臨床・実践に関する研究(課題研究)

2022年度研究

  • 児童家庭支援センターにおける地域支援事業に関する研究ー要保護児童に対する児童家庭支援センターの在宅支援の現状Ⅱー

    研究代表者名 武田 玲子(明治学院大学社会学部)

    (1)目的
     2021年度の研究結果で、児家センの課題として、「専門性」「人材不足」「運営費」が指摘され、実践可能な方策としては、行政や関係機関との「連携」、「専門性の確保」「児家セン間の交流」等が導き出された。
     本研究では、その点を踏まえ、専門性の向上と支援方法の共有を研究目的とし、自治体規模別にフォーカス・グループインタビュー(以下FGI)を実施し、量的質的に分析し、在宅支援プロセスを明らかにする。FGIを参考にアセスメントシートと支援計画票を作成し、児家センにおける支援方法を共有化するため、モデル事例を作成し、アセスメントと支援計画を検討するワークショップを実施する。事前事後アンケートにより効果測定を行い、専門性向上に寄与したかどうかについて検証する。

    (2)方法
     自治体の人口規模別(①政令市、児童相談所設置市②人口30万人以上、30万~10万人の市③10万人以下の市町村)に3回オンライン(Zoom)でFGIを実施した。インタビューガイドに基づき、半構造化面接によるFGIを各回約90分行い、Zoomで録音し逐語化したうえ、量的質的に分析した。
     モデル事例は<育児不安>、<発達障害児支援>、<ショートステイ>、<一時保護所解除後>、<家族再統合>、<里親支援>の計6事例について、アセスメント票と支援計画票を作成するグループワークを3回実施し、前後でアンケート調査により効果測定を行った。

    (3)結果
     FGIの結果、児家センの在宅支援プロセスとして、次の特徴が見られた。
     ①開始経路について:〈市・区からの依頼〉が共通。
     ②インテーク:複数での対応、並行面接等〈面接の配慮〉が共通。配慮内容には相違。
     ③アセスメント:子どものアセスメント、養育状況のアセスメントは共通して実施。定期的アセスメントの実施等に関しては、課題あり。
     ④要保護児童への支援の特徴:〈児相の指導委託、市区からの依頼〉〈書式の統一等システム〉。
     ⑤支援の実行:人口規模により支援状況は異なる。サービス利用への抵抗感、支援メニュー、ショートステイの利用、終結、アフターケアなど異なる状況。
     ⑥ネットワーク:〈市区町村・児相との連携〉〈関係機関と連携〉は共通。コーディネート機能については、子どもと保護者の参画、行政への助言など課題あり。
     ⑦支援効果:児家センは行政と比較して、〈柔軟な対応により支援関係の構築〉がしやすい。
     ⑧人材育成:人材定着や不足などの課題があり、〈新人職員の育成〉が必要。
     モデル事例の結果は、FGIと同様、子ども、母親が主な支援対象で、ひとり親、ステップファミリーの事例が支援対象であった。支援計画票をみると、保護者と子どもに対して相談支援に限定されず、心理的支援、直接的支援が組み合わせて実施されている。行政による相談、児相の一時保護や施設措置とは異なり、児家センによる在宅支援では、保護者と子どものニーズに合わせて、柔軟に支援組み合わせて実施できる可能性が見いだされた。

    (4)考察
     本研究では、FGIにより児家センの在宅支援プロセスと人口規模による支援状況を明らかとし、次にモデル事例を一緒に検討することで児家セン間の情報共有が促進し、支援方法の幅が広がるなどの意見があり、一部の事例では専門性の向上に寄与することが示唆された。今後、専門性の確保のためソーシャルワークを伝承するシステムを児家セン間の協力により作っていくことが望まれる。地域特性を生かしながら、在宅支援メニューの平準化を図る事は今後の残された実践課題であり、研究課題である。

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  • 周産期からの早期支援における市町村の母子(親子)保健と児童家庭福祉の連携・協働

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    1. 目的
    児童虐待防止法の制定以降、児童相談所を中心に児童保護の体制強化に力が注がれてきた。一方で、虐待による死亡事例の多くが0歳児であることから、周産期からの虐待予防の重要性が認識され、特定妊婦や要保護児童等に限らず、すべての親子を対象に市区町村の母子(親子)保健と児童家庭福祉との協働による予防的早期支援の強化が求め進められつつある。市区町村の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターの統合的整備もその一環と言える。しかし実際には、多くの市区町村で、児童家庭福祉と母子(親子)保健との連携・協働には、多くの課題がある。
    本研究は、市区町村の児童家庭福祉領域と母子(親子)保健領域との連携・協働に焦点を当てた。良好な連携・協働を難しくしている要因がどのようなものか、さらには連携・協働を促進する視点や取り組み等を見出すことが大きなねらいである。そこで本研究では、連携・協働の重要性を認識し、様々な課題があることを自覚しつつ、より良い在り方へと努力している複数の市区町村にヒアリングを行い、過去から現在において連携・協働を行う上で妨げになっていた(いる)問題や課題を抽出・整理することを第1の目的とした。さらに、「課題の解決に向けた取り組み上の工夫」や「連携・協働に有効な取り組み」について検討、整理し、提示することを第2の目的とした。
    2. 研究の内容
    ヒアリングを行ったのは母子保健の連携・協働に取り組んでいる、大規模型1箇所、中規模型3箇所、小規模型5箇所の市区町村であった。各市区町村につき、母子保健担当保健師・児童家庭福祉担当職員のそれぞれ1~3名ずつを対象とした。①連携・協働に関する現在の取り組み状況、②連携・協働の妨げになっていた(いる)課題、③課題の解決に向けた取り組みの工夫と効果について尋ねた。 
    逐語録を作成し各市区町村に確認を得た上で、以下の2つの方法で結果をまとめた。まず、全市区町村で共通してみられる取り組みや工夫、課題を検討するため、テキストマイニングによる分析をおこなった。その結果、「一緒‐行く・訪問・入る・動く」「顔‐合わせる・関係・見える」といった語が話題内・文章内で共起することが多く、顔の見える関係の中で必要に応じて一緒に家庭訪問に行ったり、支援したりしていることが語られた。また、連携・協働を阻害する要因を探るため、「課題・難しい・問題」を含む文を抽出し共起ネットワークを検討したところ、「情報‐共有‐ひとつ」や「人材‐確保」といった語のつながりがみられ、情報共有システムの統合や、それをどのように行うべきかに関する課題や、異動があるなかでも中で連携・協働を引き継いでいくことの難しさや人材育成・人材確保が課題として挙げられた。次に、市区町村ごとに組織体制や連携・協働の現状や効果的な取り組みや工夫について組織体制・姿勢・情報共有・アセスメント・支援方針の検討・支援・人事といった観点からより具体的な取り組みを整理した。

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  • 児童心理治療施設のアタッチメントを核とした治療的支援の体制作りの評価に関する研究(第2報)

    研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学・大学院教育学研究科)

    1. 目的
     近年、児童心理治療施設には、被虐待経験をもつ子どもたちの入所が増えている。虐待により生じる、子どもの発達上の心理社会的困難は、アタッチメントの課題として解釈されることが多く、現場では、アタッチメント理論に基づく支援の展開が求められている。アタッチメント理論に基づく支援体制の確立のためには、まず、支援の効果として子どものアタッチメントの質の変容を評価するシステムが欠かせない。
     そこで本年は、施設に入所している児童期の子どものアタッチメント行動について、網羅的に把握できる評価ツールの開発を行った。児童のアタッチメントシステムを包括的に理解するため、担当職員に対するアタッチメント行動だけでなく、他職員、他児とのアフィリエーション、ケアギビング行動についても、可視化することを目指した。また児童の適応の程度に関して、日常の感情状態や対人ネットワークについても測定し、評価の質を保障することとした。さらに、児童のアタッチメント行動等の変動における職員との関係性の質の影響を解釈するために、職員の内的体験についての記述も収集することとした。

    2. 研究の内容
    (1)方法
     以下の手順で、評価ツールの開発を行った。
    ① アタッチメント、アフィリエーション、ケアギビングシステムの行動について、理論的に整理する
     AQSや社会的スキル等の項目を参照し、入所児童の行動を測定する項目を選出した。

    ② 被虐待経験をもつこと、児童期であること、施設環境であることに鑑み、現実的に観察されそうな行動を整理する
     ①で整理した項目から、観測される可能性の低い項目を削除した。また施設職員に聞き取りを行い、不足している行動に関して新たに項目を作成した。

    ③ 試行版を作成し、施設職員に回答を依頼する
     ②で整理した項目を用いて試行版を作成し、1か月間、施設職員(児童期の子どもを担当する4名)に回答を依頼した。

    ④ 施設職員へのインタビューを実施し、項目内容やその表現について修正する
     回答の2週間後及び4週間後の2時点で、グループインタビューを実施した。項目の内容や表現に関して、理解しづらい点や曖昧な箇所について、聞き取りを行った。また、既存の項目の中で、施設環境で生起しない行動や、反対に既存の項目に不足している行動についても、聞き取りを行った。

    ⑤ 完成版を作成し、半年間、児童期のケースを担当する4名の職員に記入してもらう
      ④を受けて、項目内容を再度修正し、完成版を作成した。また、③で依頼した職員4名に、半年間の回答を依頼した。

    (2)結果と考察
     アタッチメント行動については、その発信が、担当職員から見て、(1)ポジティブ/ネガティブか、(2)明示的か、(3)直接的かという観点から、各発信の増減について整理した。アフィリエーション、ケアギビング行動については、どのような対象との間で展開されているか等について整理した。感情状態に関しては、多様な感情がバランスよく経験されているかについて整理した。対人ネットワークについては、施設内での関係性がポジティブなものであるか、多様な関係性へと展開しているか等について整理した。職員の内的体験に関する自由記述に関しては、児童の発信が職員にどのように受け止められているかについて整理した。

    (3)限界と今後の展望
     本年度は、入所児童のアタッチメント行動の変容について、網羅的に把握することを目指した。しかし、項目数の多さや回答頻度の高さが、回答する職員にとって大きな負担となったことが課題となった。今後は、使用者の負担を軽減しつつ、アタッチメントに関する行動変容を全体的に捉える評価方法の在り方を検討していく必要がある。
     また、アタッチメント理論に基づく支援体制の確立のためには、施設職員が児童の振る舞いと、それを受けた自身の応答について、アタッチメント理論に基づいて解釈し、内省していくことが求められるだろう。今後は、そういった内省を促すツールについても、検討していく必要がある。

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