文献・研究等の収集と分析

2014年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 児童虐待とDV

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)

     本研究では、「DV家庭の問題」を取り上げ、収集した文献を、おもにはDV被害者の観点、及び加害者の観点から捉えたものに分けて整理した。また、DVが存在する(存在した)家族における児童虐待死亡事例についても検討した。その結果、わが国においても相当数の文献が著されていることがわかったが、先行研究や先行論文として諸外国の成果から学びつつ種々の調査等を行い、まとめているものが少なくなかった。そこで、本報告書では、「DVの目撃」という観点から、アメリカを中心に海外の文献についても収集し、紹介した。
     ここでは、本研究で明らかとなった点をいくつか述べておきたい。
     第一に、児童虐待死亡事例の検証結果などからうかがわれることとして、児童虐待を扱う現場においては、DVの理解がまだまだ表層的なものにとどまっており、本質的な理解がなされないままアセスメントがなされ、若しくはなされていないと思われる事例が見受けられた。
     その背景には、単なる理解不足というだけでなく、DV関係を把握することの難しさが感じられた。すなわち、児童福祉援助機関が、(当事者から訴えもなされていない場合も含めて)DV被害を調査し、確認するのはハードルが高く、周囲からの情報に依存せざるを得ない点が挙げられる。
     また、厚生労働省の専門委員会第7次報告は、「『身体的暴力』や『暴言』などの有無によりDVの有無を捉えようとしており、『支配-被支配』といった関係性の病理という視点に基づく情報収集やアセスメントを行っていなかった」と述べていたが、単なる暴力の有無といったエピソードにとどまらず、生活の広範なありようを見て取る必要がある「関係性の病理」を正しく判断することの困難さもうかがわれた。
     第二に、DV家庭にいる子どもへの影響は、身体的にも心理的にも多岐にわたり、母子相互の関係も含めて複雑かつ深刻な様相を呈していることが、いくつかの研究で明らかにされていた。たとえば春原(2011)は「DVに子どもが巻き込まれる構造」として7つのパターンを提示していた。
     第三に、DV加害者に対する支援をみると、必ずしも十分検討されているとは言えず、榊原・打越(2015)は「未だ課題はあるが、暴力の再発防止のために、加害者更生プログラムの受講を義務づける命令の実現を検討する段階にあろう」と指摘していた。
     なお、昨今件数が急上昇している「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」という心理的虐待への取り組みについての研究、検討も、今後の課題ではないかと思われた。
     本研究のまとめとして、「今後は、援助の具体的な実践事例を蓄積し、そこから学びつつ、DVそのものについての研究も睨みながら、DVと児童虐待の関連性や、DV家庭における児童虐待問題への対応についてさらに検討を加えていくことが望まれる」と指摘した。 
     なお、本報告書には、末尾に2013年に刊行された、児童虐待に関する文献一覧を掲載している。

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