったが、自分自身の重さを感じ環境に働きかけると同時に、環境からも働きかけられつつ環境と一体化する「とけ込み」という体験様式を得る変化も見られた。
     状態像、体験様式の変化と並行して、対象児童はグループの中で一人離れて過ごす姿が目立つようになる。それは集団に共振するとなくなってしまう自分自身を保つために、集団との間に物理的な距離を作り、自分と集団との間に境界を創り出そうとしていたと考えられた。このグループを通じて、自分と異なる存在である集団に初めて出会うことができ、本児童の生きる世界そのものが大きく変容したことが明らかになった。
     適切に設定された運動課題に児童が引き込まれ、積極的に努力し、方略作りを行う。その過程はスタッフや他の参加者に見守られ、支持される。そのような安心できる雰囲気の中、課題を克服することで、達成感・自己効力感が高まる。そして、それが運動課題への更なる挑戦を引き出すという循環が、本グループワークの重要な治療的構造であり、上記の変化を引き起こす基盤であることを論じた。

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