児童虐待に関する海外の状況の把握と分析

2003年度研究

  • ドイツ・フランスの児童虐待防止制度の視察報告書 Ⅰドイツ連邦共和国編

    研究代表者名 平湯 真人(平湯法律事務所)

     本報告書は、平成12年度に成立した児童虐待防止法が、当初から3年後の見直しを予定していたことを受け、関係各団体から多くの改正提言がなされている中で、子どもの虹情報研修センターとして外国法の調査を企画し、その一環として、平成15年6月に実施されたドイツ調査の報告書である(その一部は平成16年の防止法一次改正に活かされた)。
     当時のドイツは、虐待に特化した法整備はなされていなかったが、親権法(民法)については既にたびたびの改正で支配権的な色彩は払拭され、「子は暴力によらずに教育される権利を有する。体罰、精神的侵害およびその他の屈辱的な処置は許されない」などが明記されていた。また裁判所による柔軟な親権制限と行政(少年局)による子ども家庭福祉(青少年援助法)が連携し合って子どものケアと親の支援(家庭訪問による在宅支援など)を実現しようとしていること等が特徴的であった。ドイツでは、この調査時点以降にも引き続き親権法と青少年援助法が改正され、行政による初期介入権限の強化が導入されたりしたが、基本的には裁判所関与と親の支援を重視する理念は一貫している。
     日本では平成23年にようやく親権法の一部改正が実現したが、かつて日本と共通の親権法を持ったドイツが明確な理念と持続的エネルギーを以て改革を進めようとしている姿勢は、日本としてもあらためて学ぶべきであろう。

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  • ドイツ・フランスの児童虐待防止制度の視察報告書 Ⅱフランス共和国編

    研究代表者名 松井 一郎(子どもの虹情報研修センター)

    1 .児童虐待は世界の普遍的な事象で、古い時代の民話や児童文学などにも数多く記載され、現代まで引き継がれている。発生数は増大の一途を辿っており、かつては貧困が主要因であったが、現在ではネグレクトや心理的虐待まで広がり、決め手となる有効な対応策はない。それぞれの国における虐待防止の対応法令、児童福祉の諸法令、虐待防止の子育てスキルなどなど、数多くが実施されているが、海外の情報を検索、集約するとその殆どが英語圏のみのものである。毎年開催される学会の海外研究者の招待講演も、英語圏の学者に限定されている。
    2 .30年ほど前、フランスのパリ大学ルジェンヌ教授の<猫泣き症候群>の講演を拝聴した。仏語のできる医師が通訳に入ったが、途中で翻訳ができなくなった。ルジェンヌ教授は英語も極めて堪能であったが、5分、10分が過ぎても全くの知らぬ顔……。ダウン症の染色体異常を決定し、新しい症候群を数々発表してきた世界第一級の教授が!である。フランスは面白い国だと思った。
    3 .今回のフランス視察では多くの感銘を受けた。まず第一に、被虐待児の統計である。この統計はODAS(政府、県、市が出資するNPO法人)の統一国家統計で、虐待の定義や境界域、評価は明快である。米・英・独など連邦国家ではそれぞれの州政府が独自に統計に責任を持つため、国の統一統計とはならない。ODASの継続統計は驚きである。第二に、フランス全土の児童司法保護機関には子ども(少年)判事、子ども検事が専属で勤務し、乳幼児/青少年問題に対応している。第三には、「もしもし、こども虐待(SNATEM)全国統一119番」。その他、施設見学と帰国後の整理から学んだ点を列挙した。フランスは大統領制であるが、首相・閣僚・知事などは任命制である。利点と思われる点は、かの国の政治体制に大きく依存するのではないか? 視察は大きな収穫であった。

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  • アメリカにおける児童虐待の対応視察報告書

    研究代表者名 四方 燿子(子どもの虹情報研修センター)

     本視察は、虐待問題先進国である米国から我が国の虐待対応に役立つ情報を得るために企画されたものである。2004年4月に、次の4点を主眼としてロスアンゼルス郡を中心に視察が行われた。
    1.被虐待児の保護システムの具体的状況(介入と援助について)
    2.性虐待への対応(特にファレンジック・インタビューについて)
    3.児童虐待対応における連携アプローチ(特にマルチディシプリナリー・アプローチについて)
    4.児童虐待の治療の現状
     視察先は、トーランス警察、DCSF(ロスアンゼルストーランス支所)、チャイルド・クライシス・センター(ハーバードUCLAメディカルセンター内)、スチュアート・ハウス(サンタモニカUCLAメディカルセンター内)、チャドウイック・センター(サンディエゴ子ども病院内)、UCLAロスアンゼルス病院SCANチーム、米国空軍虐待対応システムのSWである。
     報告書では、米国における児童虐待の実情と背景、虐待対応の実際を論述した後、各視察先で得られた情報の詳細が記載されている。また、視察先で入手した資料1~24について子どもの虹情報研修センターで訳出したものが掲載されているので参考にされたい。

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