臨床・実践に関する研究(課題研究)

2008年度研究

  • 児童虐待における援助目標と援助の評価に関する研究―情緒障害児短期治療施設におけるアフターフォローと退所後の児童の状況に関する研究(続報)―高校生年齢児童の支援の現況と問題点

    研究代表者名 滝川 一廣(大正大学)

     平成18年度の情緒障害児短期治療施設(情短)退所後の児童の調査で示された問題点の一つは、就学の困難な児童が少なくないことであった。高校卒業後の進学率は65%で全国値75%に近いが、最終学歴が中卒の率は全国値0.2%に対して16%、高校中退の率も全国値2.5%に対して36%と、顕著に高いことが示された。家庭の支援に期待できず、早期から自立生活力を要求される被虐待児童が、中卒や高校中退のままで、生涯、安定した社会生活を送ることは容易でない。本研究では、被虐待状況から入所時、退所時、退所後の現在までの資料を基に、高校進学・卒業者と比較し、また、中卒・高校中退の個々の事例についてその理由を推察し、改善策を検討した。
     中卒者にはネグレクト例が多く、中学卒業前に退所し、知的能力は普通であったが、現在、半数は無職やフリーターであった。退所理由によって退所後の状況が異なり、児童の成長により退所した例は自活し、児童は治療中であるが家庭の希望で退所した例は就労したり家事を担当して家庭を支えており、児童の逸脱行為のために退所した例は、他の施設に移って退所した後も問題行動が多く、就労していなかった。各群に共通して家庭からの支援がなく、自立支援が必要なことが示された。
     高校中退者は、中学卒業時または高校在学中に退所し、知的能力に問題が無くても学力の遅れがあり、現在、半数が無職やフリーターであった。退所時に将来への希望がない、対人関係に問題を有するなど社会生活能力が不十分で、更に、家庭が生活苦を抱え、児童の養育が不十分であったと思われる。成長や進路が整って退所した男子は就職かアルバイト、女子はアルバイトか無職、退所時に医療の必要があった例では無職が多かった。中卒者と同様に、家庭からの支援が得にくいか、自身の治療がなお必要な状況にあったと推測される。
     高校生年齢児の支援体制づくりなど、退所後の児童および家庭に対する長期的で持続的な支援策とネットワークの構築、重症例の医療機関との密接な連携が期待される。

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  • 被虐待児への学習援助に関する研究-被虐待児の認知に関する研究-

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し、治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:TK式標準学力検査を用いて
     IQについては全員が良好であるにもかかわらず、国語における意味理解、漢字の書き取り、文脈理解、内容理解が低得点であった。算数では文章題、知識が低得点であった。
    研究課題2:視覚性ワーキングメモリの発達研究
     視覚あるいは聴覚の妨害刺激による視覚性ワーキングメモリーの差異は認められなかった。11〜13歳で急速に発達し成人の容量で、保持と排除の機能が成人レベルになるになることが証明された。
    研究課題3:報酬とリスクの見通しによる意志決定の特徴の解明-ギャンブル課題を用いて-
     通常課題と逆転課題において課題を正しく行うことが出来たのは、9名中3名のみであり、逆転課題においてのみ正しい行動を選択できたのは、4名であった。9名中2名は最後まで正しい行動が出来なかった。

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  • 被虐待児の学校場面における支援に関する調査研究

    研究代表者名 生島 博之(愛知教育大学教育実践総合センター)

     本研究は、被虐待児の学校場面における支援に関する調査研究である。具体的には、多くの被虐待児が入所している情緒障害児短期治療施設(10施設)に調査協力を求め、入所児童たちが通っている学校(養護学校型、分校・分級型、地元校型、混合型など)を中心に聞き取り調査を行った。
     その結果、被虐待児たちが通っている学校においては、学級崩壊などの危機的状況に面しているところも存在しており、多くの教員たちは被虐待児の教育の難しさを痛感していることが明らかとなった。
     そこで、『子ども虐待という第四の発達障害』(杉山、2007)という観点や『特別支援教育』という視点から調査内容を整理し、①大声をださないということ、②給食指導について、③パニックから守るということ、④感情コントロールの問題への対応、⑤性教育のあり方、⑥学習指導のあり方、⑦攻撃性を肯定的に活かす教育、⑧学校と情緒障害児短期治療施設の連携のあり方などについて考察し、「被虐待児の学校場面における支援」のポイントについて提言した。
     また、ハード面などに関する聞き取り調査の内容を整理し、①教員の適切な数、②本校や一般校との交流の重要性、③登校停止について、④ハード面での改善点、⑤研修センター的役割と教員の人事、などについて考察し、緊急に取り組むべき課題として、「情緒障害児短期治療施設に入所している被虐待児が通うことになる学校の基本スタイル(教員数、設備面など)を養護学校方式とし、その教育にあたっては、一般校との交流を深めること」などと提言し、「教育大学の使命・教員養成カリキュラムのあり方」についてもあわせて言及した。

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  • 児童虐待における家族支援に関する研究 第2報―児童福祉施設と児童相談所の連携をめぐって―

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本論は平成19年度に報告された第1報「児童福祉施設での取り組み」の続報である。本研究の目的は、①児童福祉施設と児童相談所との連携の現状を把握し、有効な取り組みや困難な点、課題等を分析すること、②支援を受ける家族にとって有益な連携を行うために必要な視点やシステム、方法についての検討等を行うこと、の2点である。本研究の方法は、児童福祉施設および児童相談所に所属している実践家6名によって報告された、児童福祉施設と児童相談所の連携に関する特徴的な12事例についてのメタ事例検討である。各事例及び討議内容はKJ法に準じる方法を用いて分類した。結果と考察では、児童虐待が生じた家族への支援において児童相談所及び児童福祉施設が担うべき役割と、両者の連携が困難な場合の工夫を具体的な事例を提示しながら論じた。総合的考察では、①入所前アセスメントの重要性、②ケースカンファレンス・関係者会議の開催、③援助者の交代について、④ニーズをめぐって、⑤あらためて連携とは、という5つの視点で検討した。本報告書は「連携とは、児童相談所、施設、それから家族自身によって合意された、援助可能性に開かれたストーリーが、時宜に応じて継続的に作られることである。本論でまとめられた各機関の細かな工夫は、このストーリーに基づいた実践的・経験的な示唆だと言えよう」という言葉でまとめられている。家族支援をめぐる児童相談所と児童福祉施設の連携のみならず、両者の協働関係全体に対する示唆が、実践的・具体的なイメージを持って理解されるよう提示されている。

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