• 母子生活支援施設における母子臨床についての研究 第1報:質問紙調査による実態把握

    研究代表者名

    山下 洋(九州大学病院)

    研究概要

     本研究は、母子生活支援施設入所中の世帯の母子関係の現状を把握し、その関係性に課題を抱えたケースへの母子臨床の可能性やあり方などについて整理・検討することを目的とした。平成24・25年度は、母子関係の実態を把握するため、全国の母子生活支援施設を対象に質問紙調査を実施した。回収率は77.4%(192/248施設)であり、入所世帯2948世帯についての回答が得られた。なお、調査は、全国母子生活支援施設協議会の協力を得て行った。
     その結果、母親については、その5割以上が18歳以降に暴力を受けており、2割以上が不適切な養育体験を経験していた。精神科に通院している母親は2割弱いることが分かった。子どもについては、年代が上がるにつれて、不適切な養育体験を経験している者の占める割合が増えていき、中学生以上では半数弱が該当していた。各年代を通して、愛着形成の障害から派生する感情や行動の調節の問題が見られ、成長の各時点において母子関係調整が重要な支援になると示唆された。
     各施設の体制については、在籍世帯が30世帯未満の施設が多く、在籍世帯10世帯以上の施設では11人以上の職員が勤務していた。心理職を配置している施設は5割強であった。入所時の情報把握では、入所理由と経緯については、ほとんどの施設で半数以上の世帯の情報を得られていた。緊急を要する状況等もあり、入所時に得られる情報が限られている場合もあると考えられた。また、孤立や虐待につながる恐れのある母子関係の調整については、多くの施設で十分できているとの自己評価ではあったが、良好な母子関係育成に向けた予防的介入や心理教育的アプローチを実施している施設は少なく、今後取り組まれるべき課題として挙げられた。
     次年度は、今回の調査をもとに複数の母子生活支援施設を対象にヒアリング調査を実施し、具体的な支援の方法・工夫等を探る予定である。

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  • 「親子心中」に関する研究 (3) 裁判傍聴記録による事例分析

    研究代表者名

    川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

    研究概要

     本研究は、児童虐待の一つの形態である「親子心中」について、その実態を明らかにし、今後の防止に寄与することを目的として、平成22年度から平成25年度までの4年間にわたって実施したものである。第1報では「親子心中」に関する先行研究の概観・分析を報告、第2報では2000年代(2000~2009年)に新聞報道された「親子心中」事例の分析を行い、現代における「親子心中」の実態を把握した。第3報となる本報告書では、「親子心中」事例の公判傍聴記録に基づき、「親子心中」の具体的な諸相(背景、動機、経緯等)について検討・分析した。
     本報告書で取り上げた「親子心中」事例は、2010~2013年の間に発生した「親子心中」事件のうち、加害者が生存し、起訴された12事例(父親加害者6事例、母親加害者6事例)である。事例検討を踏まえ、保健師、精神科医、弁護士の共同研究者3名がそれぞれの立場から、考察をまとめている。
     父親加害者6事例では、父子心中が4事例、父母子(一家)心中が2事例。父子心中のうち3事例は妻と離婚しており、そのうち2事例は離婚直後に発生していた。また、半数にあたる3事例において多額の借金があったことも特徴的であった。公判で精神鑑定が行われたのは1事例のみであったが、本報告書では「他にも精神鑑定を実施すべき事例が存在したように思われる」と言及している。
     一方、母親加害者6事例は、全て母子心中であった。4事例に離婚歴があり、離婚後に再婚したり内縁関係にあるなど複雑な家族関係がみられる事例もあった。事件前に精神科等への通院・入院歴があったのは5事例と多く、全て精神鑑定が行われた。本報告書では、半数にあたる3事例において、生育歴の中で被虐待、幼少期の不適切な養育、性被害等の経験があり、母子心中における母親の抱える問題の根深さが示唆された。
     巻末資料には、第2報で掲載した事件以降の2010~2013年に新聞報道された「親子心中」事例の一覧表、厚生労働省の検証報告書による「心中による虐待」の例数・人数、および警察庁生活安全局少年課による「親子心中」事件の検挙件数等を掲載したので、参照されたい。

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  • 今後の児童虐待対策のあり方について(1) 研究動向の把握

    研究代表者名

    津崎 哲郎(花園大学)

    研究概要

     平成12年児童虐待防止法が施行された。この間何度か法律や指針が改正され、児童虐待防止の取り組みは前進した。しかし、制度全体を見ると整合性に欠ける部分も多々見られる。この点を踏まえれば各課題を全体の整合性の中で整理する必要があるが、それを担う部署がない。以上の状況を踏まえ、本研究では、現在の制度全体を鳥瞰的に押さえ、今後の児童虐待防止制度の方向性を3年計画で検討することを目的としている。
     1年目は、既存の研究、調査データーを活用し、制度全体の課題点を整理した。以下に示した内容について検討を行った。
    Ⅰ.総務省政策評価書(平成24年1月)に基づく課題点の整理
    Ⅱ.制度検討委員会(日本子ども虐待防止学会)の提言に基づく課題点の整理
    Ⅲ.死亡事例検証から考える今後の虐待対策(1)
    Ⅳ.虐待された子どもへの医療・保健の役割と課題
    Ⅴ.教育分野における課題点の整理
    Ⅵ.児童虐待関連施策に関するアメリカ・ワシントン州における動向
     なお、巻末には、資料として当該年度に行った研究会等の議事録を収録している。
     2年目は、課題に対する解決策を検討し、その方向性と、メリット、デメリット、あるいは実現の可能性等を検証する。

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  • アジアにおける児童虐待への取り組みに関する研究 体罰の防止に向けて

    研究代表者名

    柳川 敏彦(和歌山県立医科大学)

    研究概要

     虐待に対する取り組みの先進国である欧米諸国の実態や取り組みは、従来からわが国に紹介され、わが国の対策の一助となっている。一方、アジア地域で子どもの人権擁護の概念が今なお乏しく、家庭、学校等における体罰の是非についての社会的課題が依然大きく残されている。
     本研究は、アジア各国の児童虐待の現状と課題を明らかにし、アジアにおける今後の虐待対策に資することを目的としている。本報告書に先駆け、「体罰」という社会的課題の解決への提言を目指し、アジア地域の子どもの専門家に参加を呼びかけ、アジア地域虐待防止ネットワーク(CANAL: Child
    Abuse and Neglect in Asian League)を編成した。また、研究成果の発表や研究意見交換の場としてホームページhttp://canal.wakayama-med.ac.jp/ を開設した。
     本報告書は、日本版ICAST(ISPCAN Child Abuse Screening Tools)の作成に加え、アジア地域のISPCAN研究者3名(中国、韓国、タイ)から収集した調査や地域の研究レビューなど4点を翻訳したものである。本報告書に掲載されている計5点の研究論文名は、以下の通りである。
    1) 柳川敏彦:日本版ISPCAN Child Abuse Screening Tools (ICAST)の信頼と妥当性の検討 その1-日本版ICASTの作成-
    2)Jiao Fuyong:中国本土における児童虐待とネグレクトの現状の分析と評価
    3) Yanghee Lee:韓国の国家児童保護サービスを受けている児童が経験した家族によるマルトリートメント
    4)Yanghee Lee:韓国における児童のマルトリートメント:後方視的研究
    5) Sombat Tapanya(タイ):9か国における子どもへの体罰:子の性別および親の性別による影響

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