文献・研究等の収集と分析

2017年度研究

  • 児童虐待に関する文献研究 非行と児童虐待

    研究代表者名 富田 拓(国立きぬ川学院)

    1.問題と目的
     児童虐待と非行には密接な関係があるとされていているが、そのような理解や概念は時代によっても違い、立場によっても異なる。今回の文献研究では、そうしたことも踏まえ、戦後から日本社会において、主に児童福祉における非行対応、児童虐待対応の中で、それらがどのように絡み合い、どういった議論がなされてきたのか、それぞれの現場での議論も含め文献をレビューすることにより検討を行う。
     なお、この分野についてのすべての文献を網羅することは膨大過ぎて筆者らの手に余るので、今回は、選択的にテーマを設定し、検討を行った。
    2.方法
     国立国会図書館、CiNii、聞く蔵等を利用し、キーワードを「非行と虐待」を基本とし、非行については、「犯罪少年」等広がりのある言葉も含め検索を行った。結果、500以上の文献が初期には収集されたが、その中から取捨選択し、テーマを以下のように設定した。
    ・「近代日本における非行と児童虐待に関する認識」
    ・「非行と虐待に関する量的研究の動向」
    ・「非行と虐待に関する新聞記事の動向」
    ・「児童相談所における非行ケースへの対応―児童相談事例集掲載ケースの検討から」
    ・「日本の精神医学は非行をどう見てきたか」
    ・「各種虐待の被害体験と非行・反社会的行動」
    3.結果と考察
     「近代日本における非行と児童虐待に関する認識」では、児童虐待防止のための組織の活動が欧米各国で展開される19世紀末から20世紀初頭において、日本の関係者が児童虐待と非行、犯罪をどのように捉えたかを考察している。主として留岡幸助、山本徳尚ら草創期の感化院関係者の認識を概観し、原胤昭と菊池俊諦らの論考を検討している。
     「非行と虐待に関する量的研究の動向」では、戦後から行われてきた数量的研究のうち、特に非行と虐待について検討したものについてレビューを行った。
     「非行と虐待に関する新聞記事の動向」では、「非行と虐待」で検索しヒットした1985年から2017年までの新聞記事716記事のうち、176記事について検討を行い、それらの新聞記事の特徴を分析した。
     「児童相談所における非行ケースへの対応―児童相談事例集掲載ケースの検討から」では、1949年から1998年まで出版されていた児童相談事例集(児童のケースワーク事例集、児童福祉事業取扱事例集)を年代順に見ることで、その時々に児童相談所がどのように非行を扱っていたかの比較検討を行った。
     「日本の精神医学は非行をどう見てきたか」では、日本の精神医学の黎明期に精神科医が少年非行に強い関心を寄せたのはなぜだったのかというところから、家族などの虐待的生育環境に着目することになったこと、そしてその後司法精神医学が非行に対する興味を大きく減じ、近年の発達障害と非行との関連への注目、虐待と非行の関連の再発見と続いて、司法精神医学がようやく発達の視点をもつに至った経緯を文献を通して明らかにすることを目的とした。
     「各種虐待による被害体験と非行・反社会的行動」については、特にネグレクトや男性の性被害などあまり言われてこなかったことに注目した。これらの被害体験と、非行、問題行動との関連を考えたとき、どのようなことが今まで言われ、どのような課題があるかについて検討を行った。
     今回は、非行と児童虐待に関する文献について、特に国内文献を中心に検討を行った。歴史的には、児童福祉の始まりの時期から関連が言われていた。「児童虐待」と同様に、時代による言葉やとらえ方の変化が見られるものの、社会的にも、専門家の間でもその関連については関心が払われていた。特に、児童虐待に関する関心が児童虐待防止法成立前後で高まったが、その流れと同じ頃に非行と虐待の関連が再発見されたことになる。しかしながら、虐待が非行へ及ぼす細かい影響や長期的な影響、予後を追った研究は我が国では行われてこなかった。なぜこのような状況なのかということへの関心を持つとともに、今後は量的及び質的にこの分野に関する研究をさらに行うべきであると考える。

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