児童虐待に関する海外の状況の把握と分析

2019年度研究

  • 児童虐待対応における海外の情報共有システムについて(オーストラリア、イギリス、カナダ)

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    1 目的
     児童虐待ケースへの介入、調査、支援において、これに携わる諸機関および自治体間で、ケースに関係する情報を共有することは重要である。日本でも、こうした情報共有システムの重要性を踏まえ、その整備を始めようとしている。そこで、海外で児童虐待に先進的に取り組んでいる諸外国(オーストラリア、イギリス、カナダ)の情報共有の取組みについて、以下にあげた事項について把握し、日本での情報共有システム構築に必要な視点を整理することを目的とする。
    ① 子どもと家族サービスの概要、児童保護対応のしくみ
    ② 多機関情報共有/管理システムの概要
    ③ オンラインによる機関間情報共有システム(Child Story等)について
    2 方法
     以下の方法で調査を行った。
    ① インターネットでの調査:いずれの国においても情報共有に関する法制度等、政府のホームページ等で公開している情報を把握し、整理した。
    ② 視察
      ・ オーストラリアに関しては、2020年3月上旬にニューサウスウェールズ州の行政機関等に視察を予定していたが、感染病(COVID-19)の影響で視察は行えなかったため、視察先(同州政府機関Department of Family and Community Services)に質問を投げかけ、その回答を元に整理した。
      ・ イギリスの関しては、2018年に視察を行っており、視察先(ハートフォードシャー州のCSC)で得た情報を元に整理した。
      ・ カナダについては、カナダ在住の専門家が調査を行って情報を把握し整理した。
    3 結果の概要
    ① オーストラリア(ニューサウスウェールズ;NSW)
     児童保護と予防的支援の基盤となる法制度とCS(Community services ; CS)の役割と児童虐待の現状をまとめた上で、虐待対応に必須となる情報共有のための法制度と具体的な情報共有システム(Child Story)について、その詳細を把握しまとめた。
     児童保護サービスに関する特別委員会の報告書(2008年)は、脆弱な子どもとその家族にサービスを提供する上で、機関間協働は必須であり、そのためには多くの機関から情報を集積、総合させ、子どもと若者の全体像を把握する必要があるとした上で、国家プライバシー法および規制の体制が、機関間協働の主要な障壁となっていることを委員会は指摘し、支援サービスと司法部門における行政機関と民間機関の情報交換を推進するための法改正を勧告した。これを受け、児童保護サービスの基盤法となる児童青少年(ケア・保護)法1998第16A章(Children and Young Person(Care and Protection)Act 1998 Chapter16A)が2014年に改正された。
     改正法では、情報共有に関して以下の4つの基本原則を示している。
      ・ 所定の機関は、子どもの安全、福祉、より良い暮らしを促進するための情報を提供し、受け取る必要がある
      ・ 所定の機関は協力し合い、互いの機能と専門性を尊重すべき
      ・ 所定の機関は、子どもとその家族へのサービス提供を容易にするために、お互いにコミュニケーションを取ることが必要
      ・ 子どものケアと保護に関するサービスを受ける上で、子どもその家族のニーズと関心は、秘密保持または個人のプライバシーの保護よりも優先される
     NSW政府は、情報共有のオンラインシステムとして、2014年から「Child Story」の開発に着手し、2016年に第1段階として、児童保護機関間での情報共有システムをリリースした。その後、情報共有する機関対象等を拡大し、2019年12月の段階では、NSW警察・保健・教育機関、支援機関、通告義務者等が利用できるシステムまで構築できている。このシステムの管理は、NSWのコミュニティイジャスティス省におかれている。なお。このシステム開発には約1億3,100万Aドルが投じられている。
    ② イギリス
     児童の安全保障と児童保護の基盤となる法制度、CSC(Children’s Social Care)の役割と現状、児童保護重視から早期支援重視への変遷をまとめ、支援に必要な情報共有のあり方について、ハートフォードシャー州で用いられている「アーリーヘルプ・モジュール(Early Help Module)」を中心にまとめた。
     イギリスでも個人情報の保護法等が足かせとなって、情報共有の妨げになる場合もあるとの認識がされている。そのため必要な情報共有の指針として、国からの法定指針(HM Government, 2018c)や通知(HMGovernment, 2018a)、各自治体の指針(MASH Information Sharing Guidance/Agreement等)に情報共有の必要性とルールが定められている。原則として本人の同意を求め、同意が得られない場合でも合法的な理由(重大な危害の可能性、犯罪の阻止・捜査など)があれば情報共有できることを認めている(EU一般データ保護規則、2018年データ保護法)。
     イギリスでは近年、重大な害に進行しないための早期支援(Early Help)に力を入れている。そのためには、学校や保健機関などの機関同士の情報共有が欠かせない。ハートフォードシャーのCSCでは、アーリーヘルプサービスを利用した子どもと家族の情報は全てデータベースに保管される。このデータベースをアーリーヘルプ・モジュールといい、CSCが情報管理を行っている。支援を行う複数の機関(パートナー機関)には、必ず専任のワーカー(キーワーカー)が配置されており、トレーニングを受けた上でアーリーヘルプ・モジュールに必要な情報を提供、あるいは支援を行うために、ここにアクセスし、情報を利用することができる。
    ③ カナダ・オンタリオ州
     オンタリオ州では、CASは365日24時間児童保護サービスを提供する法的責任を負う唯一の民間機関である。CASの活動と目的は、「子ども青年家庭サービス法」に定められている。
     CASが収集する情報には、支援対象児の生年月日、連絡先、利用者および/または家族との会議の記録、受けたサービス内容、参加したプログラム、身体的・精神的な保健に関する詳細情報、医療、心理に関する報告、学校情報、財務情報、職歴、児童虐待の通報または調査結果、裁判所の書類、警察による介入、犯罪歴など利用者にサービスを提供するために収集された個人情報が含まれる。利用者の個人情報は安全かつ確実に保管管理され、利用者は、CASがサービスに関する情報をどのように使用し提供するのか、また、サービスに関する情報にアクセスする方法を知る権利を有する。
     CASは、通告されたケース、子どもに危害を加える状況の未然防止、支援サービスを提供する場合など、情報共有が必要な20の場面を明確にして、情報の共有を図っている。

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