臨床・実践に関する研究(課題研究)

2011年度研究

  • 児童相談所の医務業務に関する研究(第2報)

    研究代表者名 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)

     近年の児童虐待相談の増加を背景に、全国で常勤精神科医を置く児童相談所が増えており、これまで以上に児童相談所の医師の役割や業務への関心が高まっているが、児童相談所の医師の業務内容については児童福祉法制定以来今日まで具体的な指針が示されたことはなく、児童福祉司や児童心理司などの他の職員と比べて、常勤で勤務する医師の組織内での位置づけや業務内容は不明確な状況が続いている。そこで、これまで十分に検討されてこなかった児童相談所における医師の業務に関する包括的な研究が計画され、初年度の平成22年度には医務業務に関する資料調査、全国の児童相談所での常勤医師の配置状況の調査、常勤医師の業務内容についての聞き取り調査を行い、具体的な業務内容についての規定がなく、組織内での位置づけが不明確な現状を報告した。
     2年目となる平成23年度の研究では、現行の児童福祉法、児童相談所運営指針等の法令における児童相談所の医師の制度的な位置づけや業務に関する調査、児童相談所職員からの聞き取り調査、具体的な医師の配置事例の調査、教育・研修についての調査を行い、1年目の結果と合わせて児童相談所医師の業務指針案を提言した。児童相談所職員からは常勤医師を求める声が多かったが、現行の法令において、児童相談所業務の多くが必ずしも常勤医師でなければできないとされているわけではなく、常勤医師としての業務を改めて定義する必要性が認められた。これらの結果を踏まえ、児童相談所医師の業務指針案では、新たに医務部門を創設して、医師は医務主任として児童相談所業務に関わることを提案した。また、児童相談所が措置した児童の医学的治療についても継続的に管理・指導する業務の必要性も合わせて提言している。この提言を出発点として、今後さらに活発な議論が拡がり、より効果的な医師の活用がはかられることが期待される。

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  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携(第3報)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教育実践総合センター)

     これまでの研究で継続的課題としてきた以下の3点、すなわち①情報共有、②特別支援教育の活用、③進路問題については、本報告書でも引き続き検討した。
     また、それらに加え、本研究では、次の3点をテーマとしてとりあげた。
     ①「児童養護施設-学校間連携の事例検討」:A施設とB小学校との連携のあり方を3期に分けて検討した。とくにB小学校の取り組みは子どもに「事例性」を持たせ、「ケアの発想」を基本にしていた。また学校内連携(情報共有)を重視したこと、柔軟な教育的配慮を行ったことなどが、施設-学校間連携が安定化した要因であった。「児童養護施設を抱える学校で作り上げた、施設との連携の軌跡」:施設と協力して子どもの入所(学校案内)から退所(転出先への申し送り)までの支援体制を整えたこと、子どものサポート体制を個別に検討する「校内就学委員会」の設置などが報告された。「児童養護施設における心理士と他職員との情報共有および学校との連携」:心理士が行う他職員との情報共有では、「子どもにメリットがあり、職員に役に立つ情報」という工夫がなされていた。心理士と学校との連携は、未だ模索段階であるが、徐々に実践が蓄積されつつあることが明らかとなった。
     ②「児童養護施設と学校の連携:情報共有上の課題を中心に」:千葉県・千葉市の児童養護施設における特別支援教育対象児童の調査を実施した結果、小学校で19.7%、中学校で22.0%が特別支援教育の対象となっていた。しかし、この数字には施設によってばらつきがある。その背景には、特別支援教育に対する市町村教育委員会の取り組みの違いがあることがうかがわれた。
     ③「児童養護施設在籍児童の中学卒業後の進路動向」;地域で進学できる高校が固定されてしまうなど、現在も施設入所児の高校進学状況は厳しい。また、進学後1年以内の中退率は6.8%と全国平均1.7%の約4倍であった。子どもを育てる主体が「社会全体へと転換する」流れのなかで、資金の補助、ケアの連続性など、施設入所児の自立支援には、省庁を越えた具体的対策が必要とされている。

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  • 「親子心中」に関する研究(2) 2000年代に新聞報道された事例の分析

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、昨年度からの継続研究として、現代における「親子心中」の実態を把握することを目的に、2000年代(2000~2009年)に新聞で報道された18歳未満の子どもが被害者として死亡した「親子心中」事例を収集、分析した。以下に、本研究より明らかになった点を紹介する。
     2000年代の10年間における「親子心中」件数は395件、死亡児童数は552人であり、毎年少なくとも30件以上の「親子心中」事件が起こり、40人以上の児童が死亡していることがわかった。その中では、「母子心中」が半数以上(158件:65.1%)を占めており、次いで「父母子心中」が71件(18.0%)、「父子心中」が39件(9.9%)、「その他の心中」が27件(6.8%)となっていた。
     死亡児の年齢は0歳児が最も多く、5歳以下で半数以上を占めていた。その一方、10歳以上の死亡児も約2割を占めており、高年齢児であっても被害を受ける傾向があった。また、「母子心中」における死亡児の年齢は0歳児が多く5歳以下が半数以上を占める一方、「父子心中」では3歳が最も多く、「母子心中」における死亡児の年齢よりも高い傾向があることがわかった。
     加害者をみると、実母が単独加害者の事例では9割以上が「母子心中」の形態をとっていたが、実父が単独加害者の事例では「父子心中」は約半数で、実母も殺害して「父母子心中」に至った事例が約4割を占めていることが特徴的であった。また、実母が単独加害者の事例では、精神疾患が疑われる事例が多々見られたが、実父が単独加害者の事例ではほとんど見られず、借金や仕事上の問題を抱えていた事例がそれぞれ1割以上を占めていた。
     報告書には分析対象とした395件の事例一覧と、アメリカを中心とした海外事例も掲載しており、本研究の研究協力者である国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦氏(自殺予防総合対策センター・副センター長)による講義録『我が国における自殺の現状と課題』も載せているので参照にされたい。
     次年度は、「親子心中」に至った動機・背景について、より詳細に分析するため、裁判記録を基に事例研究を行うこととしている。

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  • 児童相談所のあり方に関する研究−児童相談所に関する歴史年表−

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     すでに60年以上の歴史を持つ児童相談所は、わが国における児童福祉の発展に重要な足跡を残してきたが、児童虐待防止法の制定・施行や、市町村が第一義的に児童家庭相談を担うこととした児童福祉法改正によって、その役割は大きな変化を遂げた。一言で言えば、児童虐待対応の最前線で業務を行っている児童相談所は、そのあり方が鋭く問われる激動の時代を迎えながら、果たすべき役割はますます重要となっていると言っていい。
     ところが、このような児童相談所で勤務する職員の経験年数は決して十分とは言えず、児童相談所の本来果たすべき役割やその意味などを深く理解し得ないまま、厳しい業務に直面している職員も少なくない。本研究は、こうした実情をふまえ、児童相談所のそもそもの原点からふりかえり、児童相談所が果たしてきた役割やその変遷をたどることで現在の業務を俯瞰し、児童相談所の今後のあり方を展望することを大きな狙いとして実施した。本報告書では、児童相談所が設置されてから児童虐待防止法が成立するまでの児童相談所の歴史を、年表を作成することで概観し、あわせて、社会の大きな流れや児童相談所を取り巻く深刻な事件などのさまざまなトピックスを取り上げ、簡潔にコメントしている。
     加えて、研究協力者の竹中哲夫氏に「児童相談所小史と展望(試論)」を執筆してもらっているので、新任の職員をはじめとして多くの児童相談所職員や関係機関の方々に読んでもらい、児童相談所が辿った歴史を知るとともに、今後のあり方を、ともに見つめてもらえればと願っている。

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  • 乳児院における子どもの社会情緒的発達を促進する生活臨床プログラムの模索~生活臨床のセンスを磨くために~

    研究代表者名 青木 紀久代(お茶の水女子大学)

     国連総会での「児童の代替的養護に関する指針」(2009)の採択後、厚生労働省のとりまとめた「社会的養護の課題と将来像」(2011)などに認められるように、施設での養育は大きな変革期を迎えており、これまで以上の質の向上や高度専門性の確保が求められている。
     このような中で、全国の乳児院は、全国乳児福祉協議会を中心に、いち早く変革に取り組み、将来ビジョンや研修体系などを整えつつあり、乳児院職員の人材育成は、焦眉の課題の一つと言える。
     こうした背景から、本研究では、乳児院の基幹的職員をはじめとした指導的立場の職員を対象に、子どもの社会情緒的発達を促進する生活臨床的なセンスをブラッシュアップする研修プログラムを、子どもの虹情報研修センターを拠点に開発することを試みた。
     具体的にフォーカスを当てたプログラムのテーマは、「関係性の視点を生活臨床として学ぶ」というものである。関係性や、生活臨床というキーワードは、重要でありながら、それを具体的に研修プログラムにどのように取り入れるかは、難しい課題である。我々は、長期にわたって実際の乳児院でアクションリサーチを行いながら、プログラムの開発を試みた。
     まず、乳児院の子どもと担当養育者の生活場面での相互作用に着目し、その映像記録から、研修素材を抽出した。これをもとに、参加型職員研修プログラムのコンテンツを作成し、実践した内容となっている。この研修プログラムは、その後もさらに改良され、継続した実践が行われている。報告書には、コンテンツの詳細と、参加者の事後アンケートなどが掲載されている。

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  • 情緒障害児短期治療施設における性的問題への対応に関する研究(第2報)

    研究代表者名 滝川 一廣(学習院大学)

     本研究は、児童福祉施設における性的問題の現状と課題、また対応方法について検討することを目的とした研究の第2報である。第1報のアンケート結果に基づき、性的問題が多く起こった施設を中心に事例分析を行い、施設内での性的問題発生のメカニズム、性的問題発生時の対応のあり方、性的問題を抱えた子どもへの治療的支援のあり方、予防の手立てを検討した。
     施設の中で起きる性的問題に関わる子どもの特徴として、①ネグレクトを受けた子どもの心的発達の未熟さ、②性被害体験が必ずしもない、③支配傾向、④孤立傾向、などがあげられた。
     施設内での問題の拡大化・深刻化の背景については、①発達の未熟な子どもの遊びなどが媒介となり、②支配服従の関係性と性的問題行動が重なり合うという二つの要因が重なり、あわせて施設環境や職員の認識の差に加え、施設全体が落ち着かないなどの状況要因も関係していることがわかった。
     性的問題への対応は、初期対応、治療教育的支援、予防的支援としてまとめた。性的問題の発生は、子どもの心的発達の未熟さに引き起こされるものであるため、発達の再保障を行うことが優先されることを指摘した。そのために、まずは生活のあらゆる場面を視野に入れた個別的対応、身体感覚の統合などを行い、それをベースに性的問題行動の振り返り、被害体験への治療的アプローチ、生育歴・ライフストーリーの整理、知識とスキル習得を行っていく必要性を指摘した。
     予防的支援として、①入所時のアセスメントの強化、②入所時の子どもへの動機付け、③性的問題と暴力を認めない文化の構築と環境整備、④プログラムの実施などをあげた。プログラムやマニュアルについては、そのプログラムやマニュアルに備わる発達保障性、治療性などの意味を十分に吟味し、個々のケース、その施設にあった取り組みを行っていく必要があることを指摘した。

    ※報告書全文は援助機関にのみ公開しているため、PDFを開ける際にはパスワードが必要です。パスワードは「援助機関向けページ」へのログインパスワードと同じです。

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  • 「発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究」―その特徴と対応のあり方をめぐって―

    研究代表者名 橋本 和明(花園大学)

     子どもに発達障害があることが虐待のリスク要因となるといった研究はこれまで数多く存在する。しかし、保護者に発達障害があり、そのことが虐待を招いてしまうという発達障害と虐待の関係を論じた研究は少ない。本研究では、①発達障害が疑われる保護者の虐待の特徴や傾向を明らかにし、発達障害と虐待とのメカニズムを把握すること、②そのような保護者への介入とかかわりのあり方を考え、虐待防止に向けた取り組みを探っていくこと、を目的とした。全国の児童相談所を対象に調査を実施し、回答の得られた計141事例を分析したところ、発達障害が疑われる保護者の傾向として、通常の虐待よりも心理的虐待の割合が高いこと、保護者の半数近くが二次障害を併発しており、保護者は孤立したり、家族員と反発あるいは対立するなど協力体制が組めずにいることがわかった。また、保護者の虐待を「非社会性タイプ」、「コミュニケーション・共感不全タイプ」、「柔軟性欠如タイプ」、「こだわり頑強タイプ」、「見通し不足タイプ」の5つに分けることができた。そして、いずれの保護者にも共通して言えることは、発達障害という特性があるがゆえに、多方面にわたって子育てに苦悩していることであった。彼らはほんの些細なところにも大きな躓きを感じ、それが育児の停滞を招いて子どもとの関係に不安を抱いてしまう。そのことを十分に理解した上で、われわれは生活全体を見渡した包括的な支援が必要となってくる。毎日の生活が少しでもスムーズに行けば、生活のなかに連続性が生まれる。そうなることで、彼らはこだわりから少し解放され、子育てにも柔軟性を生み、少し先まで見通せる展望が出てくる。このことが子育てをより適切に導く潤滑剤となり、虐待の防止につながると言える。

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