人材育成に関する調査研究

2018年度研究

  • 児童相談所と市区町村における児童相談担当職員の人材育成に関する研究(第2報)

    研究代表者名 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)

    1.目的
     急増する児童虐待通告に対応を迫られ、困難ケースも増加しており、児童の保護と支援を行う上で、児童相談所(以下、児相)にはより高度な専門性が期待されている。しかしながら、卒前教育のあり方や自治体の人事システムが、社会が必要とする児童福祉司の専門性確保に追いついていない現状もあり、その狭間にあって、職員のメンタルヘルス不調や早期異動希望者などの問題が発生している。そこで本研究では、スーパーバイズを担う児童福祉司が入職前に学んでいた専門領域および人事異動歴の実情を把握するとともに、それが児童福祉の専門性の意識や児童相談担当職員に求められる到達度の自覚にどのように関係しているかを調べ、今後の人材確保や異動のあり方を検討するための基礎資料となることを目的とする(研究1)。
     次に、児童虐待防止に関して先駆的な取り組みをしているイギリスのChildren's Social Care(以下、CSC)におけるソーシャルワーカーの役割と専門性向上のための育成システム、およびキャリアロードマップについて調査するなどして、日本のソーシャルワーカーの育成のあり方にとって有用な視点
    を考察することを目的とする(研究2)。

    研究1 児童福祉司スーパーバイザーの職業的背景と専門性について
    (1)方法 
     センターで行われた「児童相談所児童福祉司スーパーバイザー義務研修」の前期・後期ともに参加した160名を分析対象とした。ただし職業的背景に関する分析については、前期研修を受講した161名を対象としている。調査内容は、職業的背景、入職前に学んだ専門領域、現在の得意な専門領域への回答を求め、スーパーバイザーの到達目標に沿った自己評価得点との関係を調べた。
    (2)結果
     異動歴のパターンは①児相のみ群(現所属先にのみ勤務)、②初回群(児相以外の部署・機関から初めて児相に異動)、③児相間異動群、④以前1回群(児相勤務後に他部署・機関へ異動の後、再び児相)、⑤以前複数回群の5つに分けられた。
     ③児相間異動群は「アセスメントと支援方針」「機関連携」において②初回群、④以前1回群より高く、「ソーシャルワークの基本プロセス」「ケースマネージメント」では④以前1回群より高かった。③児相間異動群での専門領域は、学んだ専門領域は幅広いが、得意な専門領域は児童福祉が多かった群である。つまり、異なる児相を異動する中で児童福祉に対する知識や技術が身につき、児童福祉を得意として自覚できるようになり、そのことが到達目標の得点の差として表われたと考える。
     また、④以前1回群については、「アセスメントと支援方針」「機関連携」「ソーシャルワークの基本プロセス」「ケースマネージメント」において③児相間異動群より低かった。以前1回群は行政職が多い群である。このことも踏まえると、この群は、自分の得意な専門は児童福祉としながらも、実際の実務機能となると、まだ十分な専門性を身につけるに至らず、困難さを自覚しやすいのかもしれない。
     以上を踏まえると以下のことが可能性として見えてくる。児相の児童福祉司が様々な専門領域から任用される実態から、当然児童福祉を得意でないとする者も実務を行うことになるが、1箇所の児相経験だけでなく複数の児相を経験することで、児童福祉を得意な専門領域と意識し、到達目標の達成度も上昇するという可能性である。児童福祉司の人事を行う際、児童福祉スーパーバイザーとしての専門性を高めるためには、複数の児相経験が有効であることが示唆された。

    研究2 イギリスにおける児童家庭ソーシャルワーカーの役割と育成について
    (1)目的 
     イギリスの児童家庭ソーシャルワーカーの歴史的変遷を踏まえた上で、日本の児童相談所に当たるChildren's Social Care(以下、CSC)におけるソーシャルワーカーの役割と専門性向上のための育成システムを把握し、併せてキャリアロードマップの実際をヒアリング調査するなどして、日本のソーシャルワーカーの育成のあり方にとって有用な視点を考察することを目的とする。
    (2)方法
     資生堂社会福祉事業財団主催の第44回児童福祉海外研修がイギリスの視察であり、それに同行し、以下の方法で情報を集め、整理、分析の対象とした。視察期間は2018年9月25日(火)から10月7日(日)であった。
    ・ 児童家庭ソーシャルワーカーが従事し、中心的あるいは重要な役割を担っている機関の視察およびヒアリング
    ・学識者へのヒアリング
    ・現任のソーシャルワーカーへのヒアリング
    ・関連する資料の収集
    (3)内容
    1.児童虐待防止におけるChild Family Social Workerの歩み
    2.Children’s Social CareとChild Family Social Workerの役割
    3.Children’s Social Care以外でChild Family Social Workerが雇用される場
    4.児童家庭ソーシャルワーカーの育成体系:Professional Capabilities Framework(PCF)の概要
    5.Child Family Social Workerのキャリアロードマップの実際

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