文献・研究等の収集と分析
2018年度研究
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児童虐待に関する文献研究 わが国の児童福祉領域におけるアタッチメントに関する理論の系譜
研究代表者名 久保田 まり(東洋英和女学院大学)
1.研究目的
本研究の背景として、近年の児童虐待の増加と「被虐待児の愛着の問題」への注目に伴い、児童養護施設等のケアにおいても「愛着」が中心的な課題となってきていることが挙げられる。それ故、本研究は、わが国の児童福祉領域において、愛着の概念や理論がどのように紹介され、受け入れられ実践に導入されてきたのかについて、主として第二次世界大戦後から現在までを通じ、その変遷を探る。具体的には、本研究は文献研究とし、国内の研究論文、書籍、実践報告、および関連する海外の研究論文を渉猟し、今後の支援策の析出に貢献できるよう、体系的にまとめ上げることを目的とする。
2.概要
本文献研究は、Ⅷ章から構成されている。Ⅰ章では、戦後から現在までの日本の児童福祉領域において、「愛着」の概念や理論がどのように紹介・導入され、実践に活かされてきたのかをまとめている。欧米のホスピタリズム研究の中でも、特に児童福祉領域に大きな影響を及ぼしたBenderの貢献や、谷川を中心とした「日本の施設児のホスピタリズム」の実態調査、『社會事業』誌上で展開された福祉実践家たちのホスピタリズム論争とその終焉、そしてその後の高度経済成長期をはさみ、現代の児童虐待の増加に伴う「愛着理論」の(再)重視の流れ、等を体系的にまとめた。Ⅱ章ではBowlbyの愛着理論の骨子および、児童虐待にも関連する現代の愛着研究の動向をまとめた。前者については、愛着という絆のもつ意味や、愛着のコントロールシステム理論、愛着パターンの個人差について概説した。また、後者については、具体的には、愛着システムの崩壊のメカニズムや、代替養育者の愛着形成の可能性などについての研究を概観した。Ⅲ章では、重篤な虐待やネグレクトを受けた子どもに見られる「愛着の発達精神病理」について、愛着障害、愛着とトラウマ、デプリベーション児を対象とした大規模な縦断研究である「ルーマニア研究」の三点についてまとめている。Ⅳ章では、乳児院や児童養護施設での担当養育者との愛着形成の実践とその効果、および「生活臨床」ということに留意した研究を紹介している。Ⅴ章では、愛着に問題を持つ子どもの心理療法を中心としたケアの実践について紹介している。Ⅵ章は、里親制度や里親養育(養子縁組里親を含む)について、里親家庭での愛着形成の問題と課題、および「SOS 子どもの村JAPAN」の実践、パーマネンシー概念と養子縁組里親の問題についてまとめている。Ⅶ章では、愛着理論に基づく親子支援の理論と実際をテーマとして、具体的には、「セラプレイ」と「サークル・オブ・セキュリティ」のプログラムについて詳述している。最後のⅧ章では、愛着理論に基づく児童虐待の援助的介入プログラムと効果について、海外の実践研究を概説している。一つは、Healthy Families America(HFA)プログラムについてであり、虐待の世代間連鎖のメカニズムを概観した上で、アウトリーチ型(保健師による継続的家庭訪問支援)のHFAプログラムの概要と、15年後のフォローアップ調査を通した効果測定の結果について紹介している。二つ目は、発達精神病理との関連が指摘されている「D型愛着」の早期介入プログラムであるAttachment and Biobehavioral Catchup(ABC)プログラムの内容とその効果について紹介している。 -
虐待の援助法に関する文献研究(第9報) 児童虐待に関する法制度および法学文献資料の研究 第8期(2014年4月から2017年3月まで)
研究代表者名 吉田 恒雄(駿河台大学法学部)
本研究は、戦後のわが国の児童虐待対応において、法学分野が果たした役割を明らかにすることを目的とする。
これまでに7期に分けて法学文献資料を収集し報告書を作成してきた。今期は第8期として、2014年4月~2017年3月における児童虐待に関する法制度及び法学文献・資料の研究を行った。内容としては、法令・判例および法学研究の動向を分析し、主要判例の解説を行った。併せて、主要文献・調査の紹介と解説を行い、法学分野が果たしてきた役割を明確化した。また、資料として、①児童虐待関連通知、②民法分野判例リスト、③刑事法分野判例リスト、④行政法判例リスト、⑤児童虐待関係文献リスト、⑥日本における児童福祉に関する年表、⑦児童虐待司法関係統計を掲載している。