文献・研究等の収集と分析

2003年度研究

  • 虐待の援助法に関する文献研究(第1報:1970年代まで)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を超えて、「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告等(主として『児童のケースワーク事例集』第1〜20集、『児童相談事例集』第1〜12集)を概観・分析したものである。児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察もふまえ、現代の児童虐待の援助法を考える上での有益な資料を提供し、今後どのような研究が必要であるかを探ることを目的として文献研究を行った。
     この第1報では、1970年代までの戦後日本社会における「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析の結果、広く危機的状況への適切な認識を欠いた背景として次の5点が明らかとなった。
     ①戦後の日本社会においても、子どもの危機的状況は「貧困型」から「先進国型」へと質的に変わりながら存在した。②家庭内におこる危機的状況は、児童の問題の多様化による専門家の関心の拡散と高度経済成長による地域の崩壊によって見えにくくなっていった。③児童虐待の概念規定が狭く、生命にかかわらずとも心身に影響を残すであろう身体的虐待、および遺棄を除いたネグレクト等の状況が含まれていなかった。④特に「不適切な養育」にあたるネグレクトについては、愛情剥奪や情緒的剥奪といった問題で小児医療や発達心理学の一部の研究者が扱っていたに過ぎず、子どもにとって危機的状況であるとの認識が一般社会の中で持たれていなかった。⑤「自由とはこういうもの」等といった大人の観念的とらわれが、現実の子どもの危機状況把握とそれへの対応を鈍らせてしまった。
     なお本報告書には、戦後から1970年代までの子どもの「危機的状況」に関する資料や、この研究報告に対する小児医学(小林登氏)、非行・犯罪(安香宏氏)、児童福祉(高橋利一氏)および心理治療(四方燿子氏)の四領域からのコメントを掲載している。

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