臨床・実践に関する研究(課題研究)
2024年度研究
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児童心理治療施設における支援者のセルフ・モニタリングを支えるーアタッチメント理論からー(第2報)
研究代表者名 遠藤 利彦(東京大学・大学院教育学研究科)
【目的】
被虐待児が多く入所する児童心理治療施設では、アタッチメント理論に基づく支援の展開が求められている。しかし、具体的にどういった支援の形をとることが目指されるのかは、はっきりとした理解が得られていない。そこで本研究は、児童心理治療施設において、子どもの支援にあたる職員のセルフ・モニタリングを支えることを通じて、アタッチメント理論に基づく支援を現場に共有することを目指す。具体的には、子ども一人ひとりの情動表出に着目し、それをどのように解釈するのか、またそれに対してどのように応答するのがよいのかについて、個々の職員が内省し、それを職員間で共有するための心理学的ツールの開発を行う。2年目である本年は、職員の子どもへのはたらきかけや、子どもの振る舞いのアセスメントに関しての参照物となるような振り返りカードを作成し、試行を行う。日常的な支援の場において、職員がアタッチメントの視点を自ら再確認しながら、自身の支援について内省できるようなツールを開発し、そのツールの活用についてモデルケースを提供することを目的とする。
【方法】
児童心理治療施設で実践にあたる職員自身が、入所児童と自らとの関わりについて振り返る機会を促進することを目指し、振り返りカードの開発と試行を行った。カードの開発では、3つの児童心理治療施設から10名の中堅職員を対象にグループインタビューを実施し、子どもとのやりとりにおいて、職員が情動的に困難を経験しやすい事例の抽出を行った。抽出された事例は、アタッチメント理論の枠組みに沿うよう修正を加え、計96種類のカードを作成した。さらに、各カードを以下の4セクションに分け、整理した。
A 支援者が避難所/基地として機能し続けるために
B 支援者が避難所になるときに
C 支援者が基地になるときに
D 支援者と子どもが離れるときに
また、開発されたカードを用いたグループワークの実践を、7施設に依頼した。グループワークでは、参加者に手元の数枚のカードを参照しながら、「良い実践だなと感じたもの」「最近悩んでいる内容に近いと感じたもの」「今後取り入れていきたいと感じたもの」について記述し、ペア/グループで他職員と話し合うことを求めた。また、グループワーク後には、グループワーク全体やカードに対する感想の記述を求めた。 さらに各施設1~2名の職員については、グループワークを取り仕切るファシリテーターを担当してもらい、カード全体を参照した上で、カードの改善点等についての回答を求めた。
【結果と考察】
参加者の記述からは、実際の現場で子どもの支援にあたる職員にとっても、リアルなエピソードがカードに整理されていたことが確認された。また、カードを参照することが、職員自身の気持ちや支援の意図を振り返り、自己点検をする機会となっていたことも、部分的に確認された。具体的な水準でも、自身の実践に引きつけて振り返っている様子も記述から確認され、振り返りカードが、日々の子どもとのやりとりを想起する仕組みとして有効である可能性が見出された。
また、様々な職種の職員が参加した施設では、職種を超えてグループワークを実践することで、普段、心理的な枠組みに触れることが少ないと考えられる調理を担当する職員から、カードを参照することで自らの内的経験を整理することができるように感じたといった回答も得られた。ここから、振り返りカードを用いた実践は、施設内で、広く支援の方針や子どもへの目線を共有していくことを促進したことも部分的に確認された。
さらに、ベテラン職員からは、新しい発見は得られなかったという回答がみられた一方で、若手職員からは、日常的に参照したいと感じたという声が確認された。ここからは、カードの実践を通して改めて、職歴を超えて、目線を擦り合わせていく必要性が示されたのだと解釈された。
【限界】
カードの表現等に関しては、不明瞭/不適切なものであると感じるといった回答も確認されたため、今後は、表記を修正していく必要があると考えられた。また、カードに追加して欲しい場面があるという回答も得られ、職員が困難を経験する場面を網羅的にカード化することができていなかったことも認められた。グループワークのやり方や時間についても、改善を求める回答が得られ、今後は現場の中で継続的に実施しやすい形でのグループワークの体制について検討していく必要があると考えられた。
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乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子ども―(第2報)
研究代表者名 武田 由(きょうと里親支援・ショートステイ事業拠点(ほっとはぐ))
1.目的
乳児院入所に至る子どもの中には、病虚弱児に加えて、虐待や不適切な養育によるアタッチメントやトラウマ等の心の問題を抱えた乳幼児が少なくない。これらの課題は、その後の健全な発達を阻害する要因ともなるため、特別な配慮を必要とする子どもたちであり、入所直後より、回復に向けた濃密な支援を行う必要がある。本研究は、こうした心の課題を抱えた乳幼児が、全国の乳児院にどれだけ存在し、どの程度の問題を抱えているのか等、アタッチメントやトラウマも含めた子どもの心の課題を把握する。また保育所等に通う乳幼児においては、乳児院に比べて心配な行動を見せる子どもは少ないと予想されるが、それでも一定数心配な行動をみせる子どももいると考えられる。そこで、乳児院・保育所それぞれの乳幼児の心の課題について実態を把握するとともに、両者の比較を通して尺度の妥当性の検討を行う。その結果を踏まえ、乳児院役割の重要性及び、支援体制を整える必要性について明らかにすることを目的とする。この目的のもと、2023年度は子どもの心の課題を把握できる項目の検討を行い、質問紙を作成した。
2.研究1
研究1では、既存の測定法の概観と子どものSOSサインデータの再分析を行った。測定法の概観から低月齢児に対して簡便に使用できる測定法がないことを確認した。また再分析からSOSサインの個数は妊娠期や入所理由から判断されるリスク、トラウマ反応、アタッチメントの阻害と関連しており、子どもの心配な行動を捉えていることが確認された。ただし、未回答や回答不可の割合が多い項目や子どもの日齢や調査時期で未回答・回答不可となりやすい項目も多く見られたため、項目表現の修正を行った。
3.研究2
研究2・3では、より現場で使いやすく役立てられるものにするために、予備調査として乳児院、保育園それぞれにヒアリングを重ねた。研究2では、研究1で作成した項目案を実際に乳児院・保育園の職員に示し、どのような行動を項目案からイメージするか、より適切な表現があるか等をヒアリングし、その内容を踏まえて項目を精査し、具体的な行動がイメージできない項目についてはより意味が通るよう表現に修正を加えた。
4.研究3
研究3のヒアリングでは、研究2で修正された項目をもとに質問紙を作成し、乳児院・保育園の現場の職員に実際の子どもについて試行実施を依頼し、項目の最終精査を行った。項目の具体例の提示の仕方から、情報収集が難しい場合や、月齢的に回答が難しい場合などのチェックボックスの追加など、回答のしやすさを追求し、より養育現場で使用しやすいように検討し、質問紙に修正を加えた。
5.総合考察
保育園では、乳児院と生活形態が異なるため、項目によって答えやすさや答えにくさに関する内容が異なる部分もあるが、問われている内容からその子どもが示す特徴をイメージし捉えることが可能であれば、ある程度の状態像を把握することが可能であると考えられた。乳児院の現場では、今回提示された項目については容易に具体的な子どもの姿が想起されたことからも、これまでに関わってきた子どもたちとその親、家族の支援を通じて、様々な経験が蓄積されていることが想像された。
本研究で検討してきた子どものSOSサインは乳児院で蓄積されてきた経験をもとに作成された子どもの行動のリストであり、それを元につくった項目群は子どもの心の課題について関係性の評価や子どもの体験に力点を置いたものとなっている。もちろんこの質問紙は子どもの状態像を全て網羅するものではない。しかし、このような項目が用意されることで様々な背景をもつ乳幼児を見立てる視点がより明確になり、それを第3者に説明したり理解を促したり、入職者の育成も含め視点を職員間で伝達していく上でも役に立つと考えられる。ひいては全国的に乳児院の子どもの状態像に関するデータを入所時から経時的に蓄積することで、乳児院がどのように機能しているのか、社会的に乳児院の現状を伝えるときの根拠ともなりうる。
来年度は、虐待や不適切な養育によるアタッチメントやトラウマ等の心の問題を抱えた乳幼児が全国の乳児院にどれだけ存在し、どの程度の問題を抱えているのか、今回作成した項目を用いて実態を把握する。 -
研究「乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子ども―」について(結果概要版)
研究代表者名 武田 由(きょうと里親支援・ショートステイ事業拠点(ほっとはぐ))
「乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子ども―(2024年度研究)」の調査結果の概要版です。詳細は報告書をご確認ください。
研究「乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子ども―」について(結果概要版)ダウンロード
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パンフレット「子どもに出会い、子どもに関わるみなさまへ 子どもがしんどい時に出すSOSサイン」
研究代表者名 武田 由(きょうと里親支援・ショートステイ事業拠点(ほっとはぐ))
「乳児院において特別な配慮を必要とする子どもの実態調査―アタッチメントとトラウマ等の問題を抱えた子ども―(2024年度研究)」の中で作成されたパンフレットです。乳幼児期の子どもの心配な行動の理解のためにご活用ください。乳児院関係者だけではなく、児童相談所や自治体のこども家庭センター等の関係機関や里親との連携・情報共有にもご活用いただけますと幸いです。
※両面印刷して二つ折りにするとパンフレットの形になります。
※本パンフレットの一部および全てについて、事前の許諾なく無断で複製、複写、転載、転用、編集などの二次利用を固く禁じます。
