文献・研究等の収集と分析

2016年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 子どもの貧困と虐待

    研究代表者名 川松 亮(子どもの虹情報研修センター)

     本研究は、「子ども虐待」に関する文献の概観・分析を目的とした継続研究である。2016年度は「子どもの貧困と虐待」に関する文献の収集と整理を行った。大きく海外と日本の文献に分けて分析を行った。
     海外の文献は、1989年以前という早い時期から見られるが、その後も量的には増加しており、2010年以降も同様に推移していることが伺えた。2016年9月5日の時点で、データベースから2752件の文献がヒットした。
     特に2010年以降という、比較的新しい時期の論文群に注目し、最近の知見等が包括的にまとめられている、OECDのレポート“Economic Determinants and Consequences of Child Maltreatment”と、Child Abuse & Neglect 誌などに掲載された数点の論文の内容について、最新の動向、認識、研究方法、研究結果、課題などを探ることとした。
     OECDの論文によれば、子ども虐待に影響を及ぼすリスクとして、経済的リソースが重要な役割を担っていることは多くの研究が明確に指摘しているものの、現状として、その因果関係を示すエビデンスは(皆無ではないが)まだまだ少なく今後の課題であるとされていた。他の論文からは、虐待とそのアウトカムを分析する場合、貧困は多くの場合コントロールされる要因であり、いくつかの研究からは重要な仲介要因として経済状況が位置づけられていることが分かった。縦断データに基づいて分析された研究においても、経済的要因は虐待と関連していることが見えた。
     一方、日本の論壇上で子どもの貧困と虐待に関する指摘が始まるのは、1990年代に入ってからだが、その数は2ケタにとどまる。2008年前後に「子どもの貧困」をめぐる議論がわが国で巻き起こり始めるのと同時期に、貧困と虐待との関連性に触れた論文が集中して発表され始めた。その論拠となる調査はまだ多くはないが、いくつか公表されている。
     収集した論文は全て、貧困と虐待の相関関係に肯定的だった。とりわけネグレクトにおいてその傾向が強かった。しかし、あくまで相関の高さが確認できているにすぎず、その因果関係の分析にはさらにデータの蓄積が必要である。一方で、虐待の複合的な要因の一つとして貧困がとりあげられている論文が多く、家族形態・学歴・就労状況・夫婦関係・社会的孤立などとも絡めながら議論が展開されている。また、虐待の重症度が高いほど背景に経済的困難が見られることも合わせて指摘されている。さらに、ひとり親家庭や再構成家庭における虐待事例の経済的指標の低さを指摘するものが多かった。社会的孤立との関連性の高さに触れ、このことが支援へのつながりにくさとして現れていることを指摘した論文もあった。
     今後も引き続き、家庭が抱える他の困難要因との相互関係について多面的な分析研究をするとともに、分析の結果得られた支援のポイントを整理して、具体的な支援策を検討することが必要と思われる。

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  • 虐待の援助法に関する文献研究(第8報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第7期(2012年4月から2014年3月まで)

    研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)

     児童虐待に関する法学文献の収集整理を行う本研究は、第6期までの報告書を発行してきている。
    昨年度は第7期(2012年4月〜2014年3月)における児童虐待に関する法制度及び法学文献・資料の研究を行った。
     内容としては、①法令(法律・通知等)、②判例、③法学文献、④統計資料を対象に、その動向を分析し、併せて主要文献資料等の紹介・解説を付した。これにより、児童虐待対策において法学分野が果たした役割を明らかにした。

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