臨床・実践に関する研究(課題研究)

2009年度研究

  • 被虐待児への学習援助に関する研究-被虐待児の認知に関する研究-

    研究代表者名 宮尾 益知(国立成育医療センター)

     被虐待児において認知障害が生じ、学習および行動に様々な問題を生じることはよく知られている。行動の問題に関する研究は比較的多く認められ、それなりのコンセンサスも得られている。一方、被虐待児が学習の困難を有し、知的レベルに比しても明らかな学習困難がどのような機序で起こっているのかについての研究は全く行われていない。われわれは、被虐待児の認知発達の特性を解明し、学習困難の病態を解明し治療につなげていくために研究を始めた。
    研究課題1:視覚性ワーキングメモリー機能の発達研究―被虐待児と定型発達児の比較を通じて―
       被虐待児のワーキングメモリーは、定型発達児に遅れて発達していく。聴覚妨害が定型児では妨害にならなかったが、被虐待児においては明らかに低下を示した。
    研究課題2: 報酬とリスクの見通しによる意志決定の特徴の解明―ギャンブル課題を用いて― 被虐待児と定型発達児の比較を通じて
       今回の研究からは、両者ともに未熟なパターンが多く、明らかな差異は検出し得なかった。ただ、罰回避性の傾向が認められた。このことが長期の学習意欲を賦活する際に重要な示唆を与えていることが考えられた。
    研究課題3: 被虐待児の認知および学習支援に関する研究―指導員に対する児の自発的な働きかけに注目して―
       線引き問題、選択式問題に比して記述問題が明らかに低得点であった。すなわち、記述問題児の指導者に対して、暴言、課題の放棄といったことが見られたことから、情緒的な対応方法を模索しなければいけないことが示された。また、固定したメンバーが対応している場合の改善性もそうでない場合に比して明らかであった。

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  • 児童相談所の専門性の確保のあり方に関する研究―自治体における児童福祉司の採用・任用の現状と課題―

    研究代表者名 才村 純(関西学院大学・日本子ども家庭総合研究所)

     児童相談所における専門性の確保が喫緊の課題となっている。児童相談所の専門性を左右する重要な要素として、児童福祉司の採用・任用制度が挙げられる。本研究では、児童福祉司の採用・任用実態を把握・分析することにより、児童相談所の専門性を確保するための採用・任用制度のあり方について提言を行うこととした。
     具体的には、全国の児童相談所主管課と児童相談所を対象に、児童福祉司の専門職採用・任用の実態および意識に関する質問紙調査を実施した。より詳細な情報を得るため、児童福祉司業務に従事する職員が全員福祉職、全員が行政職、最近行政職から福祉職に切り替えた自治体など特徴的な自治体について実地調査を行った。
     その結果、福祉職任用の利点として「専門性が確保できる」という意見が共通して出され、行政職を任用している自治体からは、異動サイクルが短く専門性の確保が困難、養成に時間・労力が必要などの意見が出された。児童福祉司に求められる専門性の特質は専門職者としての人格的側面にあり、これは膨大な経験の蓄積とたゆまない研鑽の結果獲得できるものであり、そのためには、福祉職の任用が必要であると考えられた。ただ、福祉職任用の課題として、昇任ポストや異動先の確保が困難であるとする意見が多く出されことを踏まえ、専門職任用の前提として、人事異動システムの改善および採用した専門職に対する人材育成計画の必要性について指摘した。国に対しては、①任用資格の厳格化、②スーパーバイザーの登録及び派遣のシステム化などを提言した。
     なお、報告書には、質問紙調査で得られたデータの詳細を掲載するとともに、実地調査についても、先駆的な取り組みなどを含めた具体的なデータを自治体ごとに掲載している。

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  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教育実践総合センター)

     近年、施設入所児おける被虐待児の増加とともに、その子どもたちを受け入れる学校現場での混乱が顕著になってきた。これまで学校現場は「虐待の発見」において重要な役割を担ってきたが、今後はケア的な側面、すなわち子どもの学校生活全般を含めて支援する際の課題を明らかにしていく必要がある。本研究では、校区に児童養護施設を持つ小中学校の教員に面接調査を実施し、学校と施設の連携について調査した。その結果は、以下の3点にまとめられる。
    ① 学校と施設の間で、子どもの背景に関する情報に関しての共有不足がある。特に子どもの「生育史」や「家族背景」などについては、「個人情報」であるため学校も施設も深く立ち入って聞いては(知らせては)いけない、という自主規制の問題が明らかになった。この傾向は、2005年4月の「個人情報の保護に関する法律」施行前後から顕著になっている。
    ② 学校の学級担任交代サイクルが早くなっていて、かつて2年持ち上がりであった小学校でも、学級担任の1年交替が増加傾向にある。虐待を受けた子どもは変化の多い生活を余儀なくされてきているが、学校システムが流動的になりつつある中で、「援助者(学級担任)の交替」をどう乗り越えていけるかが大きな課題といえる。(なお、情報共有という視点から、学ぶべきところの多い実践を行っている学校の取り組みを紹介した。)
    ③ 施設入所児の特別支援教育の活用と進路保障に焦点をあてたことによって、虐待を受けて施設に入所してきた子どもの学校適応を支援し学力保障を担う場として、特別支援学級の有用性が示唆された。また、学習ボランティアの活用や教員への面接調査などから、進路保障という大きな課題が明確になった。

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  • 専門相談における法的問題に関する相談内容の研究

    研究代表者名 佐々木 宏二(子どもの虹情報研修センター)

     子どもの虹情報研修センターの専門相談室で、平成15年度から平成20年度までに、児童虐待の専門相談・援助機関(児童相談所・都道府県・市町村・児童福祉施設等)から寄せられた法律相談(計160件)のうち、相談・援助の現場で役立つと考えられる相談事例(94件)を抜き出し、その参考回答例を作成した。回答例の作成にあたっては、弁護士の助言を受けながら実施した。
     相談事例の内容をみると、通告から調査・介入、一時保護に至る初期介入の問題、28条や面会・通信など一時保護中から措置に至るまでの親権制限に関する問題、施設や里親家庭での生活上のトラブルや親対応の問題、親権にかかわる問題などが主に取り上げられている。相談事例の一つひとつから、相談機関が直面する困難を読み取ることができる。
     法律相談は、年を追うごとに増加しており、児童虐待に対応している相談・援助機関では、法律の解釈で悩むことや、法律上のトラブルを抱えることが、近年とみに目立ってきている。
     この研究報告書は、相談現場での処遇・援助で困った時に、関連する事例のQ&Aとして実務上でも役立つ内容となっており、事例を通して法律問題の理解を深めることに役立つものと思う。

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  • 乳児院における愛着の発達支援に関する研究~乳児院を拠点とする子どもの社会・情緒的発達に適した養育環境とは~

    研究代表者名 青木 紀久代(お茶の水女子大学)

     乳児院における子どもの社会・情緒的な発達(その代表的なものとして愛着)を促進する養育・保育環境作りを目標に、心理職の立場から2年間の実践研究を行った。活動内容は、子どもの発達状況の把握と改善策の提案、養育場面に入ってのコンサルテーション、院内研修、家族関係再構築プログラムの全てが含まれる。
     1年目は、主に子どもの発達状態について、情緒面を含めたアセスメントを実施した。対象は、Y乳児院に在籍する生後2ヶ月から35ヶ月までの男女44名である。全般に言語以外の発達は良好だった。ただし情動調整が困難でケアが必要な子どもは、多く見られた。 
     これらの結果から、情動調整と愛着形成に重要な、養育者の応答的環境をより良いものとするニーズの存在を把握することができた。
     そこで2年目に、小規模ケアを受ける4名の子どもをモデルケースとして、発達促進プログラムを実施した。プログラムは、①月に一度の発達検査、②担当養育者に対する結果のフィードバック、③担当養育者と子どもの生活場面の関与観察、④②及び③をもとにした心理コンサルテーション、⑤日々の生活における個別プログラムの改良の4つから成る。
     開始時点での対象児の発達指数は、1名は平均域であったが、残り3名は平均以下~境界域であった。しかし半年後には、全対象児の発達指数は、顕著に向上した。
     コンサルテーションでは、日常できる遊びを多く提案し、子どもとじっくりと遊び込む環境をサポートしたが、その過程では、担当養育者自身の情動調整力を護るためのケアが必要となる。子どもの情動が激しく混乱するようなときに、実は担当養育者自身も大きく動揺しており、良好な応答性を保つことが難しくなるからである。
     報告書では、タイプの異なる対象児の発達過程を取り上げ、コンサルテーションの共通性を抽出した。また、一連の介入と愛着形成及び情動調整力促進との関係を検討している。

    ※報告書全文は援助機関にのみ公開しているため、PDFを開ける際にはパスワードが必要です。パスワードは「援助機関向けページ」へのログインパスワードと同じです。

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