臨床・実践に関する研究(課題研究)

2007年度研究

  • 被虐待児への学習援助に関する研究―被虐待児の感情認知および課題時の行動観察に関する研究―

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:被虐待児の感情認知に関する調査
     エラーパターンにおいては差はなかった。コントロール群では、幸せ場面でのエラーは認められなかった。被虐待児においては、幸せ場面を怒りや恐怖と認識することがあった。
    研究課題2:課題時の行動観察に関する研究
     注意やモチベーションの持続、対人距離、特定の刺激に関する情緒的反応などの問題が認められた。これらの行動特徴を理解しての学習支援が重要となると考えられた。

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  • 被虐待児に対する臨床上の治療技法に関する研究(情緒障害児短期治療施設における被虐待児への心理治療)

    研究代表者名 平岡 篤武(静岡県立吉原林間学園)

     情緒障害児短期治療施設(以下「情短」)は昭和37年に設置されて以来、主に不登校等神経症タイプの不適応症状を有する子どもへの入所型心理治療を児童福祉施設として担ってきた。しかし、現在では入所児に占める被虐待ケースの割合が平均7割を超え、施設によっては8~9割に達している。本研究では、全国30の情短で行われている、個人心理治療とグループ治療の実施状況に関する質的な調査・検討を行った。今回の調査により、被虐待児の入所比率が大きくなることによって他害的・破壊的・逸脱的な子どもの問題行動が頻繁に発生し、「施設崩壊」「スタッフの燃え尽き」が危惧される情短の現状において、各施設が行っている心理治療に関する取り組みの実態を明らかにし、課題を提起した。
     個人心理治療については、従来のような純粋に言語的なやり取りだけでは個人心理治療時間が成立し難くなっていると考えられ、活動を媒介とした取り組みや心理教育的な構造を持った取り組みが導入されつつある。被虐待児への心理治療の方向性として、従来言われてきた『成長促進的アプローチ』に加え、『安全・信頼感獲得へのアプローチ』、『行動修正的アプローチ(認知・行動への働きかけ)』が必要である。
     グループ治療については、被虐待児の入所比率が増え、安心・安全感(二者関係)のレベルで未達成の課題を有する子どもが増えていることの反映として、グループ治療には二者関係から三者関係への橋渡しをしていく効果が期待されており、より構造の明確な心理教育的アプローチが導入されてきている。被虐待児が増えたことによるグループ治療実施の困難性を克服するためには、施設間での治療技法に関する情報共有が必要である。
     巻末に30施設におけるスタッフの勤務体制、心理治療が俯瞰できる資料を付した。

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  • 児童養護施設における困難事例の分析―児童養護施設に入所した195事例の検討―

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、平成17年度の「児童養護施設における困難事例の分析」に続くものである。ここでは、援助者が抱えた子どもや家族の問題をさらに詳細に分類し、援助者がどのような課題や問題に対峙しているか、それらがどのように推移するかなどを把握し、それらを援助者が捉え、理解するあり方を整理検討し、どのような援助の工夫やアプローチをしているかを見出すことを目的とした。結果と考察は以下にまとめられる。
    ① 援助者の目につきやすい子どもの問題と、その気になって注意や感性を働かせないと見えにくい課題や問題がある。
    ② 子どもの加齢とともに変化する状態像として、就学前は基本的生活習慣と衝動性に関する問題が中心であり、小学校低学年では、活動範囲が広がる中で、学校や施設生活を困難にさせる問題が多岐にわたって見られるようになる。小学校高学年以降は、施設や学校内でのいじめと地域での非行が目立ってくる。これにより職員が見えにくい問題が増加し、さらに援助が困難となる。
    ③ 「役にたった」と感じられた取り組みや工夫としては以下の4点が見出された。
    ・核になり、しっかり受け止めてくれる、信頼できる大人とのかかわり
    ・子どもの発達状況や特徴、そのときの状態に適した課題、場の提供、かかわり
    ・その子の良い資質や得意とするところの発見、周囲から認められる体験の創出
    ・関係者(施設内・外)の連携
     この4点は、第1報告(平成17年度研究報告)と同様の結果であった。

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  • 児童虐待における家族支援に関する研究―児童福祉施設での取り組み―

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     平成16年度より児童福祉施設に家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)が配置されるようになり、家族支援の重要性と共に、支援体制や方法、その効果等について盛んに議論されるようになった。そうした状況に鑑み、本研究は、①児童福祉施設に入所している児童の親や家庭状況などの現状の把握をし、②支援状況や困難点、課題などの現状を分析し、③支援に必要な視点、システム、有効な援助方法を検討することを目的として実施した。
     方法としては、児童福祉施設(本研究においては、児童養護施設と情緒障害児短期治療施設を主に取り上げた)で家族支援の中核的役割を担う実践家を共同研究者とし、研究1として改善事例、困難事例、気になる事例(改善、困難に分類されないが、援助に困っている事例)全63事例を挙げ、改善事例の特徴、困難事例の特徴、気になる事例の特徴などを整理した。研究2は、各実践家に施設の支援状況を報告してもらい、支援に必要な体制や視点、支援の工夫などを議論し、抽出した。研究3では、より実践的な支援方法を検討するため、改善事例と困難事例の事例研究を行った。幅広く概要を捉える視点から具体性の高い内容へという構成になっている。本報告書には、このようにして抽出された必要な視点や援助の工夫が具体的に挙げられている。とりわけ、困難事例の特徴として挙げられた、アセスメントが立たないことや家族と関係が構築できないことに対応するようにして、アセスメントの視点と関係作りの工夫に多くの紙面が割かれている。援助者にとってヒントとなるような視点が抽出されているので、ご参照頂きたい。
     なお、本研究で検討しきれなかった家族支援における児童福祉施設と児童相談所の連携に関しては、重要な課題であるので、引き続き平成20年度の家族支援研究のテーマとした。

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