臨床・実践に関する研究(課題研究)

2012年度研究

  • 被虐待児の援助に関わる学校と児童養護施設の連携(第4報)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部附属教員養成開発センター)

    1.困難を抱えた子どもたちの学校における成長-学校内連携を基盤として-
     全校体制で特別支援教育を行っている小学校をフィールドにして、施設から通学してくる子どもたちへの支援を検討した。「運動会のダンス練習」と「特別支援級の構造化による対応」では、エピソード記述を用いて分析を行った。前者は、問題の「共視」によって子どもの葛藤を見守ること、後者ではパーソナルスペースを基盤としながら「学習する場」であることを前提とした教室作りの工夫が示された。
    2.児童養護施設における「学習」:支援者への調査から
     児童養護施設における3名の学習支援者に対する面接調査を実施した。3名はいずれも、それぞれの立場で学習支援のみを行うスタッフ(ボランティア、非常勤職員)である。支援者は、知識向上や学力向上という狭義の学習支援だけでなく、自己肯定感を高め、生活や遊びを通して社会のルールやマナー、物事に取り組む姿勢や意欲を育てるなど、「学校化」していない子どもたちの「学びの芽」を大切にした柔軟なかかわりをしていることが明らかになった。既成概念にとらわれない対話的な学習の場が、彼らの学びの基盤として重要であることが示された。
    3.児童養護施設と学校の連携-入所児童の通学状況把握調査、施設と学校との研修の実施状況調査を通して-
     都道府県教育委員会に上記調査を実施した結果、24都道府県から回答があった。入所児童の把握をしているのは6県、また施設と学校の共同研修の実施も4県にとどまり、これらは今後の重要な課題であることと考えられた。校区に施設をもつ学校の状況を教育委員会が把握し、必要な人員配置(加配教員など)を進める体制作りと、教育と福祉の共同研修など人材育成が、現場の実践者をつなぐ仕組み作りとして重要であることを指摘した。

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  • 児童虐待対応における児童福祉と医療との連携についての研究

    研究代表者名 山澤 重美(鳥取県米子児童相談所)

     本研究は、医療機関と児童相談所、児童福祉施設等、児童福祉に係わる機関がどのような関係をもち、どのような連携をすればよいかについて検討することを目的とした。
     研究は、①アンケート調査、②実践報告の2つの軸に分けて行った。具体的な研究方法と、結果の概略は以下のとおりである。
     ①アンケート調査については、全国の小児科研修指定医療機関と公立・私立の大学病院(207病院)を対象とし、医療機関側からみた児童福祉との連携について現状と課題を尋ねた。アンケート調査の結果、105病院から回答を得たが(回答率54%)、そのうち64%の病院で子ども虐待対応の専門チームが組織されていた。チームの構成は、10人前後からなる専門チームが最も多く、構成メンバーは医師が大半を占め、その7割が小児科、新生児科であったが、コーディネーター役を務める職種はMSWが最も多く、全体の6割弱を占めていた。なお、虐待対応チームの実績として、虐待対応件数、虐待通告件数、さらに対応チームの課題・問題も尋ねている。
     また、子ども虐待に対応するチームがない病院については、虐待ケースの初期対応、専門チームの必要性、専門チームの設置予定などについて調査をした。病院外との連携については、関係者会議の有無及び件数、要保護児童対策地域協議会との関わりなども項目も調査項目に入れている。
     今回のアンケート調査では、医療機関と児童福祉との連携における課題点として、医療機関と児童相談所のリスク評価とそれに伴う動きの速度の差異、情報共有のあり方などがあげられた。
     ②実践報告では、研究者の所属する児童相談所、及び連携する医療機関をとりあげ、援助した事例をふまえて、鳥取県西部地区における医療機関と児童福祉の連携について紹介している。具体的には、大学付属病院におけるマルトリートメントプロジェクトチームと児童福祉機関との連携、市立病院における児童福祉との連携、児童福祉施設と医療機関との連携について検討している。
     今回の研究では、医療機関と児童福祉施設の歩み寄りの重要性、情報共有の必要性、要保護児童対策地域協議会を中心とした地域連携の重要性、人材育成の重要性を指摘した。

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  • 「発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究 第2報」― その特徴と対応のあり方をめぐって―

    研究代表者名 橋本 和明(花園大学)

     前年度に引き続き、発達障害が疑われる保護者の虐待についての研究を第2報としてまとめた。前回は全国の児童相談所を調査対象にしたが、今回は全国の福祉事務所を調査対象とし、①発達障害が疑われる保護者の虐待の特徴や傾向を明らかにし、発達障害と虐待とのメカニズムを把握すること、②そのような保護者への介入とかかわりのあり方を考え、虐待防止に向けた取り組みを探っていくこと、を本研究の目的とした。
     その結果、合計65事例の回答が得られた。それらを分析したところ、発達障害が疑われる保護者の傾向として、児童相談所調査の時と同様に心理的虐待の割合が高く、保護者は孤立したり、パートナーや家族員と反発あるいは対立するなど協力体制が組めずにいることがわかった。また、保護者の67.7%に二次障害があり、この割合は児童相談所調査(48.2%)よりも高い数値となった。また、前回調査の第1報では保護者の虐待を「非社会性タイプ」、「コミュニケーション・共感不全タイプ」、「柔軟性欠如タイプ」、「こだわり頑強タイプ」、「見通し不足タイプ」の5つに分けたが、本調査でも同様のタイプに分類することができた。さらに、そのような保護者への支援については、保護者の特性を把握してパターンを見つけ出すことをはじめとし、わかりやすく具体的であること、ハードルを下げてできたところを評価すること、等の多くの支援方法があることがわかった。
     以上のことを踏まえ、子育てには「社会性」、「共感性」、「柔軟性」が要求されるが、発達障害を抱える保護者にはなにより「多様性」という視点が必要で、支援者はそれを援助していくことが重要であることがわかった。

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