文献・研究等の収集と分析

2005年度研究

  • 児童虐待の援助法に関する文献研究(第3報:1990年代まで)戦後日本社会の「子どもの危機的状況」という視点からの心理社会的分析

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、「虐待」という言葉を越えて、児童虐待に対する時代認識の変遷といった社会学的考察も含めて「危機的状況」におかれた子どもに対する臨床研究や実践報告を概観、分析したものである。第1報(1970代まで)、第2報(1980年代)に続き、この第3報では1990年代以降に焦点をあてて「子どもの危機的状況」に関する心理社会的分析を行った。
     この1990年代は、1990年の「児童虐待防止協会」の設立に始まり、1994年の「子どもの権利条約」批准から2000年の「児童虐待防止法」の施行等へと続く、日本の児童虐待対応が大きく前進した時代である。また「児童虐待」に関する文献、研究論文も著しく増加したため、文献研究としては書籍と雑誌特集号の論文に絞って分析を行った。その結果は、以下の3点にまとめられる。
    (1)  家庭での養育困難な要保護児童の増加に伴い、2つの大きな流れ(民間活動の活発化、子どもの権利擁護の拡がり)が生まれた。その中で、専門家も含めた多分野横断的協働の実践が行われ、児童虐待防止法の成立へと繋がった。
    (2)  この1990年代は、当事者が声をあげ始め、それをふまえて社会全体に虐待についての危機意識が広がっていき、そうした中で様々な専門家が実践的援助に取り組んだ時代であった。
    (3)  児童相談所が扱った児童虐待事例の分析からは、①児童相談の拡がりと課題、②児童相談所のコーディネート機能、③児童虐待事例への積極的介入、という3つの特徴が見出された。
     なお、最後にアメリカとイギリスで1980年代後半から90年代にかけて大きな社会問題となった性的虐待と「バックラッシュ」問題についての文献研究をふまえて、日本の状況についても言及した。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第3報:1990年代)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第2期(1990年4月から2000年5月まで)

    研究代表者名 保坂 亨(千葉大学教育学部教育実践総合センター)

     本研究は、第1期(1980年代)に続き、1990年4月から児童虐待防止法が制定された2000年5月までを対象として、児童虐待に関する法令及び法学研究の動向をさぐるものである。法学分野以外の分野の文献(児童福祉、医学、保健等)についても、前期と同様に、その内容の影響の大きさ等を勘案して、研究の対象とした。
     第2期の特徴としては、まず、虐待問題に対する社会的関心の高まりに応じて、「児童虐待」概念が次第に明確になり、各分野においても児童虐待への対応が模索されたことが挙げられる。法改正や通知に関して、1997年の児童福祉法改正、厚生省児童家庭局長通知「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(平成9年6月20日児発第434号)の発出など、児童虐待対応に向けての重要な指針が示されたのもこの時期である。裁判例についても、児童福祉法28条事件の申立件数の急増や、刑事裁判例における「虐待」の視点の導入など、虐待問題に即した対応がみられるようになった。さらに、1996年の「日本子どもの虐待防止研究会」(JaSPCAN)の設立に代表されるように、児童虐待問題に関する研究動向も各分野において活発化し、各種の児童虐待防止「手引き(マニュアル)」も数多く刊行されるようになる。
     このように、第2期は児童虐待への認識が芽生えた時期であるが、本研究では、その主たる法的関心が、まだ発見、通報、初期介入に向けられるに止まっていたことも明らかにされた。法制度についても、従来の枠組みでの対応に止まらざるをえない状況にあった。親子分離後の児童と家族への援助や家族再統合、虐待親に対する治療的介入の研究は始まったものの、まだ総合的な施策を講じるまでには至らなかった。この時期の法解釈を通じた取り組みから認識された課題や実務から提示されたノウハウの積み重ねは、第3期(2000年代前半)における総合的支援のための法制度の形成に引き継がれることになる。

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