文献・研究等の収集と分析

2023年度研究

  • 児童福祉分野における死亡事例等の重大事案防止に関する文献研究ー防止のために必要な学際的知見と理論ー

    研究代表者名 井上 直子(堺市子ども相談所)

    1. 目的
     児童虐待による死亡件数は、年間80件ほどで推移している。重大事案については、当該自治体で検証報告が行われることとなっており、そこでは児童相談所や市区町村の対応上の課題が浮き彫りになるケースが少なくない。重大事案や重大事故の防止に関しては、その兆候を見逃してしまう認知バイアス等のヒューマンエラーへの対処や、組織における安全文化の構築等、社会心理学や組織心理学等の知見を踏まえての、個人レベルから組織レベルまでの対応が重要となる。実際、医療事故防止や航空機事故防止等、安全が最重視される領域において、これらを基にした様々な取り組みが行われている。本研究は、重大事故防止に関する海外の基礎的文献や研究等を踏まえて、国内における研究や実践報告等の文献を収集、整理して提示し、児童福祉領域における重大事故防止の取り組みの参考に資することを目的とする。

    2. 研究の内容
     本研究では、①社会心理学、認知科学、行動経済学等における、人間の意思決定や判断等に関する基礎的知見の概観、②これらの知見に基づく、運輸(航空機)や医療保健領域等他領域の重大事故の分析と対応、③意思決定や判断を的確に行い、児童福祉分野における重大事故を防止するための視点、についてまとめた。③については、この領域の第一人者である山口裕幸教授(九州大学人間環境学研究院人間科学部門)の講演を通して、チームによる的確で効率的な課題遂行および創造的な問題解決を促進する条件について学んだ。以下に概観を示す。
     ①人間の判断とそのエラー
     人間の判断や思考、認知のエラーの背景に関する学術的知見の概観について、社会心理学的観点(同調、集団意思決定等)、認知科学的観点から(注意、記憶、ワーキングメモリ、スキーマ等)、行動経済学の観点から(システム1、システム2、ヒューリスティック)、ステレオタイプとバイアスなどの観点から、これまでの重要な研究成果について、有名な実験結果を紹介しながら概観した。
     ②これまでの重大事故とその学び:国内外の重大事故を例に
     判断、認知、思考のエラーが現実に及ぼす影響とその改善策について、国内外の重大事故を例に概観した。とりあげた項目は、注意・非選択性盲目、認知バイアス(ヒューリスティックス・確証バイアス)、意思決定と権威勾配であった。続いて、国内外の児童福祉領域における判断、認知、思考のエラーに関する先行研究を概観した。
     ③判断のエラーをなくすには
     ①や②で述べた判断のエラーを予防するために、これまでに蓄積されている研究成果を概観した。とりあげたトピックは、バイアス矯正、集団的浅慮に対抗するために、組織行動論の観点から(心理的安全性、山口裕幸教授(九州大学)のご講演より)であった。
     ④児童福祉領域への提言
     最後に、これまで概観した知見をもとに、児童福祉領域への提言を述べた。項目としては、認知バイアス・集団意思決定の視点から見る児童福祉領域、児童福祉領域における重大事故の予見の困難性、原因を追究し因果関係を本当に見出だすことはできるのか、違和感を見出し、取り扱うには何が必要か、心理的安全性が保障された場の必要性、という内容で提言としてまとめた。

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  • 研修資料 2019~2022年度 障害児の虐待死に関する研究

    研究代表者名 川﨑 二三彦(子どもの虹情報研修センター)