文献・研究等の収集と分析

2009年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 子ども虐待と発達障害の関連に焦点をあてた文献の分析

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献、実践報告等を概観、分析することを目的とした継続研究である。本報告から、これまで同様文献や研究を概観するとともに、重点テーマを設定し、それに関する文献、研究報告等をより詳細にレビューし、分析を行うこととした。本報告で扱うテーマは「子ども虐待と発達障害の関連」である。なお、本報告からこれまでの研究タイトルを「児童虐待の援助法に関する文献研究」から「児童虐待に関する文献研究」に変更している。
     子ども虐待と発達障害の関連について文献を整理分析したところ、次のような流れが認められた。両者がそれまで「全く別の領域の問題として扱われていた段階」から、1990年の終わりころになると「発達障害が虐待のリスクファクターであるとした段階」が訪れ、2000年代中ごろからは「被虐待体験が発達障害を生じさせる可能性を認識すると共に、発達障害概念が拡大した段階」へと進む変遷である。特に人生早期の虐待的環境が脳に影響をもたらすという指摘は、これまで脳の機能障害というと、大きな外傷を除いて先天的なものに限られていた病理から、環境因(特に乳幼児の不適切な環境)を原因とする病理にまで拡大させた。これにより発達障害概念が拡大し、教育や福祉領域等、様々な臨床現場に混乱をもたらしている状況がうかがわれることが示された。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第5報)児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第4期(2004年5月から 2007年6月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、2004年5月の児童虐待防止法第1回目の主要改正から2007年6月の第2回目の主要改正までの時期を対象に、児童虐待に関する法令、判例及び法学研究の動向を分析し、さらに、虐待対応の動向や研究の意義を、法学、社会福祉学、心理学等の観点から明らかにすることによって、その後の児童虐待問題に対する法的対応に与えた影響を探るものである。
     第4期は、児童虐待防止法及び児童福祉法の改正によって、介入的側面の強化と同時に、介入後の支援の拡充が図られた時期である。2004年5月の児童虐待防止法改正は、虐待の定義の見直し、通告義務者の拡大、被虐待児や虐待親への治療的支援、要保護児童の自立支援など、分離後の親子再統合に向けた施策をも含む総合的な改正であった。同年12月3日の児童福祉法改正では、市町村の相談体制の充実と都道府県・児童相談所による市町村に対する援助、地方公共団体における要保護児童対策地域協議会の設置、司法関与の強化(強制入所措置の有期限化、家裁から児相への勧告)など、児童虐待対策について抜本的な改正が行われた。さらに、2007年の児童虐待防止法・児童福祉法改正では、司法関与による強制的立ち入り制度(臨検・捜索)が創設され、親に対する児童福祉司指導の実効性を高めるための手立てが講じられた。
     各分野における研究動向も引き続き活発である。「施設内虐待」「性的虐待」への関心の高まり、虐待予防策の一つとしての子育て支援策の展開、虐待と非行との関連に対する認識の深化と実務的視点からの調査研究などが、対象期の特徴として挙げられる。厚生労働省においても、2005年4月以降、虐待によって子どもが死亡した事例の検証報告書が公表されるようになった。また、2004年の法改正の影響は、市町村の相談業務に焦点を合わせたマニュアルの作成や、地域におけるネットワークの構築などにもみることができる。

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