文献・研究等の収集と分析

2013年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 自治体による児童虐待死亡事例等検証報告書の分析

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     自治体における児童虐待死亡事例等の検証は、2007年の児童虐待防止法第2次改正において義務化され、現在まで多くの検証が実施されてきている。ただし、検証報告書の内容は千差万別であると同時に、近年では、どの事例をとっても提言の内容など類似しているとの意見も散見されるようになった。
     こうした状況をふまえ、本研究では、地方自治体でどのような虐待死亡事例に対してどのような検証が行われているのかといった自治体検証の実態を明らかにし、検証のあり方について分析することで、より適切な検証方法や、虐待死をなくしていくための効果的な方策を検討することを目的とした。
     児童虐待防止法の施行日(2000年11月20日)から2012年3月末までの10年あまりの間に作成された、児童虐待による死亡事例等重大事例についての検証報告書を分析対象としたが、収集できたのは111報告書で、事例数は142、被害児童は153人であった。
     分析の方法としては、虐待の態様別に、これらをまず「心中事例」と「心中以外の事例」の2つに分類し、ついで「心中以外の事例」を「身体的虐待」と「ネグレクト」に再分類した。その上で、事例数の多かった「身体的虐待」については、児童福祉法が定義する「乳児(満1歳に満たない者)」「幼
    児(満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)」「少年(小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者)」に分け、年齢別、年代別にそれぞれの特徴や、関係機関の関わり方、提言内容などを吟味・検討し、分析した。
     その上で、これら全体をとおして、死亡事例に至るのを防ぎ得なかった盲点などはどこにあるのかといった点を、末尾の「まとめと考察」の中で20項目にわたって示すなど、死亡事例を未然に防ぐための教訓を導き出すよう努力した。
     詳細は報告書本文に譲るが、百以上の自治体検証報告書を収集した上で、それらを比較検討しながら分析を試みた調査・研究はこれまでほとんどなく、不十分さは残るとしても、今後の虐待対策に一定の示唆を与えるものとなったのではないかと考えている。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第7報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第6期(2010年4月から2012年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     本研究は、2010年4月から2012年3月までの、児童虐待に関する法律、通知、判例、研究の動向を明らかにするものである。
     第6期において最も注目されるのは、児童虐待に関する民法・児童福祉法の改正議論が本格化し、2011年5月に「民法等の一部を改正する法律」が成立したことである。同法律によって、親権停止制度の導入、親権喪失宣告の要件及び請求権者の見直し、未成年後見制度の改正、児童福祉施設入所中及び一時保護中の児童に対する親権行使等に関する児童福祉法の改正などが実現した。
     研究の動向については、民法・児童福祉法の改正に関連した文献が数多く公表されるとともに、児童虐待に関する比較法的研究も散見された。社会的養護との関係においては、「被措置児童等虐待(施設内虐待)」に関する研究が深化された。刑事法分野において、司法面接に対する関心が第5期から引き続き高まりつつあること、被害児童の告訴能力に関する裁判例が公表されたことも注目される。さらに、2009年改正の「臓器の移植に関する法律」によって15歳未満の子どもからの臓器摘出が可能となったことに伴い、子どもに対する虐待の有無を的確に確認する体制が整備されるとともに、これに関連した通知も発出された。学校現場では、児童虐待防止に関する意識の変化も見られた。虐待死亡事例検証についてチャイルド・デス・レビュー(CDR)が動き出した一方で、2010年に2件の重大な死亡事件が発生したことは、虐待対策がなお課題を抱えていることを明らかにした。
     次期(第7期)では、改正民法・児童福祉法の運用の実情や司法面接の実施状況、家庭的養護、里親養護の促進の状況やそれに伴う新たな課題などが論じられることになる。

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