文献・研究等の収集と分析

2004年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究(第2報:1980年代)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を越えて、児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察も含めて、「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告等を概観して分析したものである。戦後から1970年代を取り上げた第1報に続き、この第2報では1980年代に焦点をあてて「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析を行った。その結果は、以下の3点にまとめられる。
     ①1980年代は子どもの存在価値そのものが社会全体として薄らぎつつあったが、家事や育児よりも、遊びや仕事、社会的成功など家庭外へ意識が向かうと同時に、一方で家族は、その閉鎖性、密室性を強めていった時代でもあった。そうした中で、非行問題など様々な子どもの危機的状況において、放任と密着という一見相反する二つの傾向がみられた。②医学、法律などの領域で、それぞれの専門家が危機感を持って様々な調査研究を行った時代であった。しかしながら、専門家同士の交流がなく、「ネグレクト」という用語に対する混乱にみられるように、児童虐待という子どもの危機的状況に対する社会一般の認識は十分とは言えない時代であった。③上記をふまえて、児童相談所が、児童虐待という子どもの危機的状況をどのように捉えていたかについて、児童相談事例集に収録された事例を分析した。その結果、児童養護問題への回帰、心理主義と社会とのズレ、児童虐待への対応の今日的課題として主訴(心身障害)によってその裏にある児童虐待や児童養護問題が隠れてしまうマスキング現象、という3つの特徴が見出された。
     なお報告書では、1980年代以降の「虐待」を捉えるにあたって、重要な前提となるべき概念として家族社会学者である落合恵美子氏による「家族の戦後体制」とその崩壊をデータに基づき紹介した。さらに、戦後日本における児童虐待関連文献、研究等の年代別リストを掲載した。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第2報:1980年代)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第1期(1980年から1990年まで)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、1980年代の児童虐待の法的対応の経緯について、法学文献、判例および法令・通知を中心としつつ、医学、保健学、社会学、教育学、社会福祉学等の文献をも含めて、検討するものである。
     対象期である1980年代の全体的な状況は、次の2点に要約することができる。その一つは、この時期、児童虐待(とりわけネグレクト)が社会的にまだ十分に認識されておらず、その対応についても虐待対応独自の視点が導入されていたとは言えなかったことである。このことは、法改正及び通知の動向や裁判例、さらに各分野の研究動向についても全般的に言えることである。もう一つは、このような虐待問題に対する社会的関心の低さにもかかわらず、児童虐待に関する研究や調査が行われ、特に児童福祉や医療の分野では、実際的見地からの提案やマニュアルの提示などがなされていたことである。これらの先駆的研究は、法制度の積極的活用を提案するまでには至らないものの、その後の児童虐待防止の大きな流れにつながるものとして注目されるものである。
     本報告書は、法令・判例及び各分野(児童福祉法、民法、刑事法、医療・福祉、非行・教護)の研究動向、主要判例解説及び主要文献解説を中心に構成される。さらに、巻末に資料として、児童虐待関係厚生省通知、刑事法関係判例リスト、児童虐待関係文献リスト、児童虐待関係年表及び統計を収録し、便宜に供している。

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